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消えゆく世界で星空を見る  作者: 星逢もみじ
果ての存在編

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二十三、顛末

「ここは……?」


 気が付くと月見里諦止は暗闇の中にいた。

 どこを見ても、ただ闇が広がるばかりだった。

 何かの気配を感じて後ろを振り返ると、目の前には逢調業身が立っていた。


「どうしてお前が!?」


 問いかけても返事をしない逢調に詰め寄ろうとすると、いつの間にか手に持っていた短刀で逢調の心臓を突き刺していた。


「……え?」


 状況が全く理解できずに、短刀を握っていた手を離すも、その手は真っ赤な血に染まっていた。


「そんな……」


 慌てて視線を戻すと、そこには逢調ではなく咲音が立っていた。

 逢調に刺したはずの短刀が胸に刺さったまま。


「な、なんで咲音が……!?」


 確かに逢調を刺した。

 そのはずだった。





「っ!! はあっ!! はぁ……!……夢……か」


 目を覚ますと、見知らぬ場所のベッドの上で横になっていた。


「……ここは?」


 声を発してから初めて喉が渇いている事に気づく。

 どうやら長い間眠っていたようだった。


「諦止っ!」


 懐かしさを覚える声に顔を向けると、凛心がベッドの横に座ってこちらを見ていた。

 その目の端には、涙を溜めているようにも見える。


「凛心?……ここは?」

「ここは私の部屋だよ。……何があったか覚えてる?」

「何があったか……」


 そう言われて思い出す。

 星影との死闘、そして逢調との戦いを。


「……ああ、覚えてる」

「その事で国王から話があるみたいだから、身体を動かせるようになったら――」

「すぐ行く」


 凛心の言葉を遮り、身体を起こす。


「え? 今起きたばっかりなんだし、もう少しゆっくりしてても……」

「大丈夫だ」


 心配してくれる凛心に申し訳なさを覚えたが、今の自分は犯罪者。

 どんな理由があろうとも、逢調を殺した事は事実だ。

 国王が呼んだのも、その罪に相応しい罰を与えるためだろう。

 なにせ、この国で初めての殺人犯だ。眠っている間に処刑されなかっただけでも感謝するべきなのかもしれない。


「覚悟はできてる。手早く話を済ませよう」

「諦止が大丈夫ならいいんだけど」

「ああ。……ん?」


 立ち上がったところで、鏡に映る自分の服装が違う事に気づく。

 その服装は桜護衆の正装だった。


「これは?」

「あぁ、汚れてたから服は変えさせてもらったの。代わりの服が桜護衆のものしか無かったんだけど……嫌だった?」


 犯罪者に着せる服では断じてなかったが、嫌かと問われれば答えは決まっていた。


「いや、全然嫌じゃないよ。……ところで、俺はどれくらい寝てたんだ?」

「丸二日。お医者さんは心配無いって言ってたけど、全然起きないから心配したんだよ?」

「二日も……」

「色々あったからね。疲れが溜まってたんだと思う」

「そうか。世話を掛けたな」


 その場で凛心に頭を下げる。


「全然問題ないよ。……あっ! そう、着替えさせたのは私じゃないから!……ってそれはどうでもいいか。と、とりあえず行きましょうか!」


 凛心は僅かに赤面しながら立ち上がって部屋を出る。

 その姿に軽く微笑みながら、先を行く凛心に付いていった。



 ♢



「すぅー……ふぅ……」


 執務室の前で深呼吸をする。

 止まらない足の震えを止めるためだったが、効果は無かった。


 国王から言われるであろう言葉は想像がついていた。

 死刑。

 その確かな恐怖が、みっともなく足を震えさせていた。


「……ふぅ……」


 最後にもう一度深呼吸をしてから足を前に動かす。

 執務室の前に立っていた長身の桜護衆は見当たらなかった。

 事件が解決して警備は必要無いと判断したのか、それとも復興の手伝いに行っているのか。いずれにせよ、凛心はそのまま執務室の扉をノックして入室する。


「失礼します」


 凛心に続いて部屋に入ると、国王は椅子に座りながら書類に目を遣っていた。

 その姿に、二日前とは違うどこか老け込んだような印象を持つ。


「おお、よく来てくれたな。もう躰のほうは大丈夫なのかね?」


 二人の存在に気付いた国王は、手に持っていた書類を机に置く。


「はい。怪我の治療までしてもらったようで、ご迷惑をおかけしました」

「いやいや当然のことだよ、桜護衆でもない君に無理をさせてしまったわけだしな。そうだ、何か欲しいものはないか? あれば今回の件の褒美としてやろう」

「褒美だなんて。国王様が思うほどの事は何もしていませんので」

「ん、そうか? 十分褒美に見合うだけの事をしていると私は思ったんだが」


 想像とはまるで違う展開に混乱する。

 褒美だなんて急に言われても何も思いつかなかった。

 まさか減刑を望んだところで叶わぬ願いだろうし、今際(いまわ)(きわ)にそんな醜態を晒すのも気が引けた。


「……でしたら、凛心に何か差し上げてください」

「えっ?」


 まさか話が振られると思っていなかったのだろう。

 隣に立っていた凛心が声を漏らす。


「……ほう?」

「ちょ、ちょっと!?」


 凛心の抗議の声を無視して続ける。


「今回の件で私は彼女に助けられてばかりでした。どうしてもとおっしゃるのなら、凛心の望む物を差し上げていただけませんか?」


 正直な気持ちを口にする。

 実際、こうして生きていられるのは凛心のおかげだった。


「そうか。それが君の望みなら、その気持ちを尊重しよう」

「私が褒美だなんて。桜護衆として当然の事をしたまでで……」

「お前の言いたい事は分かる。だが、他人の幸せが自分の幸せだという人間も存在する。それが月見里君の望む褒美だと言うのなら、しょうがあるまい」

「……本当にそれでいいの? もう少し考えてからでもいいんだよ?」

「もう決めたんだ。申し訳ないが受け取ってくれ」


 食い下がる凛心にきっぱりと告げる。


「……はぁ……分かりました。でも今は何も思いつかないので考えておきます」

「何か決まったら教えてくれ。一応言っておくが、当然期限はないからじっくり考えてもらって構わないからな」

「分かりました」

「……さて、そろそろここへ呼んだ理由について話すか」


 国王の表情が険しい顔つきに変わる。

 それまでの穏やかな空気とは打って変わって、緊張した空気が場を支配した。


「といっても、長い話にするつもりはない。既に決まったことを交えて話すことになる」

「っ……」


 緊張で全身が硬直する。

 呼吸をする事がこんなに大変な事だとは思わなかった。


「最後に確認しておきたい。……逢調を殺したのは月見里諦止、君だな?」

「……はい」


 正直に認める。

 その言葉を口にした瞬間、胸に鈍い痛みが走った。

 人を殺した。

 理解していたつもりだったが、いざ言葉にされると犯した罪の重さを再認識させられる。


「そうか」


 国王の言葉を最後に長い沈黙が部屋を包む。

 生唾を飲み込み、国王の次の言葉を待つ。


「私がこの国の王になってから殺人事件が起きた事はない。知ってるかな?」

「……はい」


 言葉の一つ一つが重く背中にのしかかる。

 今すぐにでも頭を下げて謝ってしまいたかった。


「詳しい経緯は省くが、実は私はある()()付きでこの国の王になっていてね」

「条件ですか……?」


 そんな条件付きで国王になっているとは想像だにしていなかった。


「その条件は、この国で殺人事件を起こさせない事だった。これまで殺人事件が起きないように色々手を尽くしてきた。が、つい先日それも終わりを迎えた。隠蔽しようにも目撃者が複数いたようで、どうしようもなかった」

「……国王様。目撃者がいなければ隠蔽していた、というような言い方はやめてください」


 国王のその言葉に、凛心が眉をひそめながら口を挟む。


「ああ、そうだな。すまん」

「……謝って済むことではありませんが、本当に申し訳ありませんでした」


 凛心と国王の会話に割って入るように、謝罪の言葉と共に頭を下げる。

 部屋を取り巻く空気の重さに、これ以上頭を上げていられなかった。


「……正しい行為だったとは決して言えない。けど、躊躇(ためら)っていたら諦止が殺されてたと思う。……だから謝らないで」

「だが、それでも責任はある」

「それは――」

「責任を取る、ということでいいかな?」


 その言葉を待っていたと言わんばかりに、凛心の言葉に国王が被せる。


「はい。もし出来ることがあるのなら」

「そうか。実は君が眠っている間に色々と考えてな。その時一つの案が浮かんだ」

「……案ですか?」


 国王の言葉に凛心が不安そうな顔をして聞く。


「そうだ。凛心にもまだ言っていなかったが、月見里君には桜護衆になってもらいたい」

「え?」

「……は?」


 責任を取るという話からどうして桜護衆になるという話になるのか、国王の言っている事が理解できなく、凛心と顔を見合わせる。


「こ、国王様、一体どういうことですか!? なにがどうなってその結論に至ったのか全く分からないのですが!」


 明らかに動揺した様子の凛心を無視して国王は続ける。


「今回月見里君が殺害した逢調は悪人だった」


 悪人。

 間違っていないはずなのに、どうしてかその言葉が胸につかえる。


「仮に逢調が生きていたとしても、犯した罪からして死刑になるのは間違いなかった。……なので、法に(のっと)って処刑したという事にしてしまえば何も問題が無いわけだ。これまで死罪に値する人間が存在しなかっただけで、この国にもしっかりと法律は存在するからな」

「……桜護衆の名の下に処刑した事にすると?」

「そうだ」


 納得いかない様子の凛心の問いに、国王は何の迷いも無く断言した。

 確かにこれなら何の問題もないように思えたが、一点だけ気になることがあった。


「目撃者はどうするのですか?」


 目撃者がいたということは、逢調との戦いを見られたということだ。

 あれが法に則った処刑だとは、とてもじゃないが言い(がた)かった。


「その事に関しては、逢調が脱獄して桜護衆を殺そうと暴れたので止むを得ず、ということにする。実際に逢調は脱獄しているわけだしな。皆もきっと納得してくれるだろう。……それと、これは気休めにしかならないと思うが、どちらにせよ逢調は死刑になるはずだった。君が気に病むことはない」


 その言葉には何も返す事ができなかった。

 国王の言う通り、あの時殺していなくても逢調は遠からず処刑されていただろう。

 だが、それでも気にするなという言葉には違和感しかなかった。

 あの時。逢調を殺した時の自身は、無機質で公正な法とはまるで真逆の私情に満ちていたからだ。


「……でも、桜護衆になるということはここで暮らすということですよね? 諦止には諦止の生活がありますし」

「それで全て丸く収まるなら、俺は構わない」


 その言葉に、またしても違和感を覚える。

 国王の言う通り、桜護衆になれば全てが丸く収まるだろう。

 それなのに、何かが胸に引っ掛かった。


「生活か。……そうだな。答えを聞く前に、先にポソリ村の事について話しておこう」

「そうだ! ポソリ村の人達は無事だったんですか!?」


 ポソリ村の警護を頼んだ事を思い出して思わず声が大きくなる。


「君の要望通り、あの後すぐポソリ村に桜護衆を派遣したのだが……」


 国王の歯切れの悪い言葉に胸中に暗雲が立ち込める。


「……まさか……」

「いや、ポソリ村自体は無事だ。だが、桜護衆と共に戦ってくれた村人が数名亡くなってな、その中には月見里君、君の両親の名前もあった」


 絶句する。

 両親の性格を考えれば予想できないわけではなかった。

 だが、これが現実だと告げられてもとても受け止める事はできそうになかった。


「……本当に、両親で間違いないんですか?」


 震える唇を動かして、なんとか言葉にする。


「ああ、ポソリ村の人に聞いたから間違いないとのことだ。……本当に残念だが」


 それが恐らく本当のことであるというのは、頭の片隅で理解していた。

 それでも、いくら説明されても理解したくなかった。


「私から話せることは以上だ。今はそんな状態ではないと思うが時間が無い、答えを聞かせてくれ」


 両親の件は確かにショックではあったが、それでも答えは最初から決まっていた。


「……やります。ポソリ村の件とは別問題なので」


 その言葉を聞いて、国王は安心したような表情をする。


「そうか。では新たな桜護衆として、当面の間は凛心の指示の下動いてくれ」

「え、私ですか!?」


 国王の言葉に凛心は驚いた声を上げる。

 全く想像していなかったのだろう。


「月見里君を一番知っているのは君だと思ったんだが、嫌なら別の者に頼むか……」

「い、いえ! 分かりました!!」

「よし。私は今回の顛末を国民に説明しなければならないのでな、ここまでにしよう。二人とも、本当にご苦労だった」

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