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45・殿下、安堵す

 二日目の戦闘で空母戦力を無力化した日露軍は水上打撃部隊を前進させて止めを刺すことにした。

 水上打撃部隊は甲斐型戦艦8隻、金剛型戦艦4隻を基幹として行われた。ロシアも甲斐型戦艦を導入して戦艦の近代化を図っていることから、日露の連携はとり易かった。


 水上部隊は偵察機の誘導で米艦隊へと接近し、持ち前の火力で蹂躙していったのだが、旗艦艦隊と思われる一隊から手痛い反撃を受けることになった。


 その艦隊には巨大な船体に三連装三基の主砲を備えて空母と同等の速度で航行する化け物が存在していた。


「これ、アイオワ級じゃないのか?」


 その形は見るからにアイオワ級に見えた。きっと間違いないだろう。なにせ、甲斐型が完全に負けているんだから、他に考えようがない。

 その戦艦二隻からの反撃で金剛型のうち霧島が撃沈され、比叡も行動不能となって自沈処分となってしまう。甲斐型は高速で回避したが、それは命中も期待できなくなるという事で、新型の音響魚雷を積んだ駆逐艦がその戦艦に止めを刺すことで急場を凌いだという。


 結局、水上打撃艦隊と航空攻撃を併用して空母の半数、戦艦のすべて、巡洋艦の七割、駆逐艦の八割を撃沈することに成功した。


 成功のカギは何と言ってもケ号爆弾による精密攻撃だった。


 しかし、爆弾が小型である事、運動性を生かし犠牲を減らすために魚雷の使用を極力避けた事から撃沈自体は多くなく、水上艦隊の投入後に魚雷攻撃を敢行してからようやく大型艦の撃沈が行えたような状況だった。


 爆弾を大型化したり、滑空型やロケット推進にしてミサイルとして運用できるようにしないと、これからは使い難くなることは目に見えている。その辺りは更なる技術の進展を待つしかないのだろう。

 さらに、実験的に投入されたエロ爆弾(イ号誘導弾)だが、これも十分に使えるとは言い難かった。誘導装置の関係から誘導母機が危険にさらされるため、命中まで誘導するのが難しいという。いっそ、エロ爆弾(イ号誘導弾)盗撮カメラ(赤外線検知器)を付けた方が良いのだろうか?それなら一応のミサイルや滑空誘導弾の完成かな?


 

 この戦果が国内で報道されるとお祭り騒ぎとなった。


 正直、俺としては米国が過小な見積もりで日露を侮っていたから勝てたが、後三隻も空母を回されていたら分からなかった。

 なんせ、日本の主力である雲竜型は搭載機数が少ない。露天係止してようやく60機程度だが、米空母の場合、機体の特性もあって80~90機積めるものが多い。その為、後三隻持って来られていた場合、保有機数は圧倒されていただろう。日露側がハワイの地上機まで気にしないといけない状況だったことを考えると、紙一重と言えた。

 仮に、米側が後一隻投入していれば、日本側は航空管制が怪しくなった、二隻で飽和し、三隻では崩壊していただろうと分析されている。余裕を持って対処できたのはただの幸運でしかない。



 さらに運が良かったのは、今が米大統領選の終盤だったことだ。


 米国でもこの大打撃はセンセーショナルに報じられた。


 理由は簡単だ。野党候補が敗北情報に飛びついたのだ。これほどのインパクトを持った現職への攻撃材料などない。

 情報提供したのはロシア系の人たちだ。しかも、参謀部の戦闘分析の一部まで渡っており、野党候補は日露戦力を過小に見積もり大敗北を喫した事を声高に叫んだ。


 そして十一月の大統領選挙は僅差で現職が勝利したものの、それはほとんど勝利とは言えなかった。本当の地獄はそこからだった。


 俺がその事実を知ったのは十二月に入ってから。


「これは、本当か?」


 そう疑ったのも無理はない。


 その情報というのが、米国内での朱勢力のスパイ摘発事件だった。更に、そこに追い打ちをかけるように、英独協定情報まで撃ち込まれたこともあろう。


 英独はハワイで死闘が行われていた頃、ある協定を結んだ。通称ユダヤ人協定と呼ばれるもので、ドイツ占領下に居る数百万のユダヤ人を領域外へ追放し、英国がその移動に協力するという内容だった。


 米国では対独支援の傍ら、チョビ髭によるユダヤ人弾圧に関する報道に政権が圧力を掛けてほとんど報じられていなかった。その事実がここで露見してしまった訳だ。


 朱勢力においてもユダヤへの迫害は推し進められているのは、ユダヤネットワークでは常識だったし、チョビ髭のそれは脅威そのものだった。

 チャイナフロンティアのためにこれまで我慢していた米国内のユダヤ勢力も、さすがに朱とドイツの双方に浸食されていた米政権には愛想をつかしたらしく、多方面からの非難と圧力によって、大統領選挙で勝利しながら就任できないという事態に陥ってしまった。

 さらに、南方国家と日本の衝突はただの偶発的な事件でしかなく、そこに便乗して日本を挑発した挙句に戦争を引き起こした事までが暴露されては、政治生命は尽きてしまったも同然だった。


 裏では前皇帝と共に米国に渡ったロシア人たちが動いていたことも、ロシアから聞いた。

 前皇帝一派と朱勢力、或いは米国の一部政治勢力は長い間抗争関係にあったらしい。特に鋼の粛清者からしてみれば、ロシア皇帝がのうのうと生きている事は許し難かったらしい。ロシア側もソ連による暗殺計画を把握し、阻止、妨害、排除を繰り返し、米国内に浸透した朱勢力のあぶり出しも行っていたが、根幹にはなかなかたどり着けなかったという。そりゃあそうだ、政権中枢や官庁の中枢にいるんだもの。


 ようやく辿りついても、自ら手を下す訳にも、安易に真正ロシアに通報する訳にもいかず、機会を窺っていたらしい。

 それが、今回の大統領選挙において野党を味方につけ、司法も懐柔した事でようやく行動に移せたのだという。

 幸運というしかない。いや、ゲームとしてはなかなかスリリングで良い展開だと思う。


 昭和二十(1945)年三月十五日、あれだけ動かなかった和平工作が急転直下、停戦へと雪崩をうって動いたのだった。


 停戦協定会議はハワイ近傍の会場で行われ、日本からは俺と総理大臣が、ロシアからは首相と参謀長が参加し、米側からは暫定大統領となった野党候補と陸海軍のトップが参加していた。

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