二十、最後の戦い
「はぁっ……っく……!」
弓隊と協力して変星を倒し続けていたが、シアエトの体力はもう限界だった。
戦闘の最中だというのに、膝に手をついて肩を揺らす。
「くっ……っつぁ!!」
力を振り絞り変星を倒す。
その瞬間、膝に力が入らずに地面に崩れ落ちる。
「シアエト様っ!……ここは私達に任せて、一度桜城内に戻って休憩を!!」
「……そう……ね」
本来ならこのまま戦い続けなければならなかったが、このままでは足手まといになるだけだと判断して桜城へ向かって歩いて行く。
「桜城まで援護します!」
桜護衆の言葉に、シアエトは力無く諭す。
「やめろ。ただでさえ戦力が足りてないんだ。桜城に戻るぐらいなんてことはない、お前たちは一秒でも長く時間を稼げ、いいな?」
「……分かりました」
「よし、任せたぞ」
♢
(……ここまで衰えていたとは、歳は取りたくないものだな……)
桜城に戻る途中にも、お構いなしに襲い掛かって来る星影を倒しながら桜城に向かう。
すると、どこからか声が聞こえてきた。
「……れ……か……」
(子供の声?)
声の聞こえる方へ顔を向けると、そこには瓦礫に挟まれて動けなくなっている少年の姿があった。
「っ!」
その様子を見て、すぐさま瓦礫を退かしにかかるも、疲れ果てた躰ではそう簡単にはいかなかった。
「っしょ……っ!?」
その異変に気付いた時には既に手遅れだった。
気を抜いていたわけはなかったが、少年に意識を向けていた分、反応が遅れてしまった。
「ぐっ!」
がくん、と躰が崩れ落ちそうになる。
痛みを感じる腕を見ると、星影に喰われたと思しき穴が開いていて、腕の半分が千切れかけてしまっていた。
当然、傷口からは大量の血が流れ出していた。
傷口を見て星影に喰われたのだと、すぐに理解する。
「とんだヘマを……はぁっ!!」
自身を襲ったであろう星影を叩き潰して、躰全体を使って瓦礫を退かす。
「大丈夫か!?」
「あり、が……」
そう言うと、少年は安心したのか気を失ってしまった。
「良かった……」
安堵した瞬間、月明りを隠すように影が伸びる。
振り返ると、そこには変星と戦う桜護衆達の姿があった。
その中の一人の桜護衆がシアエトの存在に気付き、次の瞬間には驚愕の表情でシアエトの腕を見た。
「シアエト様、その怪我は!?」
「問題ない」
「っ、そんな訳がないでしょう!! すぐに処置しないと!」
焦る桜護衆を余所に、落ち着き払いながらシアエトは口を開く。
「私の事はいいから、この子を頼む」
「……分かりました。では、シアエト様も一緒に行きましょう!」
桜護衆の言葉にシアエトは自身の腕を見て、傷と出血を確認してからゆっくりと瞼を閉じる。
「……いや、私は変星を倒す」
「なっ!? 馬鹿な事を言わないでください! そんな事をしたら――」
「どちらにしても、この出血じゃ末路は決まってる」
「そ、そんなことっ!!」
話している最中にも星影が襲い掛かり、変星も近づいてくる。
その光景を見て、シアエトは胸ポケットの中から黒色の長い布を取り出すと、千切れかけている腕に巻き始める。
それ見ていた桜護衆は、果たしてその行為に意味があるのか疑問だったが、シアエトはそうすることで覚悟が決まったようだった。
その眼には、もう変星達の姿しか映っていなかった。
「最後の命令だ。お前はその子を桜城まで連れて行け。いいな?」
「……はい、シアエト様……っ!」
桜護衆は渋々頷いた後、何かを言おうと口を開きかけて止めた。
そして、そのまま何も言わず少年を抱きかかえたまま走って行く。
その姿を見届けた後、シアエトは赤い髪を靡かせながら桜護衆達の先陣を切って走り出した。
(これが、私の最後の戦い)
過去に散っていった仲間に恥じないような戦いを見せようと思うと、胸の奥に熱いものが滾ってくるのを感じた。
その感覚は、人神戦争以降感じていなかった高揚感だった。
あの世の存在など毛ほども信じていなかったが、今この時だけは先に逝った仲間に自身の勇士を見せてやりたいと強く願った。
「私に続け!! お前達の武勇をこの私に見せてみろ!!」
後ろに続く桜護衆に聞こえるように吠えながら、四方八方から襲い来る星影を切り捨てて変星に向かって走る。
疲労も腕の痛みも、何も感じなかった。




