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消えゆく世界で星空を見る  作者: 星逢もみじ
果ての存在編

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十二、一縷の望み

「……! 見つけた!」

「っ! きたか!!」


 その報告と共に夢霞が姿を現す。

 この数日間待ち望んでいた言葉がようやく聞けて、国王は声を上げながら立ち上がる。


「この空の遥か彼方に、微かだけどこれまで感じたことの無い奇妙な気配を感じる……」


 夢霞は目を閉じながら、部屋の中から空を指差す。


「……それで、行けそうか……?」


 恐る恐る確認する。

 果ての存在を確認することができても、そこまで辿り着けなければ意味が無かった。

 そんな国王の不安を払拭するように、夢霞は落ち着いた声音ではっきりと告げる。


「ええ、恐らく問題ないと思うわ」

「よし!」


 諦止から譲り受けた黄金色に輝く氷柱を引き出しの中から取り出す。

 そして、何かを包んである布も同時に取り出した。


「……相変わらず、とてつもない力ね」


 国王の取り出した二つの品を見ながら夢霞は声を漏らす。


「時間が無い。さっそく力を取り戻してもらうぞ、この封印結晶でな」


 言いながら布を解くと、机の上に封印結晶の破片が散らばった。


「これで届くといいけど」


 夢霞は落ち着いた様子でその破片に手を触れる。

 すると、封印結晶の欠片は緑色の眩い光を発して消えてしまった。


「……どうだ? 力は戻ったか?」


 何も言わずにいる夢霞にしびれを切らして口を開く。


「……たったこれだけで元の力を取り戻せるか正直不安だったけど、大丈夫みたい。封印の効力は失っても、封印結晶に残る魔力自体に影響は無かったようね」


 その言葉に国王は一息つく。


「そうか。では、残る問題は後二つか」

「二つ? 一つでなくて?」


 夢霞は心底から分かっていないという様に、小首を傾げながら聞いてくる。


「いや、二つだ。一つは月見里君の持ってきたこの氷柱が果ての存在に効くかどうか」

「もう一つは?」

「最後の一つは、夢霞。お前が無事に戻って来れるかどうかだ」

「……あぁ」


 そんな事かと言いたげに夢霞は声を漏らす。


「分かっていると思うが、お前がいなければこの国は崩壊する。そうすれば――」

「分かってるわ、できるだけ善処する。でも、もし帰らなかったらその時はどうするか考えているの?」

「……考えてもどうしようもない事は起きてから考える。お前の言葉だったと思うが」

「あら? そうだったかしら?」


 本当に覚えていないのか、不思議そうな顔をしながら国王の顔を見る。


「とにかく、何としても帰って来てもらわなければならない。……これまで死んでいった者のためにも。それを肝に銘じていてくれ」

「……そうね」

「さて、長話している時間もない。行ってくれ」

「ええ」


 強引に話を終わらせて催促する。

 夢霞は頷いた後、封印結晶の欠片と同様に黄金の氷柱に手をかざす。

 すると、再び緑色の光を放った後、黄金の氷柱は消え去った。


「それじゃあ行ってくるわ。私が帰って来るまで、精々頑張りなさいな」


 穏やかな笑みを浮かべながら夢霞は姿を消す。

 執務室には、最初から誰もいなかったかのような静寂が広がっていた。


「帰って来るまで、か。……シアエトを呼んできてくれ」


 扉を開けて執務室の前で待機している桜護衆に声をかける。

 夢霞が果ての存在を殺すまで、どうしても時間を稼がなければならなかった。


「……っ……」


 窓の外を苦々しく見つめる。

 倒れている人々、崩壊した家々。

 見慣れた景色はこの数日で変わり果てていた。

 ここ二日間、桜樹国は百体は超えるであろう星影達によって襲われ続けていた。


 それまでの星影だけならさほど被害はでなかっただろうが、新たに現れた巨大な星影である変星(へんせい)は数メートルの大きさがあり、猛者揃いの桜護衆達を苦しめていた。

 その結果、死傷者は増え続け、この調子で星影が増え続ければ後二日もつかどうかという瀬戸際にまで立たされていた。


「呼んだか?」

「おお!」


 執務室の扉を開けて、真っ赤な髪と赤を基調とした和服に身を包んだ還暦は迎えたであろう女性が入ってくる。


「よく来てくれたなシアエト」

「国王様に呼ばれて行かないわけにはいかないからな」


 扉の前にもたれかかりながら、老齢に似つかわしくない鋭い眼光を国王に向ける。


「……随分と機嫌が悪そうだな」

「どうしてそう思うんだ?」

「普段は国王様だなんて呼び方はしないだろう。それにそう睨まれては……果ての存在についての作戦を秘密にされていることがそんなに不満か?」


 国王のその言葉にシアエトは語気を強める。


「不満かって? ああ不満だね、長年一緒に過ごしてきてどうして隠すんだ、それもこの私に!」

「……言いたい事は分かるが深い訳があるんだ、察してくれ」


 国王とシアエトは人神戦争の際にも共に戦ったことのある旧知の仲だった。

 シアエトは人神戦争後も国王の傍にいることを選び、五十年経った今でも国王の傍で仕えていた。


「はぁ。もういいから早く用件を言ってくれ、こっちも忙しいんだから」

「聞きたい事は逃げ遅れた民間人はいないか、その確認だけだ」


 その言葉にシアエトは再び苛立ちを露にする。


「……おい、もしかしてそのためだけに呼んだのか? そんな事他の桜護衆にでも聞けるだろ」

「いや、ついでにお前とも話したかった」


 国王の言葉を聞くや否や、これまで荒々しかったシアエトは急に大人しくなり、気まずそうに口を開く。


「……ついでっていうのが気に入らないけど、まぁいいか。確実にとは言えないけど、報告で聞いた限りでは全員避難済みだ。これでいいか?」

「そうか。分かった、ありがとう」


 それだけ聞くと国王は再び窓の外を見る。

 シアエトは困惑した様子で、その後ろ姿に声を掛ける。


「……ちょっと待て、本当にそれだけの用事で呼んだのか?」

「あぁそれと、次星影が現れたら私も戦いに参加することにした」

「……本当なら全力で止めてるとこだけど、こんな状況じゃそうも言ってられないか。でも、分かってると思うけど、あんたは世界の希望なんだから無理するなよ」

「分かってる」


 シアエトの忠告に、窓の外を眺めたまま即答する。


「……絶対分かってないな。まぁ、もし危なくなっても私が守ってやるから安心しとけ」

「ふっ、そうだな」


 こんな状況だというのに、シアエトの言葉に思わず笑みが零れる。

 この絶望的な状況でも不安をあまり感じずにいられるのは、彼女のおかげと言えた。

 彼女といると人神戦争の時を思い出すのか、不思議と力が漲ってくる。


 シアエトとの話が終わり、再び執務室の扉が閉まる。

 国王は喧噪を少し遮った室内の音を耳にしながら、神城跡地に送った凛心達の無事を祈っていた。

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