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消えゆく世界で星空を見る  作者: 星逢もみじ
果ての存在編

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12/38

十一、危険な賭け

「くっ!」


 巨大な星影の攻撃を避ける為に、常に走り回っていた凛心に打開策を考える余裕は無かった。

 徐々に体力を削られ続け、最悪の結末が脳裏を過る。


(どうする……このままじゃ……!)

「粟峯さん!」


 逢調の声が聞こえた気がして顔を向けると、逢調が笑みを浮かべながら立っていた。


「逢調? どうして……まさかっ!」


 諦止の姿が見えない事に、一瞬心臓を掴まれたかと錯覚するほどの衝撃を受けたが、逢調の言葉を聞いてそれが杞憂だったと悟る。


「凛心さん、できるだけそいつから離れてください!」

「え?……わ、分かった!」


 詳しい事は分からなかったが、何か意図があるということだけは察することが出来た。

 逢調が逃げるような素振りを見せていたら話は別だったが、逢調も凛心と並走するように付かず離れずの位置をキープしていた。


(一体どういう……)


 息遣いと共に巨大な星影との距離は目に見えて開いていく。

 すると、その星影の更に後方から馬が地を駆る音が聞こえてきた。


「え?」


 振り返ると、諦止が馬に跨り全速力で星影を追いかけてきていた。


「諦止!?」


 足を止めるも既に星影との距離は諦止の方が近く、凛心の代わりに諦止が狙われる形となる。

 急速に方向転換してきた巨大な星影に驚いた馬は、背に乗る人間に構わず急ブレーキをかけた。


「ぐぉっ!!」


 それに合わせて諦止は自らの躰を放り出し、勢いをそのままに星影の真上に投げ飛ばされることになった。

 巨大な星影は上空の諦止に狙いを定めて向きを変える。


「諦止っ!!」

「今だ!」


 聞こえた声に凛心は反射的に逢調へ視線を向けた。

 逢調は小刀を手に星影に向かって走っていた。

 向かう先には星影の弱点である星群。

 その瞬間に全てを理解した凛心も逢調と共に星影に向かっていく。


(間に合えっ!)


 そう思う凛心の眼前には既に星群だけが広がっていた。


「しっ!」

「はあっ!!」


 そして、逢調とほぼ同時に攻撃を仕掛ける。

 見た目に反して質量を全く感じず、巨大な星影は二人の攻撃を受けて数メートルほど吹き飛ばされていく。


「はぁっ……はぁっ……」


 巨大な星影が動かなくなったことを確認して、凛心は辺りを見回しながら声を出す。


「……諦止……諦止!!」


 静寂が辺りを包む。

 間に合わなかったのか。

 そう思った矢先、聞き慣れた声が耳朶を打つ。


「……俺は大丈夫だ……」

「諦止!?」


 声のする方に顔を向けて探すと、倒れている人影が見えた。


「諦止っ!」


 駆け寄り、思わず抱きしめる。


「凛心……?」

「本当に大丈夫なの?」

「ああ、躰を打っただけでそこまでダメージは……無い」


 起き上がらずにいる時点で嘘だとバレていると思ったが、少しでも凛心を安心させることができるならと虚勢を張る。


「それより星影はいいのか? 落下してる最中に少し見えたが、あれだけで倒せるとは思えないんだが」


 天然の星空を見上げながら呟く。

 その言葉に返してきたのは、逢調だった。


「それは大丈夫みたいですよ。近寄ってもぴくりとも動かなかったんで。念のために何度か斬ってきましたが、まぁ無駄な労力だったとは思いますね」


 逢調の機転によって窮地を脱する事ができたが、咲音の仇と思うと何を言う気にもなれなかった。


「……それより、どうして諦止があんな事をしたのか説明してもらえる? 囮役ならあなたがするべきでしょ?」


 凛心は言葉に怒りを込めながら逢調に詰めよる。


「怒らないでくださいよ。あれはその人が自ら志願したことなんでね」

「諦止が?」


 凛心が諦止を見る。


「……こいつにそんな大役を任せられなかったんだ。直前に不穏な事も言っていたし、そのまま走り去るかもしれなかったからな」

「まぁ、その可能性は……ありましたね」


 逢調は悪びれもせずに答える。


「なんにせよ、もうあんな無茶はしないでね」

「ああ、分かった」


 凛心を落ち着かせるためにも頷いておく。


「……それにしても、巨体の割に耐久力は無かったな」

「そうだね。通常の星影と同じぐらいだったと思う」


 自力で動けるようになるまで、野原の上で考える。

 個体差や形状に違いがあることは古文書にも記されていたが、ここまで大きい星影が現れることまでは記されていなかった。

 古文書には星影が現れてから三日目に魔法使いが現れ、封印を施したと記されていた。

 もし封印されていなかったら、巨大な星影も現れていたということなのだろうか。


(考えても仕方ないか)


 全身に痛みは感じたが、辛うじて自力で立つことが出来るまでは回復する。


「これで終わりとも限らないし、躰が大丈夫そうならそろそろ出発したいんだけど……大丈夫?」

「ああ、俺は大丈夫だ。……それより、こいつはどうするんだ?」


 巨大な星影を見ながら言う。


「これまでと同じなら自然に消滅すると思う。幸い周りに誰もいないし、もう動くこともないと思うから放置しても大丈夫だと思う」

「そうか」


 よろよろと歩きながら先ほど驚かしてしまった馬の元へ行き、首を撫でながら謝る。

 その間に、凛心は逢調に再び手錠をかけて小刀を取り上げていた。


「それにしてもあんなのが出て来るとはね。桜樹国はどうなってるのやら」

「あなたが心配するようなことじゃないでしょ」


 真顔のままツッコミを入れる凛心は桜樹国を思ってか、不安そうな顔をしていた。


「しかし、実際大丈夫なんだろうか。あんなのがあっちにも現れてたら……」

「……桜樹国には優秀な人達が集まっているからきっと大丈夫よ。いざとなれば国王様もシアエト様もいるし」


 凛心は落ち着いた様子で話していたが、桜樹国には守るべき民がいる。

 今回現れた巨大な星影が桜樹国にも現れていたとしたら、例え対策を講じていたとしても被害は甚大だっただろうと容易に想像できた。


「シアエト様か。国王様と人神戦争を共に戦った女傑がいるなら、確かに安心できるな」

「ま、それならいいんですけどねぇ?」


 皮肉めいた返しをする逢調を無視して、凛心は号令を出す。


「それじゃあ、桜樹国に向けて出発しましょうか」


 輝く天然の星空に意識を奪われつつ、桜樹国に向かって進んでいく。

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