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44・殿下、豪語す

「そんなことをやっているとはな。しかし、その中途半端な戦力では、わざわざ罠に飛び込むだけではないか」


 昭和十九(1944)年に入ってようやく完成した大型計算機を用いての暗号解読が成果を出し始めたのは夏ごろの事だった。

 春先からの試行錯誤の結果、米軍の行動と解析結果を突き合わせることで何とか解読の成否が判明したのが六月ごろであった。そして、信頼性が確立できたのが七月下旬ごろ。


 八月にはその大半がアフリカ作戦の電文であり、ただ練習、習熟用に解読を行っていたのだが、真珠湾作戦が決定したのちに衝撃的な情報が舞い込んできた。


 それが、海軍の誰が考え出したのか、大返し作戦だった。


 今年の初めから大挙してアフリカへフランス亡命政権の地盤を造り、秋には太平洋へと取って返して日露を相手にするというモノ。


 その中の一部を傍受し、解読したものが俺の許へと渡された。


 それによると、現在太平洋にある3空母に加えて10隻ほどを回航して作戦を行うという。その作戦内容も一部判明しているが、ハワイから南洋へと侵攻し、可能な限り拠点となる島を打通し、グアム、ないしはサイパンを奪い取るモノだった。

 現在の日本は南方諸国と戦争をしていないことから、史実の様にトラック泊地を建設していない。あくまで日本本土とその近辺を拠点としている。

 そのため、外回りする形で南洋に点在する哨戒拠点やグアムやサイパンをはじめとした幾つかの要塞島を攻撃し、日本艦隊を誘い出してこれを撃滅する計画だった。


 ただ、プランBも用意されており、日露が米国がアフリカに掛かりっきりの間にハワイやアラスカへと侵攻した場合、10月初めには再編が叶う大艦隊によって一気に反攻作戦に出るというというモノだった。


 そして、米国は日露艦隊によるハワイ攻撃計画を察知したらしい。


 総勢空母13隻を主とした大艦隊とハワイ在住航空戦力で反撃して来ると言うのだが、少々遅かったのではないかという気がしてならない。

 日露合わせて18隻に上る空母を基幹とする大艦隊に対処できるだけの戦力を用意できているのか怪しい。


 というのも、ここのところハワイ近海には瀬戸内の造船所が量産を始めた新型潜水艦、呂100型や伊201型が多数遊弋し、ハワイへ向かう船団を漁りつくしているからだ。

 米国もバカではない。対独参戦を決めた時から本格的に護衛空母の配備を始めており、英国からの情報によれば、ラ・ロシェルを基地とするUボートに相応の損害が出ているという。

 当然、太平洋でもアラスカやハワイへ向かう船団にも同様の護衛が付いているのだが、呂100型、伊201型の配備が始まって以後、日本潜水艦の犠牲は目に見えて減少傾向にある。

 何といっても、あの造船所が作り出している潜水艦は戦後、世界が採用する水中高速型潜水艦だ。史実のUXXI型よりも高速で、少なくとも、日露の水中探信儀(ソナー)にはほぼ引っかからない静粛性を誇る。KMX(磁気探知機)では発見可能だが、水中速力を知らなければ、撃破は難しい。


 そんな潜水艦が屯するハワイ沖を航行すればどうなるか。いくら航空機を飛ばしてレーダーを用いて監視していようとも、そもそも、潜ってしまえば行動が従来の倍近い速度を出す事から、米軍には全く予測不能な行動を採っているように見えている事だろう。

 日本でもそうだが、戦時標準船というのは大量建造を旨とするため、量産性の高い機関を採用すしており、戦前の高速貨物船のごとき速力は出ない。流石に航海速力18ノットなどとなるようであれば、空母護衛が付けば襲撃は難しくなる。が、12ノットを下回る程度の船団に対しては、水中速力18ノット以上を誇る高速潜水艦には、格好の餌食でしかない。

 しかもだ、英国が入手した音響追尾装置も提供され、あの造船所は音響追尾魚雷まで作り上げてしまった。流石に航空魚雷には装備できないが、潜水艦用ならば問題ない。

 

 そう、潜水艦と魚雷の双方が進化した事で、米船団に逃げ場はなくなっている。


「作戦期日は十月に入るから、飛んで火に居る秋の虫ってところか」


 そして、作戦内容はミッドウェイ作戦の反省から、上陸よりも米艦隊の撃滅を第一と定めている。今回は新型彗星の更なる改良型も多数配備されており、そのうちいくらかを偵察機として運用するという。

 さらに、この改良型は胴体下面に装着する整流された増槽、21世紀には常識であるコンフォーマルタンクという奴を装備している。一部からデブと言われているが、速度をほとんど犠牲にせず長距離飛行が出来る事から偵察にも攻撃にも有用な装備である。ただ、胴体に爆弾搭載は出来なくなるので、搭載量が減少するのが問題ではあるが、そこはケ号爆弾を用いて相殺するらしい。


 本来の攻撃日時は十月八日ごろだったが、米艦隊を捜索して数日を費やした結果、戦闘に至ったのは十一日になってからだった。


 報告書によると、まずは新型彗星がケ号爆弾を抱えて持ち前の高速力を生かして高高度から突撃をかましたらしい。時速640キロで突っ込む攻撃隊を迎撃するには、F6Fはまるで役に立たなかったらしく、「彗星に後方機銃の必要なし」という勇ましい報告まで書かれていた。

 しかし、もうすぐ米海軍委はF4Uが大量配備されるから、そうはいかなくなるだろうが。F8Fなんかだと、空荷じゃないと振り切れんだろうしね。

 

 この第一波が戦闘機を振り切って四群に別れた米艦隊のうちの二つに襲い掛かり、それぞれの艦隊の空母や巡洋艦と言った大型艦を中心に打撃を与えることに成功したようだ。突入した120機のうち、未帰還は僅かに4機でしかなかったという。


 その第一波の後に第二波として烈風と流星の戦爆連合が攻撃を行い、4隻の空母に損害を与えたらしい。


 さらに残りの2群の艦隊に対しても旧型の彗星と流星を基幹とした戦爆連合が襲い掛かり、犠牲を出しながらも3隻の空母に損害を与えたという。


 日米の艦隊はそれなりに接近していたため、米側からの反撃もあったが、そのほとんどを空母からの管制によって防ぐことに成功している。


 さらに第四波となる攻撃隊を編成して更なる攻撃を加え、初めに攻撃した二群の空母は全てが飛行甲板を損傷して戦闘不能にし、残り二群へと襲撃を掛けるものの、夕暮れとなって一日目の攻撃を終えたという。


 翌日もさらに攻撃は続けられ、こちらも4隻が被害を受けるも、日没までにすべての空母の戦闘力を奪う事に成功した。


 ちなみに、ロシア空母はハワイ攻撃を担当しており、予測通りに第一波の攻撃隊を凌ぎ切ってしまうとハワイからの攻撃はほぼなくなったという。

 飛行場の破壊や防空に上がった戦闘機の撃滅などを行い、一日でハワイの航空戦力を撃滅してしまった。

 翌日は日本艦隊に合流して米空母群への攻撃に参加した事で、米側は完全に対応能力を超えることになっていたのだろうという。

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