Cafe Shelly それが欲しいなら
「おばあちゃん、ホントにここでいいの? お休みのお店ばっかりじゃない」
「いいのいいの。えっと、確かこの辺だと思うんだけど…」
私は先を行くおばあちゃんの後を追いかけた。
「まったく、いくら高校が冬休みだからって、どうしておばあちゃんのおもりをしなきゃいけないのよ。それにしてもこんな通りがあったんだ」
生まれてからずっとこの街に住んでいるが、こんな通りがあったなんて知らなかった。道幅は車が一台通るくらい。道の両側にはブロックでできた花壇が等間隔に並べられている。残念ながらこの季節は何も咲いていないが、きっと春にはステキな色合いになるんだろうな。通りはパステルカラーっぽいブロックで敷き詰められている。
看板を見る限りではブティックや雑貨屋、レストランといったお店が並んでいるようだが、お正月の三日ではどこも閉まっている。今では元旦から初売りで開いているお店が多い中、お正月三が日をゆっくり休もうというところは逆にめずらしいな。今度友達とゆっくり来てみようっと。
「あ、あったあった、ここよここ。ほら瑠璃ちゃん、早くはやく」
ホントに元気なおばあちゃんだこと。おばあちゃん、といってもまだ六十五才だけどね。
「ほらここ、ここよ」
おばあちゃんが指差したのはブティックの二階。
おばあちゃんは横浜に住んでいるのだが、今年のお正月はなぜだか我が家のあるこの街に来たがっていた。その理由がこれ。なんでも友達に会いに来たいということらしい。でも一人ではあぶないということで私がかり出されたというわけ。
さっきまで足取りが軽かったおばあちゃんも、さすがに階段になるとペースダウン。私の方が抜かしてしまった。
「あれ、おばあちゃん。今日はこのお店お休みだよ」
入り口には「Close」の掛け看板が。
「ねぇ、お友達に会うのって本当にここでいいの? 日にち間違えたんじゃないの?」
「よっこらせっと。いいのいいの」
やっと上がってきたおばあちゃんは、私の言葉を無視して勝手にドアを開いて入っていった。
「いらっしゃいませ」
奥から渋い男性の声と、少し遅れてかわいらしい女性の声。
「まーマスター、初めまして。横浜のピーちゃんです」
え、ピーちゃん!?
「お待ちしてましたよ。私がマスター、そしてこっちがマイです」
「ピーちゃん、初めまして。私がマイです」
な、何なの? 初めましてという割には妙に親しげだし。それにおばあちゃんがピーちゃんってどういうこと?
「あ、こちらは?」
「はい、私の孫娘の瑠璃です。こちらの高校に通っているんですよ」
「へぇ、瑠璃ちゃんか。いい名前だね。どこの高校に通っているの?」
マイさんが私にそう聞いてきた。マイさん、とてもきれいな人。ちょっと緊張しちゃうな。
「あ、はい。駅の裏にある学園高校ですけど…」
「あー、じゃぁ私の後輩だ。あのね、マスターも昔はそこで先生をやっていたんだよ」
「うそーっ」
この偶然に私はびっくり。「あはは、まぁ立ち話もなんだから好きなところに座って。今日はピーちゃんとお孫さんのために貸しきりにしていますから。コーヒーもごちそうしますよ」
マスターは優しい口調で私たちを招いてくれた。
「じゃぁお言葉に甘えて。あのうわさのシェリー・ブレンドをいただけますか。今日はこれを飲みにわざわざ来たようなものなんだから。あ、瑠璃はコーヒー飲めないのよね」
「あ、はい」
おばあちゃんのいう通り、私はコーヒーというのがちょっと苦手。
「じゃぁ絞り立てのフレッシュジュースでいいかな。今日のお奨めはグレープフルーツなんだけど」
「じゃぁそれでいただきます」
「じゃぁちょっと待っててね」
マイさんはそう言うとジュースの準備にとりかかった。
「ねぇ、おばあちゃんがピーちゃんってどういうこと? ピーちゃんっておばあちゃんのところで飼っているオウムのことだよね?」
「うふふ、おばあちゃんにも秘密のおつきあいがあるのよ」
私の質問を笑ってはぐらかすおばあちゃん。その表情は一年前のものとは大違いだ。
一年前、おばあちゃんは病気で入院していた。その病気というのも実は胃ガン。しかし初期の段階で見つかったのと治療がうまくいったおかげで大事には至らなかった。
けれどおばあちゃんは気持ちが萎えてしまい、いくら励ましても元気のかけらもない状態だった。私も去年は冬休みを利用してお見舞いに行ったけれど、とても声をかけられるような状態じゃなかった。
なのに今年になってそれがみるみる回復。いや、回復どころか以前よりも若々しくなった感じがする。
お母さんから聞いた話によると、どうやらインターネットを始めたのがきっかけらしい。それとこのカフェ・シェリーともひょっとしたら関係があるのかしら?
「はい、おまたせしました。シェリー・ブレンドと絞りたてのグレープフルーツジュースです」
「わぁ、これこれ。これを楽しみにしていたのよ。じゃぁ早速いただきまぁす」
「どうぞ、召し上がれ」
「うん、おいしい」
おばあちゃんは満足した顔でコーヒーを飲んでいる。私もグレープフルーツジュースを一口。
「うん、おいしい!」
さっぱりとして、それでいて濃厚な果汁が私のノドをうるおしてくれた。
「ピーちゃん、シェリー・ブレンドはどんな味がしますか?」
「そうね、今まで味わったことのない、それでいてなんだか落ち着いた味がするわ。きっとずっと会いたかったマスターに会ったせいかしら」
「へぇ、このコーヒーってそんな味がするんだ」
私はおばあちゃんの顔をのぞき込んでそう尋ねた。
「瑠璃ちゃん、このシェリー・ブレンドはね、その人が今欲しいと思っている味を与えてくれる不思議なコーヒーなのよ。瑠璃ちゃんも早くこの味を楽しめるくらいになれるといいのにね」
まさか、そんなコーヒーがあるわけない。きっとおばあちゃんの思いこみなんだわ。
そう思いつつも、幸せそうな顔でコーヒーを飲むおばあちゃんを見るのは気分がいいものだ。
「ね、ところでここのマスターとおばあちゃんってどんな関係なのよ。そろそろ教えてよ」
「あはは、別に秘密にするほどの事じゃないでしょう、ピーちゃん」
私の問いかけにマスターは笑いながらそう応えてくれた。
「うふふ、そうねぇ。じゃぁ教えてあげる。瑠璃は去年私が入院したときは覚えているでしょ」
「うん、おばあちゃんをお見舞いに行ったから。あのときはこんなに元気になるなんて夢にも思わなかった」
「私もそう思ったわ。このまま体が衰弱して死んじゃうんじゃないかって思ったくらいだもの。気持ちもすごく落ち込んで、何もする気がしなかったの。でもそれを立ち直らせてくれたのがこのマスターなのよ」
「えぇっ。でも今日まで一度も会ったことないんでしょ。どうやってマスターが?」
「その秘密はこれなんですよ」
マスターはそう言うと、カウンターの隅に置いてあるものを指差した。その指が指す方に視線を向けると、そこにはノートパソコンが。
「ピーちゃんはね、私が書いているブログにいろいろと書き込みをしてくれたんだよ。それで私もコメントの返事をしてね」
「うふふ。マスターの書く日記ってとてもステキな言葉がたくさんあるのよ。それが私を勇気づけてくれるから、ついつい引き込まれちゃって」
そうだったんだ。でもそれ以上に驚いたことがある。
「おばあちゃんがパソコンを使ってたなんてビックリ! そんなのやったことなかったでしょ。いつの間に始めたの?」
「パソコンはね、入院しているときにお隣にいた方から教わったの。その方ね、女性作家さんで入院中もパソコンで原稿を書いていたわ。そしてインターネットっていうのをこっそりやってたのよ。私も時々それを見せてもらってね。そしたらその方が、ここはおもしろいわよって教えてくれたのがこのマスターの書いている日記だったのよ」
「その作家さん、実は私の知り合いでしてね」
マスターもイスを用意して、カウンター越しに座り込んで話しを始めた。
「彼女がそのころ入院をしていたのは知っていました。そして時々掲示板にピーちゃんのことも書いてくれていたんですよ。おとなりにとても気のいいおばあちゃんがいるって。いろんなものをもらってばかりだから、自分も何か与えなきゃって。だから私の言葉を送ったんだって言ってました」
「あらぁ。私はお見舞いにもらったものが一人じゃ食べきれないからお裾分けしただけなのに。でもおかげで落ち込んでいた気持ちがぐんぐんと回復しちゃってね。退院する前はお医者様もびっくりするくらい元気になってたのよ」
へぇ、そんなことがあったんだ。知らなかったなぁ。
「退院してからも、どうしてもマスターの言葉が読みたくなって」
「それでおばあちゃん、パソコンを始めたんだ。すごぉい!」
何がすごいって、おばあちゃんはパソコンどころかビデオの録画予約すらまともにやったことがないって人だから。何かをやろうという時の行動力って、恐ろしく強いものなんだな。
「私も後からそのことを知ったときには驚きましたよ。でも一番驚かされたのは、ピーちゃんがあれを手に入れたときだったなぁ」
えっ、あれってなんだろう?
「うふふ。私もあれにはびっくりしたわ。でもそれはマスターの言葉を信じて、その通りに行動しただけのこと。今日はそのお礼も兼ねて来たのよ」
うぅ~ん、じれったいなぁ。だからあれって何なのよぉ。
「ねぇおばあちゃん。あれって一体何なの? じらさないで私にも教えてよ」
「はいはい、そんなにあわてないの。物事には順序があるんだから。ちゃんと一から教えてあげるわよ」
おばあちゃんはゆっくりとした口調で私に言い聞かせるように答えてくれた。その答え方が余計に私の知りたいという気持ちを高ぶらせた。
「話は半年くらい前にさかのぼるかしら。あれは気温の高い日だったわぁ。病院から帰る途中、ちょっと休憩しようと思ってね。冷たいものでも食べようと甘味屋さんに入ったの」
「それからどうなったの?」
「瑠璃ったらそんなにせかさないの。せっかちさんなんだから」
せっかちさん。私はその言葉をよく言われる。興味のあることについてはどんどん知りたい方だし、やりたいと思ったことはすぐに行動に移しちゃう方だ。だから人からは落ち着きがないとも言われる。けれど性分なんだから仕方ないじゃない。
それはそれとして割り切って、今はおばあちゃんの話の続きが聞きたい。
「いいから早く続きを教えてよ」
「はいはい、わかりました。それでね、甘味屋さんでかき氷を食べていたら目の前にいた中学生くらいの女の子が困った顔でそわそわしているのよ。『どうしたの?』って声をかけたらね、半分泣きそうな顔でこう言うのよ。お財布にお金を入れてきたつもりだったんだけど、うっかり別の財布を持って来ちゃったって。きっと自分のおこづかいで、ここで甘いものを食べるのを楽しみにして来たんだろうなって思って。だから私ね、こう言ってあげたの」
「なんて言ったの?」
「じゃぁ、ここはおばあちゃんが出してあげるからって。だから大丈夫よって」
「それでおばあちゃん、その子の分も出してあげたんだ」
おばあちゃん、なんてお人好しなんだろう。
「でもここからがおもしろかったんですよね」
マスターが横からそう言って会話に割って入った。どうやらマスターは事の顛末を全て知っているようだ。
「そうそう。その子はね、何度もありがとうございますって言ってくれたの。そして私の荷物を持ってバス停まで一緒に行ってくれたわ。それから一週間後くらいかしら。私はまた病院に行って、そのあとあの甘味屋さんにまた寄ったの。いつもはそんなことないのに、なんとなく行きたくなってね。そしたらなんと…」
「まさか、その女の子がいたとか?」
「そうなのよ。それだけじゃなくて、今度はその子のお父さんが一緒だったわ」
「へぇ、偶然ね。で、お礼をされたとか?」
「お礼だけなら普通の話で終わるところだけどね。それだけじゃ済まなかったのよ。その子のお父さん、パソコンの会社を経営していてね。私がパソコンを始めたばかりだって言ったら、じゃぁぜひウチに来てくださいって。ちょうど中高年用のパソコンスクールもやっているから、ご招待しますよって」
「じゃぁ手に入れたものってそれだったんだ」
「ううん、それだけじゃないからおもしろいのよね」
「それだけじゃないって?」
私はワクワクしながら次の展開を待った。
「パソコン教室ってね、結構楽しいの。でもちょっとお部屋が殺風景だったのよ。だからね…」
「あ、わかった! おばあちゃんお得意のあれを飾ったんでしょう」
「そう、当たり!」
おばあちゃんお得意のあれ。それはハガキに描く水彩画のこと。
おばあちゃんの水彩画は主に静物画だけど、結構味がある。私が好きなのは夏野菜シリーズ。みずみずしさの中にもほんわりとした優しさがあるのが特徴的だ。
「そしたらね、そこの社長さん結構喜んでくれて。それだけじゃなく、一緒にパソコンを習っている方達にも好評でね。私にも一枚描いてくださいってリクエストが殺到しちゃって」
「だったら結構売れたんじゃないの?」
「ううん、売るなんて事はしなかったわ。どうぞどうぞって差し上げたの」
ここでもまたおばあちゃんの人の好さがでている。でも一枚描くのだってそれなりの時間がかかるしお金もかかるはず。なのにおばあちゃんはそれをタダで人にあげるなんて。
そのことをおばあちゃんに言ったら、こんな返事が返ってきた。
「私はね、自分の描いたものが多くの人に認めてもらえたのがうれしいのよ。だからそのお礼としてこれを渡しているの」
ふぅん、私にはとてもできないことだわ。
「そこからピーちゃんの快進撃が始まったんですよね。いろんな人に描いたハガキを配っていたら、まさかあんなふうになるなんてね」
マスターがニコニコしながらそう話してくれた。
「え、何かあったんですか?」
「ピーちゃん、今では大人気芸術家なんですよ」
まさか、そんな話聞いたことない。どこにでもいる普通のおばあちゃんなのに。
「うふふ、芸術家なんて大げさだわ。でもおかげさまで去年の暮れにはホテルで個展もやらせてもらったし」
「うそーっ!」
ほ、ホテルで個展だなんてびっくりだわ。
「これもね、ここにいるマスターのおかげでもあるの。パソコン教室でハガキを配ってるってことをマスターのブログに書き込んだの。そうしたらマスターのブログを読んでいる他の人も私の作品をぜひ見てみたいって言い出して。でもどうやったらいいのかわからなくてマスターに相談したのよ」
「でも私はパソコンはそんなに詳しい方じゃないから。でも私の友達にパソコンに詳しい人がいたからその人に相談して。そうしたら直接ピーちゃんを指導してくれたんですよ」
なんだかおばあちゃんの周りにはお人好しのお節介が多いんだな。そんなことをしても何の得にもならないだろうに。
「みんなおばあちゃんには親切なんだね」
私はどちらかというと皮肉を込めてそんな言葉を出した。
「あら、瑠璃ちゃんだって親切じゃない」
そう言ったのは今までじっと私たちの話を少し離れたところで聞いていたマイさんだった。
「え~、そうかなぁ」
「だって今日はこうやってピーちゃんにつきあってここまで来たんでしょう。親切じゃないとできないよ」
「だって、お母さんが一緒に行けってうるさかったし。おばあちゃん一人で知らない街をウロウロさせるわけにもいかないから」
私はいいわけがましくそう答えた。
「瑠璃はとても親切な子ですよ。小さい頃はよくみんなにいろんなものを配ってあげてたじゃない。お隣のおばちゃんからもらったって、お菓子を私に半分くれたこともあるんですよ」
「そんな小さいときのことを」
まぁ確かにおばあちゃんの言う通りだった。小さい頃はそれが当たり前だと思っていた。
「でも、そのおかげで私は今とても損しているんだから」
これも皮肉を込めてそう言った。
「瑠璃、どうしたの? 何かあったのかい」
優しく見つめるおばあちゃんの目。それを見たら突然涙があふれてきた。
そう、あのことをふと思い出して。
「だって、だって、誰も、誰も…」
「瑠璃ちゃん、どうしたの?」
私が突然泣き出したのでみんなあわて始めた。
「私ね、私ね…」
私も何かを言おうとしているんだけど、なかなか声にならない。
「瑠璃ちゃん、これを一口飲んでごらん」
マスターがカップ一杯の飲み物をそっと差し出した。私は手で涙をぬぐいながら、マスターの差し出した飲み物を口に含んだ。その飲み物は冷たいのに、ふわぁ~としたあたたかさを感じた。それと共に私の気持ちも次第に落ち着きを取り戻してきた。
「ふぅ~。マスター、ありがとう」
「やっと落ち着いたようだね。ところで瑠璃ちゃん、よかったら何があったか話してくれないかな」
私はなぜか今のマスターの言葉に素直な気持ちになれた。
「私ね、中学の運動会の時に一生懸命みんなのためにって思っていっぱい働いたの。そのときね、生徒会の副会長をやっていたからみんなを引っぱっていかなきゃって思って。今までにない運動会にしたくて、プログラムをかわいく作ったり、音楽にも凝ってみたり。運動会の当日も裏方で動いてたのよ。でもそのせいで私自身は徒競走しか出られなかったの。それでもみんなのためだって思って働いたのに…」
「何かあったのかい?」
おばあちゃんがそう尋ねた。
「うん、あのね、運動会で優勝できなかったのは私のせいだって言うの」
私は涙ながらにそう語った。
「誰がそんなことを言うんだい」
おばあちゃんはちょっと怒った口調でそう言った。
「クラスの男子が。私が団技に出なかったせいで負けたんだって。ウチの団、ただでさえ人数が少なかったんだけど、予行演習では結構いいセンいってたんだ。でも当日私がでなかったせいで人数が少なくて負けたって。団技で勝ってたら、優勝はできたはずだって」
「そんなの、瑠璃のせいじゃないでしょう」
おばあちゃんはそう反論してくれた。
「でも、誰もそうは言ってくれないの。だから、だからもう人のために一生懸命になるなんてしたくない。そんなことをしたって誰も私をほめてなんかくれないんだもん」
また涙が出てきた。そんな私にマスターがこう言ってくれた。
「瑠璃ちゃん、さっき飲んだ飲み物、もう一口飲んでごらん」
「うん」
私はマスターが言う通りに、先ほど口を付けた飲み物を口に含んだ。
「え、うそ、なにこれ。さっきと味が違う…」
「どんな味がしたのかな?」
「さっきは冷たい飲み物なのに温かさを感じたの。でも今はキンっと頭に直撃って感じ。目を覚ましてくれるような刺激だわ」
「そうか、目を覚ましてくれるような味だったんだね。瑠璃ちゃん、ひょっとして君は今自分自身を抑圧していないかな。本当はこうしたいのに、周りの目が気になってその行動ができない。そうじゃない?」
「うん…マスターの言う通りかもしれない。高校に入ってから、なんだか自分らしくない態度ばかり取っている気がする。周りの目を気にして、周りに気に入られようとして。だから中学の時みたいに自分から何かをしようとする気持ちが起こらないの」
気が付いたら自然にそんなことをしゃべっていた。
「だから今、目を覚ましたいのかもね」
マイさんがそう言ってくれた。
目を覚ましたい。つまり本当の自分に戻ってみたい。急にそんな欲求が湧いてきたことに気づいた。
「私ね、本当はもっと人のためになることをしてあげたいの。でもそんなことをしても誰もほめてくれないし、それどころかお節介だって言われそうだから」
私の本音が思わず口から出てきた。そうなんだ、私って本当は人のためになることをしてみたいんだ。けれどみんながそれを嫌がるのなら、みんなが受け入れてくれないのならやらない方がまし。そう思っていた自分に今気付いた。
「瑠璃ちゃん、そんなことないのよ」
「おばあちゃん…」
「マスター、あの話を瑠璃ちゃんにしてあげて」
「そうですね。私も今同じ事を思っていました」
なんだろう、あの話って。
「瑠璃ちゃん、今からマスターがしてくれる話はね、おばあちゃんも勇気づけられた話なの。この話を入院中にマスターがブログに書いてくれていたおかげで今の私があるのよ」
そうなんだ。私はマスターがしてくれる話がどんなものなのか、ちょっとワクワクしながら待ちかまえた。
「あはは、そんなにあらたまって聞かせるほどの話じゃないんだけどな。瑠璃ちゃん、ここに一つのあめ玉があるだろう」
マスターはそう言って手のひらにあめ玉を乗せて見せてくれた。
「このあめ玉を増やす方法、わかるかな?」
「あめ玉を増やすって…二つに割っちゃいけないんですよね」
「それじゃぁ個数は増えるけど、量は前と同じだよね。ちゃんと量も増やさなきゃ意味がないよ。さて、瑠璃ちゃんならどうする?」
私は頭をひねった。何かのとんちかしら。けれどどんなに頭をひねっても、答えは出てこなかった。
「降参、わからないわ」
「じゃぁ、瑠璃ちゃん手を出して」
私は言われた通りマスターに手を差し出した。するとマスターは思いもしない行動に出た。
「はい、どうぞ」
マスターは私の手のひらに持っていたあめ玉をポンとのせた。
「え、あ、ど、どうもありがとう」
私はわけがわからないまま、思わずお礼の言葉を発した。
「瑠璃ちゃん、今どんな気持ちかな?」
「どんなって、なんだかわけがわからないけれど。でもあめ玉をもらったのはうれしいです。でもこれだとあめ玉が増えるどころかなくなっちゃうじゃないですか」
「あはは、そうだね。じゃぁ、ここで…」
マスターはカウンターに戻って、今度はあめ玉がたくさん入った袋を取りだした。そしてその袋を私に手渡した。
「あめ玉をもらった後、瑠璃ちゃんがこうやってたくさんのあめ玉を手に入れたとしよう。そんなときに私とばったり出会った。さて、瑠璃ちゃんならどうする?」
「う~ん、そうですね。前にあめ玉をマスターからもらったから、そのお礼にって持っていたあめ玉を渡すかな」
「じゃぁそれをやってみてよ」
私は言われるままに行動を起こそうとあめ玉がたくさん入っている袋に手を入れた。最初は一粒だけ握ろうと思ったが、ふと考えて三つほど握ってマスターに手渡した。
「はい、どうぞ」
「瑠璃ちゃん、ありがとう。ほら、これであめ玉が増えた。わかるかな?」
「え、あ、うん」
確かにマスターの言う通り、手のひらのあめ玉は一個から三個へ増えた。でも私はどうしてそうなったのか、今ひとつ理解できない。
「あはは、どうしてあめ玉が増えたのか不思議みたいだね。でも今のが真実なんだよ。瑠璃ちゃん、私からあめ玉をもらったときはどう思った?」
「はい、うれしいなって思いました」
「その後自分がたくさんあめ玉を持ったときに、どうしようと思った?」
「マスターからあめ玉をもらったからお返しをしなきゃって思いました」
「でもそのときに一つじゃなくて三つくれたよね。これはどうしてかな?」
「どうしてって。一つだけお返しするのもなんだなぁって。いっぱい持っているんだから、少しくらい多めにお返しで渡してもいいかなって」
「そうなんだよ。じゃぁ私が今三つ持っているあめ玉を、ピーちゃんとマイに一つずつ与えたらどうなると思う?」
「そうですね。しばらくしたらおばあちゃんとマイさんから同じようにお返しがくるんじゃないかな。そしたらマスターのあめ玉がまた増える…」
「そうなんだ。これは『与えたものは必ず返ってくる』という法則なんだよ。しかも返ってくるときには必ずプラスアルファの利子がつくんだ」
「プラスアルファの利子?」
「そう。さっき瑠璃ちゃんがあめ玉を三つくれたよね。私が渡したのは一つ。ほら、二つも利子が付いて返ってきた」
「あ、そういうことか。でもあめ玉が二つも利子が付いて返ってくるなんて事、そんなに毎回もないんじゃないの」
そんな都合のいい話がしょっちゅうあるのだったら、誰も困らないじゃない。これは私の素朴な疑問。
そう思っていたら今度はおばあちゃんが口を開いた。
「そうね、そうかもしれないわね。でもね、これが不思議なことに必ずプラスアルファが付いて来ちゃうのよ。でもすぐには返ってはこないけれどね」
「すぐには返ってこないって、どういうこと?」
「えぇっと…マスター、どういうことだったっけ?」
おばあちゃんが回答に困っていると、マスターではなくマイさんが手に何かを持ってきた。
「瑠璃ちゃん、これどうぞ」
「あ、ありがとう」
それは手作りのクッキー。私はそのクッキーを早速一口。
「おいし~っ」
これはお世辞でもなく、今まで食べた中ではダントツでおいしい。
「このクッキー、ここで売っているんですか?」
「うん、数量限定だけどね」
「だったら今度買いに来ます。ちょうど友達が誕生日だから、そのプレゼントに」
「わぁ、うれしい。じゃぁ、そのお友達がこのクッキーを気にいてくれたら、どうなると思う?」
「う~ん、たぶんこのお店に買い会に来るでしょうね。あ、それからまた別の友達に教えてあげたりプレゼントしたりするかも」
「そうしたらこのお店、どうなっていくかな?」
「そりゃ、評判が広まって繁盛していくんじゃないですか。そのくらいおいしいですよ、このクッキー」
そう言って、私は手の中に残った残りのクッキーをすべてほおばった。うん、おいしい。
「瑠璃ちゃん、気がついた?」
「え、何がですか?」
「今瑠璃ちゃんが行った通りになるとしたら、そのきっかけはなんだったでしょう?」
「きっかけは今私が食べたクッキーですよね」
「そう、私が瑠璃ちゃんにプレゼントした、たった一枚のクッキー。それが徐々に広がって、このお店が繁盛するということに変わって返って来ることになるでしょう。それがいつになるかはわからないけど」
マイさんに言われて気がついた。そう考えればまったく無理なくプレゼントした人に大きな利子が付いて返ってくることになるじゃない。
「なるほど、そういうことなのか。利子ってなにもあげたものと同じ形で返ってくるだけじゃないんだ」
「その通りよ。心からの本当の親切ってね、それがどんどん別の人に伝わっていくの。ある人から親切を受け取ったら、今度は自分が同じ事を別の人にやってあげようって思うものなのよ。一人の人が五人にそれを伝染させたら、あっという間に世の中にその気持ちが広がっていくでしょう。それがまわりまわって自分のところにも返ってくるのよ。しかも多くの人からね。これがことわざの『情けは人のためならず』ってことなのよ」
「え、あれって情けをかけると人のためにならないからやめておけってことわざじゃないんですか?」
「あはは、そう勘違いしている人、結構多いみたいね。本当の意味は、情けをかけること回り回って自分に返ってくるって意味なのよ」
「へぇ、知らなかった。でも、親切にしたからって今の私と同じ気持ちになる人ばかりじゃないですよね。中には何も思わなかったり、ありがた迷惑って感じる人もいるんじゃないかな」
「残念ながらそれは否定できないところかな。でもさ、それって十人いたら何人くらいそう思うかしら?」
マイさんに言われて考えてみた。
「う~ん、三人、いや、五人くらい…」
実際にはどうなんだろう。もっと多いのかな、それとも少ないのかな?
「これはちゃんとした統計が出ているわけじゃないけれど。一般的には二割の人が同じ思い、六割の人は何も思わない、残りの二割がありがたいとは思わない、と言われているの」
「えぇっ、たった二割しかいないの!」
その割合の少なさにびっくりした。
「それじゃぁ親切ってなかなか広がらないじゃないですか」
「そうね、残念だけどそれが真実。けれど裏を返せば、二割の人は広げてくれることになるのよ。瑠璃ちゃん、あなたの行った行動に賛同してくれる人は必ずそれだけいるの。思い出してごらん、運動会のときに瑠璃ちゃんを非難した人ってクラス全員だったかな?」
私はちょっと考えた。そして首を大きく横に振った。
「意地悪な男子だけだった。けれど他の人は何も言ってくれなかったしかばってもくれなかった」
「さっきの割合から考えたら六割の人は無関心ってことになるの。けれど二割の人は必ず瑠璃ちゃんのことを支持していたと思うのよ。ただ悪い方の二割の力に押されて、瑠璃ちゃんのことをかばうっていう行動になかなか出られなかったんじゃないかな」
「でも私には何も返ってきていない」
そう思ったらなんだか急に悲しくなってきた。私って神様から見放されてるのかな。
「大丈夫よ。時間が経てば経つほどそれは大きな利子を付けて必ず瑠璃ちゃんのところに返ってくるから。心配しないで」
「そうよ。私もね、ハガキを教室に飾ったりプレゼントしたりしてみんなの反応があるまでは半年くらいかかったわ。でもね、その半年の間それをやり続けていたから、二割の人が三割になり、四割になり。気がつくとほとんどの人が私のファンになってくれたの。大事なのはこの気持ちを持ち続けて、見返りを期待せずに行動し続ける事じゃないかしら。ね、マスター」
「えぇ。大事なのはこの気持ちを持ち続けて行動し続けること。私はそう思いますよ。こうしていくうちに共感してくれる仲間が増えますから。類は友を呼ぶってね。そうしたら今度は一人の力が何倍にもなって、より大きな利子を加えてその人に戻ってくるんだよ。だからピーちゃんは個展を開くまでになったんだよ」
気持ちを持ち続けて行動し続ける。私に足りなかったのはここなのかな。これが足りないから、まだ私には何も返ってこないのかな。ふとそんなことを考えた。
「じゃぁ、私が前みたいにみんなのためを思って親切に行動し続けたら、それは必ず自分に返ってくるの?」
「うん、間違いなくね」
「じゃぁ瑠璃ちゃんがこれから行動し続けるためのきっかけになるように、これをプレゼントしちゃうね」
そう言ってマイさんはカウンターから大きな包みを取りだした。
「はい、どうぞ」
何だろう?
「中、見てもいいですか?」
「えぇ、どうぞ」
包みを開くと、そこには小さな袋に小分けされたクッキーがたくさん入っていた。
「ピーちゃんとわけて使ってね。これ、ぜひお友達にもプレゼントしてあげて」
「マイさん、ありがとう」
思わず涙ぐんでしまった。
「ところで瑠璃ちゃん、そのカップに入っている飲み物をもう一口飲んでみてもらえるかな」
マスターがそう言ったので、私は言われる通りにやってみた。
「ん、また違う味だ。今度は元気になれそうな感じがする。マスター、この飲み物って一体何なんですか?」
「これ、アイスコーヒーだよ。ミルクとガムシロップでちょっと甘めに味付けをしているけどね」
「うそっ、これがコーヒー?」
そう言われて改めて口に含んでみると、確かにコーヒーの味がする。けれど私が苦手な味ではなくむしろ優しくてまろやかな感じがする。
「今までコーヒーって苦手だって思ってたけど。これだったら飲めるわ」
「マスター、ひょっとしてこれって…」
「ピーちゃんは気づいたかな。これ、シェリー・ブレンドをアイスにしてみたんだ。初挑戦だったけれど、うまくいったみたいだね」
これがうわさのシェリー・ブレンドかぁ。
「シェリー・ブレンドってホント不思議なコーヒーなんだ」
「そう、飲む人が今欲しがっているものが味として出てくる。そんなコーヒーなの。だから瑠璃は今は行動を起こすための元気が欲しい、そう思っているのでしょう?」
「おばあちゃん、図星だわ」
私はグラスに残ったシェリー・ブレンドを一気に飲み干した。
「うん、元気と勇気が湧いてくる」
私は力こぶを見せて、元気な姿をアピール。みんな笑いながら私を見てくれた。この笑いが私にさらに元気を与えてくれた。
「マスター、マイさん、今日はこのお店に来て本当によかったわ。おかげで元気になれました。ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ楽しい時間をありがとう。それよりもお礼はピーちゃんに言ってあげて。この機会を作ってくれたのはピーちゃんだからね」
「うん、おばあちゃん、今日はありがとう。とてもステキな時間を過ごせたわ」
「いえいえ。私も瑠璃がいなかったらここまでは来られなかったんだから。本当にありがとうね」
私とおばあちゃんはそう言ってカフェ・シェリーを後にした。
「ねぇ、おばあちゃん。マスターとマイさんってとてもステキな人だったね。今度友達を連れて行こうかな。そうそう、このクッキーは早速友達にプレゼントしようっと」
「そうね、そうするといいわ。きっとお友達も喜ぶでしょう」
よぉし、あさってから課外授業が始まるからそのときにプレゼントしようっと。そう思ったらなんだか胸がわくわくしてきた。
「マスター、マイさん、こんにちは」
「あらぁ、瑠璃ちゃんじゃない。いらっしゃい」
「今日は友達を二人連れてきたんだ」
一月半ばの土曜日の午後、私は友達二人を誘ってカフェ・シェリーへやってきた。
「この前食べてもらったのがここのクッキーなの。そしてここのコーヒーがとても不思議な味がするのよ」
私はちょっと興奮して二人へそうやって説明した。二人ともクッキーの味に感動して、ぜひ自分も買ってみたいということだった。
それよりも私は不思議な味のコーヒー、シェリー・ブレンドを二人に味わってもらいたくて連れてきたようなもの。
「ご注文は何にする?」
「シェリー・ブレンド三つお願いしまぁす」
お冷やを持ってきたマイさんに、私は元気よくそう答えた。
「そうそう、マイさん聞いてくれる?」
「え、瑠璃ちゃん、どうしたの?」
私は友達二人に聞かれないように、カウンター席へ移動。そこにはコーヒーを入れてくれているマスターもいた。
「あのね、マイさんの言う通りだったよ。今日連れてきた二人ね、中学の時からの仲良しなんだ。この前クッキーをプレゼントしたときにね、二人から同じ事を言われたの」
「どんなこと?」
「中学の運動会の時のこと、ごめんって。あのとき、私のことをかばってあげたかったんだけどそれでいじめられるのが怖かったんだって。でもこのことがずっと頭に引っ掛かっていて、いつか謝りたかったんだって。私、とても感動しちゃった」
「ほう、それはよかったね」
そう言ってくれたのはマスターだった。
「でね、それだけじゃないのよ」
「何があったんだい?」
「あのね、この前中学の時の同窓会ってやったんだ。そしたらあのときに私のことを責めた男の子も、私に謝ってきたの。あのときはゴメンって。そしてね…」
カラン、コロン、カラン
そのときお店のドアが開く音が。
「いらっしゃいませ」
そこには制服姿の男子が三名。
「あ、いたいた」
「こっちこっち」
窓際の席にいた私の友達がその三人を招き入れた。
「あ~、瑠璃ちゃん、ひょっとして…」
「あはは、おかげさまで」
私はちょっと照れ笑い。
「ん、どういうことだ?」
マイさんはわかってくれたようだけれど、マスターはキョトンとしている。
「まったく、マスターは女の子の気持ちがまだまだ理解できていないんだから。これでよく高校教師なんてやってたわよね~」
マイさんがマスターをつつきながら茶化した。
「どういう事だよ、説明してくれよ」
「あの三人って、謝ってきた男の子でしょ。そしてそれから仲良くなって、今日ここに連れてきたんでしょ」
「あはは、マイさんあたり! 同窓会の時に謝ってくれて、そのお詫びにみんなでカラオケに行ったんだ。そのときにね、隆一くんが本音を言ってくれたの」
「本音って、どんな?」
「あのときにね、私のことが気になっていてつい茶化しちゃったんだって。そしたら他の二人がそれをはやし立てて、ついエスカレートしちゃったって。ずっと悪いって思っていたんだけど、なかなか謝る機会が無くて。私が一生懸命やっていたことは無駄じゃなかったんだね」
「そうか、それはよかったね。ところで、隆一くんってどの人だい?」
マスターの質問に、私はちょっとはにかみながらこう答えた。
「あのね、一番背が高い左側にいる人♪」
「おっ、なかなかいい男じゃないか。瑠璃ちゃん、大物を釣り上げたなぁ~」
「あはは、でしょ~。これが与え続けた利子ってやつなのかな?」
「きっとそうだね。はい、シェリー・ブレンドできたよ。彼らの分も入れておいたから。ゆっくりと楽しむといいよ」
「わぁ、マスター、ありがとう」
私はマイさんと一緒に友達が待つ窓際へ移動。
「へぇ、これが瑠璃の言っていたシェリー・ブレンドかぁ」
「う~ん、いい香り」
「いただきまぁす」
友達は口々にそう言って、一斉にシェリー・ブレンドを口にした。
「ね、どんな味がする?」
私は興味深くみんなに質問。
「へぇ、なんだかホッとする味だね」
「私はちょっと力が湧いてくるって感じかな」
「オレはなんだか眠たくなってきたよ。このところ勉強のしすぎで寝不足だからかな?」
「なぁに言ってんのよ。どうせゲームのしすぎでしょ」
みんなは一斉に大笑い。
「隆一くんはどう?」
「うん、オレはなんとなく甘くていい気持ちがする。そしてなぜかちょっとドキドキしているんだけど」
「あれ、それって恋の味じゃないの?」
私の友達がそうやって茶化した。隆一くんはちょっと赤くなって照れ笑い。
「瑠璃はどんな味がしたのよ?」
「え、私?」
私はみんなの顔を見ることに夢中で、味をすっかり忘れていた。そう言われてもう一度シェリー・ブレンドを口にした。このとき、なぜだかちょっと涙が。
「瑠璃、どうしたのよ?」
心配そうにのぞき込むみんな。
「あのね、私今とてもうれしいの。こうやってみんなが一緒になることができて。私、これが欲しかったんだって今すごくわかったの」
このとき、マイさんが焼きたてのクッキーを持ってきてくれた。
「瑠璃ちゃん、そして皆さん。これ、私からのプレゼント」
「わぁ、ありがとうございます」
みんなクッキーに手を伸ばしてほおばっている。
「マイさん、ありがとう」
「瑠璃ちゃん、今の気持ちはどう?」
「はい、マスターとマイさんから聞いた話は本当だって実感しています。欲しかったらまずは自分から与えることなんだなって。おかげさまであめ玉がこんなに増えちゃった」
私はみんなを見回して、さらにうれしさが倍増。
「うん、これからもいっぱい与え続けてね。またきっと大きな利子を付けて返ってくるからね」
「はい、これからもがんばります」
私は強く、そして大きな声でにこやかに返事をした。
よし、これからもやってやるぞ!
<それが欲しいなら 完>