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18・殿下、奇策を実行す

「殿下、今何と?」


 いつもの会議の席上、俺はある事をぶち上げた。参加者の反応は唖然としているか呆気にとられている。まあ、「こいつ、何言ってんの?」な状態だった。


「自治条約を決めた席上でも申した事ですが、韓国を我が内に引き込むことは、皇室を彼らの思想に晒すことになります。儒教における易姓革命の対象として皇室を見る様になるという事です。まず、その様な事態は避けなければなりません」


 一番の問題はそこだ。戦後日本ではまるで見ようとしない儒教的価値観。日韓にある問題はまず、儒教的価値観を前提に考えないといけない。


 が、そんなことをすれば日本も朱に染まる者が多く出てくることだろう。21世紀にすら朱に染まって反天皇とかやってる大人になれない幼児が蠢いているのだから、ここで強烈に儒教に晒されてしまえば、このゲーム世界では21世紀に天皇制など残らないかもしれない。戦争に負けてしまえば、だが。

 朱と儒教のコンボはそれほどまでに酷い。きっと中華共産主義みたいなキメラだか(ヌエ)みたいなモノが日本にも闊歩している事だろう。


「遅くなれば遅くなるだけ易姓革命の思想が日本に広まり、朱と交わってしまうでしょう」


 後は女好きの元老が育てた外交官たちに任せるしかない。


 彼がハルビンで死ななかった事でいろいろできる可能性が増えた。そこで、彼には後進育成をお願いしたのだが、女遊びの時間を潰されたことを恨んでいたのかもしれない。育成した外交官や政治家の初仕事は、前皇帝の四女を俺に嫁がせる話し合いだったという。嫌がらせにも程があるが、女を見る目だけは優れていたんだろうな。今となっては彼には感謝しかない。


「まだ死んでおらんぞ、殿下」


 当人から抗議が来た。そう、まだ生きてやがるんだ。流石にアッチの元気は、無いよね?


 当人の意味ありげな目を無視してこの場の話を進める。


「殿下が合邦ではなく、自治を言ったとき、ワシは反対だった。朝鮮も近代化できると、当時はそう思っていたからだ。だが、自治を開始して以後のかの国は何も変わらないどころか、自らの利に対してのみ興味を向けるようになった。旧態依然の体制を崩そうともしなかった。ここで合邦したからと言って、それが変わるとは思えん。虎の威を借る狐よろしく、シナ、満州で何をしでかすかわかったものではない。我が国の民となるのであれば、彼らの仕業も我が国の罪。現在両班が北部で行っている事を満州で行われては事だ」


 この20年で元老もかの国を理解している。同情的な感情論のみでこのまま支援を行ったところで、苦労と費用をただドブに捨てるだけだ。


「しかしお二方、現在のかの国の現状は早急な援助を必要としておるんです。我らが新たな法を施行し、両班の暴虐を取り締まれば、我が国と同じく豊かになる事でしょう」


 昔の元老の様な事を言う参加者がそう熱弁をふるう。元老はそれをただ黙して見つめるのみだった。


「もし、そうであるならば、20年も時間があったんですよ?明治20年の日本と今の韓国を見比べてどう見えますか?」


 結局、あの国は今まで権力闘争に明け暮れて国としての発展とは程遠い。ごく一部の都市以外は中世のままだし、やっている事は都市部においてすら中世のままだ。だからこそ、今の時点で簡単に朱に染まる者が大量に出たのだろう。ただ、仮に朱化革命が成功しても、皇帝が個人から党に変わるだけで、科挙による両班が党員に変わる変化しか起きなさそうではあるが、ウィルスのように増殖して膨張を続ける朱毒と儒教が合体した猛毒を放置することは出来なかっただけだ。

 それらを考えたであろう発言者も黙らざるを得なかった。


 当然だが、日本からこんな話を公式に持ち掛けるわけにはいかない。そんなことをすれば国内が混乱する。

 同じ混乱であっても、相手からであれば、事情は変わって来るだろう。




 それから半年後、ロシアから朝鮮族の帰属問題という話が持ちかけられた。満州軍閥首領を関東軍が爆殺した事で、ロシアは主張していた北満州をほぼ完全に手に入れている。そして、吉林省を欲して日本と協議を行おうとしたのだが、そこには朝鮮族が多く居住する地域が存在した。その為、韓国を併合した日本と境界をどこにするかという協議を行おうとしていた。


 というのが表向きの理由だった。実際には日本側から半島自体の譲渡を持ちかけていたのだ。


 これからロシアが発展するにあたって、対外的に交易可能な場所が必要な事は明白だった。

 現状でそれは大陸へ向かう鉄道かウラジオストクしかない。少々狭すぎると考えるのは当然ではないだろうか。

 日本としても、先の見込めるロシアとの交易を考えれば、窓口が広い方が良いのは間違いない。


「北部割譲地における権益をそのまま維持できるのであれば、日本としては何ら異存はありません。その代わり・・・」


 こうして結ばれたのが、朝鮮・北樺太交換条約だった。


 日本国内では異論が噴出したのは当然だった。もとよりの併合推進派や韓国内の惨状から同情的だった人々からすれば、同じアジアの同胞を白人に売り渡したという批判は当然の事だっただろう。

 しかし、そこにある試算を提示した。


「もし、韓国をそのまま日本が資本投下を行い近代化させる場合、資源豊かな北部、穀倉地帯として有力な南部への投資は、東北地方の振興に勝る利益となり、ロシアと交易のある一部地域を除いて、開発は後回しとなる事やむを得ず」


 そんな試算を見せられれば、冷害に苦しむ東北や北海道において、自分たちの生活が優先という意見が出るのは当然だった。更に将来像を示すと、発展した韓国と競合してしまう西日本でも否定的な意見が大きくなっていく。


 わざわざ自分たちが苦しむために発展させる必要は無いではないか、そう言う世論が作れた事で、併合維持派は力を失って行く事になった。

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