-【1-4】-ウンコの女神
カンチョー岩から、突如として現れたその大きい何かは…
身の丈は3メートル弱、
朱色と紺色をした独特の柄の入った薄汚れた白いローブを着て、
穏やかな表情が描かれた円形のお面をつけ
体の凹凸から女性である様に見えた。
その存在は、落胆する様に、膝から崩れ何かブツブツと小さい声で喋っている。
少年は突然現れた異形の存在に慄き、まごついている。
だが即座にその場から逃げ出さず留まったのは
腰が抜けたからではなく、どうしても確認したい事がいくつかあるからだ。
白くて大きな異形は
しばらくブツブツ言いながら動こうとしなかったが
次第に、キョロキョロと周りを見渡し始めた。
そして、少年に気づきハッと見つめ合う。
「…おや。あなたは人間ですね?御機嫌よう」
それは悠長に挨拶をし始める。
「何と言えば通じますか……そうですね…私は女神。貴方は?」
女神と自称する巨大な彼女は、少年に近付き膝を畳んで彼の視線に合わせてくる。
「驚いてるのですね。そうでしょう。
この様な美しい女神が現れてさぞ動揺している事でしょうね。
大丈夫。私は美しいだけで無害ですよ」
少年は、女神の言葉を、目をまん丸にしたまま聞き流していたが
あんぐりと開けた口からようやく言葉を放りだす。
「ぅ……の…め…み」
「はい?なんですか?」
女神は、ようやく発された少年の言葉を
聞き逃さまいと傾注する。
その女神の近々の眼前で、少年は渾身の大声でこう言った。
「ウンコの女神!!でっかいウンコの女神だ!!!!」
少年からして見れば、山頂に埋まる巨大な尻が開き
その穴から飛び出てきた存在が、女神を自称するなら
どう考えてもそれはウンコの女神
登場する時の効果音をつけるならばブリブリブリ以外にはありえない。
「う…うんこ……………ふぅ…お待ちなさいな人間。
そんな女神などいませんよ」
女神は、少し含みのある間を空けて少年を威圧した後、深呼吸してから優しく諭す様にそう言った。
「え〜!だってカンチョー岩の尻の穴から産まれたじゃないか!ウンコの女神だよ!でっかいウンコの女神!!」
「私は黎明の神フロアウトと夜陰の神ハーテンティールの娘、昼光の女神マティテ。不浄から遠き存在です」
「冷麺フロート?ヤテンハテンテ?よくわかんないよ!ウンコの女神だろ!隠さないでよ!!」
「やめなさい」
「うんこ!でっかいウンコの女神ぃ〜!」
「いい加減にしなさい。人間」
「ウンコ!ウンコ!でっかいウンコ!!」
「ふんぬッ!!」
手拍子までしながら、揶揄を繰り出す少年に
女神は独特のかけ声で大きく仰け反り
そのまま少年にヘッドバットをおみまいする。
少年の被った帽子の頂点にある
よく解らないイボと女神の面が勢いよくぶつかり
双方に大きなダメージを与えた。
あのイボって一体何だろうね?
「いってぇ!!あ〜〜!やったなぁ!さっき「無害です」って言ったのにさ!!」
「……その通りですね…その非は認めましょう。しかし貴方も非を認める必要があるのではありませんか?」
「嘘つきででっかい、ウンコの女神!!」
「やめなさい」
「でっかいウンコの嘘つき!!ウンコの嘘つきのでっかいの〜!!」
「少しづつ順番を変えて言うのをやめなさい」
「おならだと思ったら、たまに具が出るのはお前の仕業だろ〜!嘘つきででっかいウンコのおなら!!」
「新しく増やすのもやめなさい。増やして順番変えて言うのをやめるのです」
「でっかい嘘つきおならウンコ!!」
「せめて女神をつけなさいッ!!!ふん!ぬッ!!」
女神は再び少年にヘッドバッドを2撃おみまいする。
無論さっきよりも威力は高い。
「ぅあぁああ!ぃッッッッたぁああ!!!頭蓋骨が割れる!!」
「さ…流石にクラクラきますね……」
「やめてよ!!痛いだろ!」
「私にも痛みはあります。お互い様ですよ。…それとはっきりと言っておきます」
「なんだよ」
「『でっかいウンコの、女神』と『でっかい、ウンコの女神』とでは大きな違いがあります。気をつけてください」
確かに。
大きいウンコを守護する女神と、
ウンコを守護する大きい女神とでは
確かに大きな違いだ。
だが、そこはどうでもいいんじゃないかと少年は思った。
女神は「まぁ、この際細かい事はいいでしょう」と呟きその場に腰をおろし天を仰いだ。
なんとなく少年もその隣に座る。
「ふぅ。疲れてしまいました。それで…貴方の名前は?」
「僕は呂久。雨永 呂久」
「あめながりーゆく??りゅん?なんです?」
「呂久!」
「りゅんく?」
「呂久!!」
「違いますか?私にはリュンクとしか聞こえませんが」
「えぇー……じゃあ…もうそれで良いよ」
「そうですか。ではリュンク改めてよろしく」
女神は、指の隠れたローブの端を、少年ー改めリュンクに近ずける
握手的な行為を望んでいる様だ。
「えっと…よろしく?」
「ええ。よろしく」