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43・殿下、米国の動きに博打を実行す

 既存の戦術から逃れられない海軍に対し、すでに空軍が行っている運用法を指示した。


 流星は空軍でも攻撃機として運用しており、その搭載能力から双発軽爆撃機の後継となっている。


 2トンを超える搭載能力を生かして複数の爆弾を抱えて米側の島へ爆撃に向かうのはアリューシャンでは日常で、最近では爆弾ではなく便器や風呂釜を積んで攻撃に向かった機体があるという。完全にアレだ。その原因というのも、同じエンジンを使ったロシア機が酒樽を積んだことから、何が積めるかという話になり、お互い、便器や流し台、風呂釜を積んだという。

 そして、寝台や鏡台を積もうとしたところで発覚し、それは実現しなかったという。


 海軍にも便器まではやっても良いから、爆装手法を空軍に倣う様に指導したんだ。


 彗星については、俄かに開発されて空軍戦闘機に採用されたターボプロップへの換装を提案した。


 もとは液冷エンジンで開発されていた機体だが、大出力星形エンジンの成功で、期待された高速力は他に代替えが利く状態となり、英国で完成した新型エンジンを導入するには試作期限に間に合わないという状態だった。メーカーも技研担当者も頭を抱えたが、そこに降ってわいたのが、開発されたジェットエンジンでプロペラを回す事だった。

 舶用ガスタービンがあったので考え方自体は既にあり、開発も順調に進んだという。そして、出来上がった機体は液冷エンジンよりも軽量化した機体で、その割に出力もあり、余裕で時速700キロを超え、高空性能は他の追随を許さないというセールスポイントまで備えていた。


 彗星も搭載エンジンは同じ液冷エンジンなので、換装も可能だろうと考えた。


 結果、予想通りに性能が飛躍的に上がったのだが、低空では燃費の悪さが問題となってしまった。


 しかし、エンジン出力が大幅に上がったことで、最高速度を600キロ少々に妥協するならば、増槽を装備したうえで爆弾も積めるは作戦半径は維持可能という、艦爆としては他に類を見ない高速機が出来上がった。当然、増槽の替わりに爆弾も吊るせるので、流星ほどではないが、爆装はそれなりに出来る。


 このため、早々に新型彗星への機種転換を図る事になり、未だ機種転換が終わっていない部隊からターボプロップ彗星を配備しだしている。戦法も大幅に変更されて、時速600キロを超える高速侵攻攻撃を主体にした大胆な戦法が導入されることになった。

 もちろん、速度がここまでになると、従来の急降下爆撃は危険になる。そのため、反跳爆撃や緩降下爆撃を主体にすることになり、艦爆、艦攻という種別自体に意味が無くなってくることにもなったが、彗星が戦闘機を振り切って艦隊に対して多数の小型爆弾による制圧爆撃を行ったり、反射材爆弾を投下してレーダーをかく乱する事で流星による攻撃をより確実にすることが考え出された。


 そもそも、速度がまるで違う旧型彗星(時速570キロ)と流星(時速520キロ)で編隊を組んだり、ただ馬鹿正直に低空侵攻だけやっていてもどうしようもなかった。より速い新型彗星には、他の機体には出来ない戦法を要求するのは間違っていないだろう。


 日本側がそんな事をしている間に昭和十八(1943)年は暮れ、昭和十九(1944)年を迎えた。


 米国は二月に早くも動き出した。


 しかし、動いたのは太平洋ではなく大西洋側で。


 なんと、ダカールとカサブランカへと大艦隊を連ねて来襲したのだという。空母18隻というから、完成している正規空母の大半が投入されている。太平洋には実働3隻程度で、今なら簡単にリベンジはおろか真珠湾すら取れるんじゃね?と、誰もが考えていた。


「まあ、そうなるだろう。で、動けるのはいつの話だ?」


「機種転換もありますので、早くて8月、確実に可能となるのは10月に入ってからではないかと」


 という報告だった。


 日露の正規空母合わせて22隻になる。戦線に投入可能なのが18隻。その大艦隊で持ってハワイを取りに行く。やってできない事は無いし、今ならタカが3隻程度の空母と補給が先細りになりだしたハワイの陸海軍機しか居ない。仮に、大西洋での作戦が順調に言っても、10月までに回航可能な空母はせいぜい数隻程度と見積もられていた。なら、今でしょ!


 アフリカ情勢の情報を仕入れながら準備を行う。今回はこれまでの様な旧態依然の作戦はすべて排除して、彗星による高速侵攻、流星の重爆装を基本としている。

 そして、新しい兵器も投入可能となった。


「さすがに翼を付けて滑空させるほどの律敏性は無理だったのか?」


 海上試験を視察した際の俺の感想はそれだった。


「やってやれんことはありません。しかし、検知器の視野が狭いので滑空や噴進式では熱源を常に捉えながらというのは技術的には難しいと思います」


 そう返されてしまった。


 史実と違い、実用化に成功したケ号爆弾。しかし、赤外線センサーの視野は狭く、追尾させるには滑空やロケット推進による飛翔は未だ難しいという。それでも赤外線誘導弾が実用化出来てるんだからすごい。しかも、ケ号爆弾より大幅に小型化されており、流星なら四発、彗星にも最大二発が可能だった。


 ただ、開発時に一発命中すると他の爆弾まで吸い寄せることが問題視され、検知器の視野を極端に狭く設定して、投下目標の周囲の熱源にしか反応しないようにしたのだという。おかげで感度を上げる事が出来て駆逐艦や地上施設にも使用可能となった。とは言え、21世紀のミサイルとは色々比べてはいけない性能ではあるんだが。


 そしてとうとう、8月には最終調整が行われ、9月下旬に作戦実施が決定した。

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