十九、変星
「はぁっ……はぁっ! 本当にキリがないな!」
老体ながら星影を全く寄せ付けずにいたシアエトも、長時間の戦闘で目に見えて疲労の色が濃くでてきていた。
「シアエト様、大丈夫ですか!?」
その姿に見かねてか、桜護衆の一人が声を掛けてくる。
「私は大丈夫だから、気にせずに集中しなさい……!」
「は、はい!」
傍から見ても星影とシアエトの戦力差は歴然だったが、それでも気にかけられる程にシアエトは疲弊していた。
(これぐらいで心配されるとはね……)
ふらつくシアエトに星影が左右から同時に襲い掛かる。
「っ! シアエト様っ!!」
「っふ!」
無駄のない的確な動きで、襲い掛かってきた星影を一瞬にして倒す。
あまりにスムーズな動きで、傍から見ている者からすれば、その場から動いていないのではないかと錯覚させるほどの体捌きだった。
「……すごい……」
「気にするなと言ったはずだぞ」
「あ、すみませんっ!!」
狼狽える桜護衆を無視して、次の星影も難なく薙ぎ倒す。
時間稼ぎをするには、怪我をせずに体力も温存しなければならなかったが、体力面に関しては既に底を尽きかけていた。
それでも、この状況で戦線を離脱することはできずに、重い躰に鞭を打って戦い続けていた。
そんな中、シアエトには憂慮している点が一つあった。
それは変星の存在。
これだけの数の星影が降り注いでいるのにも関わらず、変星の存在は今まで確認できていなかった。
別の場所に出現しているという情報も未だ入っておらず、どこか引っ掛かりを感じたまま戦いを続けていた。
変星だけなら対処のし様もあったが、星影が降り続くこの状況では、たとえ変星の数が数体であっても致命的だった。
(現れないなら、それが一番良いんだけどな)
そんなシアエトの期待を裏切るように桜護衆の声が響く。
「シアエト様!! 変星が出現しました!!」
「っ! 思い通りにいかないな……!」
可能な限り早く処理しなければ戦線が崩壊する。
周囲に舞う星影を倒しながら変星の下へ急いだ。
♢
「くそっ、やはり現れたか!」
「そうですね! はっ!」
国王と凛心は星影を狩り続けながらも、変星の存在を視認していた。
「部隊の半分は高所を取って弓で狙撃しろ! 残りの半分は私と共に変星を引きつけながら星影を処理する、いいな!」
星影に混ざって出現した変星に対応するために、国王が桜護衆達に指示を飛ばす。
目視できた変星の数は約二十体。
一体だけでも十分に脅威となる状況だっただけに士気の低下が懸念されたが、桜護衆達の眼は死んでいなかった。
むしろ、国王やシアエトに武勇を見せる時だと言わんばかりに、熱が増したとさえ感じられた。
「諦止は私と一緒に一体でも多く星影を倒して!」
「分かってる……っ!」
弓を引いたことなど無かったため、凛心と共に星影を倒し続ける。
星影が不規則な動きをするといっても、連戦に次ぐ連戦で些か慣れてきたところはあり、諦止は一体ずつであれば難なく倒せるほどには成長していた。
「おおおぉぉ!!!」
国王は崩壊した家や瓦礫を足場にして変星を単独で倒していた。
そんな状況ではないと分かってはいたが、常人には不可能な動きを見せる国王の姿に思わず見惚れてしまう。
「はぁ!!」
そんな無防備な諦止を喰らおうとする星影を、凛心が横から斬り伏せる。
「凛心!」
「よそ見しない!……って言っても、あんなことされたら無理ないか」
躰の動きは止めずに、苦笑いしながら凛心は呟く。
「強いって事は何度か手合わせして分かっていたけど、正直ここまでとは思わなかったわ」
話してる間にも、国王は既に一体変星を仕留めていた。
弓隊の狙っていた変星は、国王が二体始末してからようやく動きを止めていた。
絶望的だと思われた状況だったが、ここまでは想像していたよりも遥かに軽い被害で済んでいた。
「しかし、ここには国王がいるからいいが、他の場所は大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ」
諦止の疑問に凛心は即答する。
「……シアエト様か?」
脳裏に浮かぶ、もう一人の英雄の名前を口にする。
「うん。あの人も国王様と同じぐらい強いからね」
「そんなに……。それなら安心だな」
諦止は目の前で勇ましく戦う国王を見ながら、安堵の声を漏らした。




