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35・殿下、あまりの衝撃に沈黙す

 九月に始まった北方作戦は米軍誘引策でもあった。史実とは意味合いが違うし、カムチャッカ半島を防衛するにはなくてはならない重要なものである。


 が、米軍が北へ誘引できればそれだけフィリピン攻略が容易になると考えた。


 そして、本命というべきフィリピン上陸作戦の前にハワイを攻撃することも裁可した。


 史実と違って現在のハワイに太平洋艦隊が大挙して停泊している訳ではない。そもそも、真珠湾で戦艦群、或いは空母を着底させたところであまり大きな意味がない事は理解している。

 やろうとしているのはフィリピン救援を遅延させ、その意味を失わせようという行動であって、戦艦や空母が第一目標という訳ではない。


「ただ、パニックや疑心暗鬼を植え付けるためにダイヤモンドヘッドの爆撃もやってもらいたい」


 そう付け加えるのを忘れなかった。


 当時、ダイヤモンドヘッドには真珠湾要塞の観測所や砲台が設置されており、今のリゾートであるあの海岸は格好の餌場だったわけだ。しかし、戦時中に要塞の必要性が失われたのち、市街地の拡張や基地の改修で今ではワイキキビーチ周辺の要塞跡は軍施設内の一部に残るのみだという。対して、今観光用に整備されているダイヤモンドヘッドの登山ルートはそのまま、当時の観測所跡だったりするのだが。あんな高い所から射撃指揮が出来るなら、そんじょそこらの戦艦や空母を投入したからと言って、そう簡単にワイキキビーチへの上陸は成功しないのではなかろうか。


 そう、ダイヤモンドヘッドを攻撃することで、アリューシャンの次にハワイが狙われると思ってくれれば良いなと、そんな願いを込めた嫌がらせだ。


 攻撃隊の編成だが、この世界、ロンドン条約が締結されず、二年遅れて東京条約が締結され、更に東京条約が延長されたために、史実の翔鶴型空母は建造されていない。代わりに昭和十四(1939)年に臨時計画として商船改造空母の建造が計画され、指定建造されていた商船を買い取り、史実の隼鷹型に近い空母が建造されることになった。

 瀬戸内の造船所は自身の計画していたより大型の貨客船計画を空母転用することを海軍へと打診し、船体サイズでは米のエセックスや大鳳と同規模の空母計画で、更にはそれを二年以内に建造するという話だった。

 しかも、すでに自費建造中の2隻については、そのまま空母へと改造することで一年程度で納入可能だととんでもない話を持ち掛けて来た。

 どう考えてもここの経営者は転入者で間違いない。こんなタイミングよく空母転用可能な船を自費建造?あり得ねぇ。


 蒼龍、飛龍に関しては史実通りだし、赤城、加賀もある。そして、あの造船所、本当に昭和十六(1941)年春に引渡してきやがった。

 海軍の艦載機に関しては、エンジンの信頼性は史実より高いが、小径エンジンに固執したのは史実と変わらない。


 そのため、栄や瑞星の出力は史実程度、せいぜい1200馬力でしかないので、所詮は零戦しか作ること適わず、某新規メーカーが金星を使って作り上げた救英機の方が、俺から見ると優秀に見える。

 艦攻、艦爆についても大きな違いは無い、違いがあるとすれば、試作中の次期艦爆のエンジンがダイムラーからロールスロイスに変更されているくらいだ。


 だが、一つだけ問題が発生している。この世界の翔鶴型は二段格納庫を備えていない。一段格納庫で、元が商船基準のために幅が広い分、多少の余裕があるに過ぎない。

 そのため、折り畳み機構が装備された救英機が急遽採用されて戦力維持を図っている状況だ。


 この機体、零戦に似たシルエットでありながら、艦攻同様に主脚より外の翼を折り畳む事が出来る。その為、零戦なら二機しか入らないスペースに三機収める事が出来るようになった。


 こうして何とか戦力構築を行い、6隻の空母をもってハワイへと向かわせた。


 当然だが、救英機を積んだために翔鶴型には艦攻を積んでいない。代わりに戦闘機に小型爆弾を4発積むことで代用している有様だ。まるで史実知識が役に立っていないことがもどかしいが、陸海空に転入者が居そうだってことで放て置いたのが拙かったんだろうか?


「はぁ?本当か!」


 作戦実施の日、作戦成功の報を心待ちにしていた俺の耳に飛び込んできたのは、凶報だった。


「ハッ、間違いありません」


 良い話を先にすると、ダイヤモンドヘッドや真珠湾軍港への攻撃は成功した。


 そもそもが史実の様な不意打ち奇襲ではないので、敵も警戒していると考えていたので、搭乗員の犠牲はやむなしと覚悟していた。

 そのために搭乗員養成枠を何倍にも増やしてこの戦争に備えていたんだ。工業力はあるので、後は乗り手さえ養成できれば史実の様にはならないと考えていた。


 この点では覚悟した程の犠牲は出ていない。八割の生還という報に笑みさえこぼれた。


 今回の作戦では米軍の攻撃を考慮して集中運用ではなく、空母を二隻毎に分けて小グループごとに散開させるようにしていた。


 それがいけなかったのかもしれない。第一次攻撃を難なく成功させた艦隊は第二次攻撃を敢行したのだが、攻撃隊を発進させた直後に米側哨戒機に赤城、加賀グループが発見され、生き残っていた基地から攻撃隊がさしむけられてきた。非常にタイミング悪く、しかも、秘匿優先でレーダーを稼働させていなかったもんだから敵機の発見も遅れてしまい、二隻は被弾。米攻撃隊の一部は蒼龍、飛龍グループも発見してそちらへの攻撃も行い、運悪く蒼龍も被弾。


 加賀は艦橋付近に爆弾が着弾して指揮機能が喪失した上に、格納庫内で待機中だった第一次攻撃隊の機体が甲板を貫通してきた爆弾の爆発で炎上。指揮系統が機能せずに消火に手間取り全焼してしまい、機関部にもダメージを受ける事態となったため、雷撃処分となってしまった。

 赤城と蒼龍は飛行甲板は使えなくなったが船体の機能には影響がなく、応急処置を施して帰路についているらしい。

 第二次攻撃隊は翔鶴、瑞鶴が引き受けたが、格納庫に入る訳もなく、ほとんどの機体は廃棄処分として搭乗員だけを連れ帰ってきているという。


「空母も航空機も量産は出来る。搭乗員さえ無事ならそれで良い」


 衝撃的な報告にそう答えるのがやっとだった。


 

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