十四、秘密
「さて……」
国王は椅子に座り直して、その場に立つ人物を見る。
逢調は悪びれる様子が一切無く、毅然とした態度で同じように国王を見つめていた。
「……これからいくつか質問をするが正直に答えてもらいたい。嘘をついていると判断すればお前の罪は更に重くなる。いいな?」
「くっくっ。これ以上重い罪ってのがあるのか気になりますが。……いいですよ、粟峯さん達にははぐらかしましたが、あなたには正直に答えましょう」
逢調は射貫くように真っすぐ国王の目を見つめて答える。
その姿に不気味なものを感じずにはいられなかった。
「まず動機についてだ。お前は何故――」
「神の復讐、って言ったらどうしますか?」
表情を変えずにさらりと告げる。
「……なに?」
「おやおや、これは思った以上に動揺している様子。くっくっ、冗談ですよ。自分はただやりたいからやっただけなんでね」
「……何故こんな真似をした? 冗談で済まない事ぐらい分かっていたはずだが」
「ええ、もちろん分かってましたよ。……でもねぇ、どうしても」
それまでの芝居がかった声と違い、僅かに感情の籠った声音になる。
「どうしても、この世界は気に入らなかった。あんたみたいな人間を持て囃す世界がね……!」
逢調のその言葉に、国王は目を見開いて再び聞き返す。
「どういう意味だ?」
「どういう意味? それはあんた自身が一番よく知ってるんじゃないですかねえ? 桜樹国には定期的に行方不明者が現れている事も知らないと?」
「……貴様、どこまで知ってる」
「さぁて? だが、あんたが殺してきた人の中にちょっとした知り合いがいてね」
その言葉に国王は血の気が引く。
どうして逢調がその事を知っているのか。
夢霞の読心術を使って、周囲に人がいないことを確認してから行動に移していた。誰にも見られないように徹底していた。
その甲斐もあって、この五十年間で殺人を犯そうとする人間を秘密裏に始末していても、誰にもバレていなかった。
なのに何故逢調はその事を知っているのか、その理由がまるで分からずに背筋に冷や汗が流れる。
「……仕方なかったんだ。一時の感情で殺人を考える者を止めることはできても、殺人を固く誓った人間は改心させることはできなかった。それなら犠牲は最小限で済ませるのが力を持つ者の努めだと思ったんだ」
国王の言葉に逢調は顔を歪ませる。
「…………へえ。どうやら本当に当たってたようだ」
「っ!? まさか謀ったのか!」
国王は思わず席を立ちあがり前のめりになる。
その様子に逢調は目を伏せながら、呟くように答える。
「確証は無かったんですがね。あんたほどの力を持つ人が、いつまでも数少ない行方不明者を見つけられないわけがない。そう思ったらピンと来るものがあったんですよ。いくら世界を救った救世主といえど、殺人ゼロの国なんて作れるのか? とね。……だけど、まさか本当だったとはね」
「……お前は、私に殺された人間の復讐をするために封印結晶を壊したということか」
「まぁ、理由を付けるならそんなとこですかね。桜護衆として潜り込んだ時は、まさか封印結晶だなんて都合のいいもんがあるとは思ってなかったですが」
「私に復讐する為に、星影の封印を解いたのか」
「そういう事になりますかねぇ?」
互いに言いたい事を言ったからか、一度会話が途切れる。
暫くの間外の喧噪だけが部屋を満たした。
「いくつか質問しよう。あの氷柱はどこで手に入れた?」
「さてねえ? 散歩してたら道端に落ちてたんだったかなぁ? くっくっ」
「……最後の質問だ」
「おや、もういいんですか?」
逢調は小馬鹿にした態度で、薄く笑みを浮かべながら意外そうな顔をして言う。
挑発に似たその様子を無視して、最後に少しだけ気になっていた事を聞く。
「お前は何故ポソリ村の山道にいた? あの場所は封印洞窟から逸れた場所にある。逃走経路にしては、些か不思議じゃないか?」
その問いに逢調の顔から笑みが消え、辟易したように溜息をつく。
「はぁ、またその話ですか。一度身を隠すために脇道に逸れただけですよ」
「身を隠す? 何からだ? 封印結晶を壊した事をあの時知っていたのは、お前に気絶させられた桜護衆だけのはずだが?」
「確かにそうですが、もしかしたらすぐに意識を取り戻すかもしれないでしょう? もしそうだったら、ポソリ村を通って桜樹国まで一直線に向かってくるかもしれないじゃないですか。……念のためですよ」
国王の目には逢調が何か隠しているように見えたが、当の本人が話そうとしないのなら、これ以上何を聞いても無駄だと判断する。
仮に何か隠しているにしても、そこまで重要な情報ではないだろうと結論付けて、執務室の扉に目を遣った。
「オンヴィ!」
国王の声と同時に扉が開かれる。
現れたのは執務室の前に立っていた長身の桜護衆だった。
「逢調を牢に入れておけ」
「分かりました」
逢調は一切の抵抗をせずに、そのまま連れて行かれる。
だが、去り際にもその不敵な笑みは崩れることはなかった。




