-【0-1】-うっとりと心をほぐして
どうやら主人様は、ここで生きてゆく事に納得したみたいだ。
ここへ来て何をするでもなく無心で子を作り始めた時、
私は、主人様の気が触れたのかと酷く心配になった。
産まれてきた子達が、元の子と似つかない劣化種だった時も。
ここの摂理によって同族同士、闘わなければならないと知った時も。
私は、その手伝いをしながら主人様が絶望に呑まれ
全てを投げ出してしまうのではないかとずっと不安だった。
でも、とても長い年月をかけて
主人様は、ようやく納得できたんだ。
主人様は、沢山の子達に群がられ幸せそうにうっとりと心をほぐして
子達が多様に成長してゆく様に満ち満ちた喜びを感じている。
この光景が何よりの証拠だ。
その昔、主人様は、命と私以外の全てを
尊厳も名誉も根こそぎ奪われた挙句、体も大きく損傷した。
全てを失った主人様は、それでも尚、求め足掻き続ける事をやめず
渇いた何かを潤す時の様な能動で求め、子を作り、育て、繁栄させた。
その結果、今では、この大地を堂々と踏みしめられるのは主人様の子達だけだ。
主人様が、気が遠くなる様な年月を費やし、この子らを作ったのは
やはり、失ったものをここで再現する事で納得する為だったのだろうか?
もしもそうなら、主人様はようやく取り戻したのだろう。
主人様が足掻き求め続けたのが、
失ったものと等価だと、そう納得できるだけの
心の安寧だったのなら
主人様は、既にそれを手に入れている。
その協力ができた事を私は、きっと嬉しいと思っている。
だが、一方、主人様も核心の無いままだが
無視できないその気配に気付いている。
それは地中深くにて
滾るような存在感を放つ何か。
私には直感でわかっていた。
あれは私と同種の存在だ。