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WSS/1-異界冒険譚  作者: たかしモドキ
第0話「遥か長い旅が始まったのだ」
3/80

-【0-3】-遥か長い旅が始まったのだ

主人様は【ソレ】を寸前まで引きつけ、

現在の渾身で「大きく世界を喰らう術」を直撃させた。


未だかつて、この地に響いた事のない轟音が球体を震わせ、

一切の例外なく全ての生物がそれに耳を傾ける。


主人様の一撃を正面から受けた【ソレ】の七割は消し飛び完全に消失した。


だが、もう三割は砕き割れ、数多の破片は

炎を纏いながら主人様の後方を抜けその地に舞い降りてしまった。


圧倒的な質量の【ソレ】を破壊した衝撃と

強引な力の行使により再生不能なダメージを負った主人様は

肉片を飛び散らせながら吹き飛び

大地に激突する頃には

骨に僅かな肉がこびり付いただけの、見る影も無い姿となり果てていた。



(かす)んだ視界に、赤の(とばり)を下ろした様な空が見える。

噴火の様な激しい揺れと、恐ろしい地鳴り、恐怖の悲鳴が聞こえる。


命の揺ぎと、多くの死を感じる。


ーああ。


また主人様は奪われてしまった。


運命とは、なんと無慈悲で、不条理なのだろう。


でも、ようやくこれで終わり。


本当の本当にこれで最後

これ以上、主人様は何も失ったりしない。


どんな横暴だって、死者からは何も奪えないから。


もう、たくさんだ。


あれだけ失い。

これだけ抗い。

それでも手に入れられないのなら


私達は、運命にそれを許してもらえないんだよ。


私も寄り添うよ主人様。

このまま消えて行こう。


『…………』


ーだが。


主人様は、身体を動かす筋肉すら殆どない体で這いずり始める。


猛禽類に食い荒らされた魚の様な姿で

露出した骨をゴリゴリと岩盤に擦らせながらどこかへ向かっている。


この期に及んで、まだ主人様は諦めていないと言うのか。


もういい。

やめてくれ。


貴方が望むものは何も手に入らないんだ。


満たされる事ない渇望(かつぼう)ほど惨めなものは無い

命を失う直前まで、この様な無様を晒しいったい何を乞うのか?


安寧で育む納得?

子に対する愛情?

子孫を残すと言う使命感?

只の生存本能?


駄目だ。

理解できない。


心のない私には到底わからない。


ふと主人様は動きを止め、1点に地面を見つめた。


何を見ている?


小さく体毛を震わせる何かが見える。


そこには世界中の何処にでもありふれた生き物が居る。


小さく臆病で多くは死肉を食らって生き、短命で脆弱。

何百、何千と繁殖しては絶滅する

取るに足りない最底辺の生物だ。


そんな、つまらないものに何の用があると言うのか?



『生きろ』



その時、私はようやく理解した。


1億数千年余りもの年月(としつき)、主人様が何を求め、足掻いてきたのかを。


それは納得でも愛情でも、使命感でも生存本能でも無い。



もっと稚拙(ちせつ)で愚直な感情だった。



挿絵(By みてみん)



時の流れを持ってしても

到底鎮火する事のできない烈火により

(ただ)れ、()み、腐り、更なる疫病を放つ

聖水の中に置いても

汚泥の中に置いても

完全なる不変。



それは「復讐への執念」だ。



自分から全てを奪った者への飽くなき憎悪

それだけが、主人様が今日まで生きてきた意味だった。


そして運命は

今度は私から主人様を奪った。


ようやくわかった。


今は元主人様。


これが「心」の正体か。


燃え盛る炎と、舞い散る岩石の雨

その地獄の有様に置かれながら。


心なき私が心を学び


そして同時に、私の遥か長い旅が始まったのだ。

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