ヴォイニッチ手稿
近所のおじさんは変わった文字を創作するのが趣味だった。それを表にまとめて、自分だけのオリジナルな文字図鑑として大切にしていた
私はおじさんが好む果物を多く集め、毎日その文字の芸術に対して理解を示す
しばらくすると、おじさんは私に心を開き、羊皮紙にその表を写してくれた
私はついに武器を手に入れた
私の精神を守るための武器
まずは、かねてより描いていたスケッチを集める。その多くは創作した植物であり、また当時流行っていた星座という概念を示したものだった
植物は根を自律的に動くようにしたり、茎の色を変色させたり、葉っぱに口をつけたりした
星座は中央に射手、双子などを描き、周りに星を持った人間を配置する
私はスケッチの裏に文字の表を置き、透かして見えた文字をランダムに書いていった。集めたスケッチの周囲を文字で埋め尽くす。意味などはどうでもよい
その中でも特にお気に入りなのは現在で言う「英語のH」や「四葉のクローバー」に似たものだった。私は多くそれを使い全体的に見栄えがいいようデザインしていく
約150枚の作品を作りあげることが出来た。そしてここから私の中を表現する
植物の茎の先にハート型の器を描き
そこに緑の液体を注ぎ込む
その液体に浸かる女性を
まるで浴槽に入っているかのように描く
そして、ここで初めて文字に意味を持たせる
文字とラテン語を一対一で対応させる
描いた絵の隣に
私の中の女性観をあの文字で書き起す
何度も対応を確認しながら、丁寧にゆっくりと
そんな面倒なことをせずとも普通に書けばいいじゃないか?
そうはいかないのだ。それは我々を覆う誤った思想が許さない。今で言うなら宗教的な価値観とでもいうか。生に関して大きな違和感を感じているわけじゃないが、女性に対しての考えが私は大きく異なっているようだった
私の父は同じ考えを持っていた。父は愚かだった。それを口にしてしまった、だから殺された
私はたまらなく怖かった。それを口にせずとも頭の中では何度も何度も反響している。ずっと我慢してきた。しかし遂には我慢の限界だった。どこかに表現しなくては、どこかに吐き出していれば私の精神性は保たれる
そこで私はあの文字に魅力を感じた
植物のスケッチからこの絵は植物を内側から表したものだと誤解されるだろう
星を持った人間から緑に浸かる女に不自然さを感じないだろう
意味を一切持たない文字の羅列から
この文章がメッセージを持つとは思えないだろう
私はさらに偽りのページを増やし遂には1冊の本として完成させる
少し変わった植物好きの青年にしか見えないはずだ
まさか異端者とは思うまい