7・殿下、帰国子女に興奮す
「おお~」
俺は海軍ではなく陸軍に入ったので軍艦を見る機会はそうある訳ではない。
今回は日本に回航されてきた金剛を見るため横須賀へやってきた。
近くでは比叡の工事が進んでいるが、やはり英国はスピードが違う事を思い知らされている。日本も早くそこまで進んで欲しいものだ。
そうは言っても俺に出来ることは少ない。
俺は技術系の知識をタブレットで自在に引き出せる訳ではないので、この時代の技術者頼りになってしまう。
戦艦は同系のプレイヤーに依頼できた。
迫撃砲はそもそも日露戦争での経験があったことで実現した。
自動小銃は外国から購入したモノを技術者に任せた。
どれもこれも自分で成し得たモノではない。いくら知識があると言っても、その知識が外面的なモノでしかないのであまり役に立ってはいないというのは何だか悲しい。
そのため、出来るだけ政策面で何とかしようと頑張っている。
「ではどうぞ、殿下」
金剛の艦内を案内してもらったが、案内役は巫女服や軍服の美女ではなく、オッサンだ。
今日は俺だけが呼ばれたのではない。学校の生徒も呼ばれている。そう、陸軍の。
もう5年来の議論の結果、陸海の風通しを良くしようという事で、学生の交流が行われたり、相互にこうした見学が行われている。
さっさと統合参謀部や任務部隊などといった21世紀の手法を取り入れたいが、今はそれどころではない。まだまだそこまで達していない。
それでも前進はしており、統合参謀部をはじめとした軍の組織改編の話は進んではいる。ただ、完成までにはまだ10年近くかかる見通しだ。
もう、来年には第一次大戦がはじまる訳で、イタリア人技師が残していった「先進的な」設計図を使って海軍の整備が行われ、史実より戦力的には近代化されている。
例えば、戦艦は河内型3隻があり、なんと、世界初の三連装砲塔艦となっている。予算執行の都合でイタリア艦の完成が遅れたからだが、あちらが三連装4基なのに対し、河内型は三連装2基、連装2基なので、純粋に三連装砲塔艦か?と言われると厳しいものがある。
そして、安芸起工中止の余波で巻き込まれた鞍馬型の代わりに25センチ砲を積んだ装甲巡洋艦が3隻建造されており、これも背負い式4基となり、砲塔の手直しなどが竣工後に必要だったが、今では戦力化している。
さらに、本来止める必要のなかった筑摩型巡洋艦もイタリア人設計による新型となり、天龍型と言うか、英国のC型軽巡に類似した設計の巡洋艦として竣工している。
さらに、河内の設計に際して三連装4基の話が出ていたモノは、金剛の発注に伴い36センチ砲へと変更され、扶桑型は彼の残した連装6基案でという話になったが、今は少し遅れても三連装4基という方針に変わり、三連装砲塔が開発中だ。どうやら既存の水圧機では力量不足なようで、英国にさらに強力な水圧機を依頼しているらしい。
なにせ、彼の示した案では、連装6基では全長を220mにはしないと爆風問題が解決できないというので、190mで纏められる三連装案に縋ったらしい。
そんなこんなで現状は史実より有力な海軍戦力がある。
陸軍と言うか、政治の話についてだが、陸軍の師団増設問題に絡む大臣辞任騒ぎを予定通り起こしてもらった。
先に言ってしまえばマッチポンプだ。
これによって内閣は総辞職し、次の組閣もままならなくなった。
本来なら暗殺されていたはずの元老が生きているのを利用し、ここで憲法の欠陥と成熟が進んだ議会制政治の情勢に鑑み、憲法を変えて総理大臣の権限を強化しようという話をぶち上げてもらった。
「だから、あの時言ったんだ。こんなことになるんではないかとな」
さすがに憲法創始者本人にそう言われては反論する勇気を持つ者はおらず、日本国憲法に準じた総理権限の強化を彼が提案し、公に議論される運びとなった。
本来ならば、俺が介入する直前に曲がりなりにも整うはずだった制度だが、残念な事に軍の権限を維持することを元老同士で決めてしまっていた。が、結果は、警告通りとなり、こうなっては改憲無くしては、またぞろ似た事件が起きるだろうという俺の発言によって、例の会議ではすでに問題の洗い出しを終えている。
その改憲に絡ませたい話として飛行機の事がある。英国は第一次大戦中に空軍を発足させているが、日本の航空事業はまだ芽吹き中といった段階で、ようやく航空業界に興味を持つ企業が出始めた段階に過ぎない。
できれば、改憲の際には陸海空軍の文字を書き込みたいが、どうなるかは分からない。