表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/46

28・殿下、やらなきゃいけない事だと諦める

 上海事変は南方勢力の攻勢によって現地守備兵力では手に負えず、かといって北京政府軍の手に負える地域でもない為、日本軍の追加派兵が要請されることになった。


 さて、誰が行くのだろうと他人事を決め込んでいたら俺が行けという話になった。何故だか分からない。


 つい最近、内蒙古に放り出されたばかりだというのにまた海外である。


 そして準備の終った派兵部隊を率いて上海を目指したのだが、乗り込んだ船はカーフェリー然としていた。ちょっと待て、何かおかしくないか?

 この世界では陸軍が自前で船舶を揃えるという事は無く、大型輸送艦船は海軍が編制している。そして、今使われているのは、外航向けの大型船の一種であるというが、この時代にこんなものがあるなどとは知らない。


「殿下が知らないのは当然ですよ。瀬戸内の造船所が今回初めて海軍輸送船団向けに建造を始めたばかりですから」


 あっけらかんとそう言われた。


 何でも、瀬戸内の造船所では内航航路向けにプロック工法を用いた船を造り、今では鉄道連絡船だけでなく、カーフェリーの分野を切り開いているという。

 軍に対しては、舟艇の運用に適したドック付き船舶と上陸した工兵が作った簡易桟橋を利用して接岸して荷下ろしが可能なこのカーフェリーの二種類を提案し、試験的に購入して今回が初の実戦投入なのだという。


 その言葉に少々の不安はあったが、上海に到着するとすでに接岸可能な桟橋が設営されており、何の問題もなく装甲車やトラックを自走で陸揚げすることが出来た。

 今回、九六式歩兵銃と軽機関銃の初の実戦投入でもあり、参謀たちも随分張り切っていた。

 ただ、情勢はイマイチ分からない。なんせ、スキンヘッドの南部勢力が攻撃してきたという話だったが、今相手をしようとしているのは、南京を首都とした別人の勢力だった。いや、これも南方勢力の一つではあるんだが、中国情勢というのはまるで理解の範疇外だ。


「これから相対するのが、シナの政府軍で良いのか?」


 そう聞いてみたが、聞けば聞くだけ頭が混乱した。まるで意味が分からない。

 現在、北京を首都とする北京政府があるが、これは日英露の支援が行われる勢力で、華北を支配している。すでに揚子江流域からはほぼ放逐されて、英国の支配地域である山東省周辺あたりまで支配地域は北上している。

 対して、スキンヘッド自身の政権というのが非常に曖昧で、当人以外の人物が南京を首都として揚子江流域の華中を支配下に置いているというのが現状だった。あのスキンヘッドはどこに居んの?


 そんな複雑な状況で、誰かと交渉し妥結しても別の勢力から指令が飛んで交戦が始まるという全く持って意味不明な状況が出現している。史実日本はこんなところへ攻め込んで何がやりたかったんだ?


 そんなわけで、山東方面を英露軍が抑え、日本軍が上海を抑えるという事なのだが、では、どこまで?というのが判然としなかった。租界だけで良いのか?郊外までなのか?中洲の島を含むのか?


 結果、各国と協議の末、租界への攻撃を防ぐために郊外に防衛線を引くという話となり、それに従って作戦を行う事になった。


 しかし、場所が場所だけに持ち込んだ機材を有効に使えているとは言えない。敵の使うモーゼル銃の方が大口径で装甲車への威力も高かった。

 しかし、そこは重機関銃による応射でどうにかして迫撃砲や擲弾筒を撃ち込んで撃退していくことになった。

 夏に始まった戦闘は秋になって上海南方に日本軍が上陸した事でようやく終息を見せることになる。


 しかし、ここでやはりと言うか、米国は他の租界経営国と違い、上海周辺で略奪や処刑された人々を日本軍による蛮行とのキャプションを付けて米国内で報じるようなことをやっていた。蘭州爆撃は実態はロシア軍であることと合わせ、日露が中国大陸分割を目指して大規模侵略に出ているという論調がこの頃には見られるようになってきた。スキンヘッドと組んで大陸支配を目指す真犯人がよく言ったもんだと思うが、それが米国内では一定の広まりを見せていく。


 日本国内での報道も、朱にシンパシーを持つ連中が盛んにシナ誅罰を喚いている。暢気な日本人はお祭り騒ぎの一環でそれに乗って騒いでいる始末だった。

 なるほど、俺が上海派遣軍に居る理由が分かったよ。連中がそれ以上何も出来ないようにするためなんだな。

 実際、政府系の新聞やラジオに俺が今回の行動を租界防衛とハッキリ表明し、スキンヘッドや南京政府には謝罪や賠償は要求すると声明を出すことで、抑えつける事になっている。

 なんとも日本の民主主義とは脆弱なのかと嘆かわしくなるが、あのエロ元老が言った通り、こうして皇族が道筋を立てないといつ隘路に嵌り込むか分からないのが、今の日本なんだと改めて胸に刻むことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ