表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/46

17・殿下、奇策を発案す

 自治条約に関わった者たちの多くは既に鬼籍に入ってしまった。その為、自治条約を覆すような決定に対し、俺が首を縦に振ることが真っ先に求められた。


 関東軍の暴走を誅した俺が同じような事を決断しなければならないのは皮肉だった。しかも、そこはシリアやアフガンの様な場所だ。誰が味方で誰が敵かなど、目まぐるしく変わっていくかもしれない。絶対に現地勢力、現地人を信じてはいけない。そうしなければ、日本軍も混沌とした内戦勢力の一つとして呑み込まれてしまうだろう。


 俺が決断を下して三か月後、とうとう行動開始である。


 俺も陸軍の一員として半島鎮圧軍に参加しているのだが、現地は想像以上に酷い所だった。


 半島において、近代的な場所はごく一部の市街区や両班の邸宅などに限られ、農村などは中世に取り残されたような状態だった。日本の田舎もまだまだ貧しい状況ではあるが、ここはそれどころではない。


 なるほど、これを見たならば助けたいと思うのは当然だ。


 しかし、彼らを助けたところで、ここを統治しているのは中世から続く李朝であり、両班だ。朱に染まった連中を叩き潰したとして、その思想に触れた農民たちが何を始めるかは火を見るよりも明らかだし、更なる反乱を押さえたところで、それまでの搾取や収奪が続くだけでしかない。

 では、彼らを李朝や両班の支配から救い出せば良いではないか。そう考えるのが自然だろう。


 だが、俺はその結果を知っている。


 戦前、戦中。李朝や両班という搾取者から解放された彼らは、自らが搾取者として大陸へと進出していき、様々なトラブルを引き起こしていた。

 戦後は自らは敗者側の一員であるにもかかわらず、勝者側であるかのように振舞い、日本に対して搾取者として振舞っている。


 何も違いはない。


 そして、これは彼らの自然な考え方なのだから仕方がない。その根本を矯正しようとするならば、三世代以上かかるだろうし、彼らから半島文化を徹底的に取り除かなければならない。

 僅かな地域の習慣やおとぎ話、寺社の様な宗教施設や行事に至るまですべてだ。彼らを半島人ではなく、別の民族に仕立て上げなければ治る事は無い。


 そんなことが可能だろうか?


 残念ながら、否というしかない。ならば、本来関わるべきではないのだ。


 なのだが、半島が朱に染まっては非常に困る。なんとも悩ましい話だ。


 結果から言うと、鎮圧自体は僅か数か月で行う事が出来た。しかし、その後が大変だった。


 韓国内には併合派が残っていた。いや、その言い方は違うな。今回の混乱で王族を含む多くの中央貴族、官吏に犠牲が出ている。自力で国を建て直すのは難しいし、仮にこれまで通り自治を続けるならば、地方貴族や官吏を中央に呼び込む必要がある。


 しかし、そんなことをすれば、せっかく空白となった利権を地方の連中に奪われるわけだ。巧く日本に取り入れば、日本が暫定的に空白利権を所持し、後には自分達中央の者たちへ返還、ないし巧くすれば奪取できると考えるのではないか。


 結果的に、併合派既存勢力の延命にしかならない。だが、放っておくわけにもいかないジレンマがそこにあった。


 俺としては現状維持が望ましいが、現地の惨状を見た日本国内ではまたぞろ併合論が台頭している。


 海外に目を向けると、米国が舌鋒鋭く喚き散らし、国際調査団を韓国に送り込むと言い出した。日本としては拒否する理由もないので受け入れたのだが、まあ、報告内容は冷静に読めばマトモだが、部分的に抜き出すと酷いことになるトンデモだった。


 当然だが、米国は抜き出し、切り取り、切り貼りを行って日本批判を続けている始末だった。


 だが、その態度に欧州は何とも冷やかな目を向けている。


 被保護国が自身の対処能力を超えた事態に、保護国が対処するのは常識だった。米国人の多くは日本人を知らないが、欧州人は日本人を直接目にしている。

 多くの日本人は米国が言う様な鬼畜や野蛮ではなく礼儀正しかった。一部のヤヴァイ連中も、戦場以外では騎士か農民に過ぎなかった。それを知る欧州人から見て、気が狂っているのは米国のように見えるのは当然と言えただろう。


 そうなる様に、院長元帥らは戦後も各国を廻っていたし、将兵に対する規律は厳しくとも、自由な時間に現地人と交流することを奨励していた。

 そのため、欧州では日本人が肌の色以外自分達と変わらない知識や礼節を持ち、戦場では勇敢に戦い、巧みな戦術も立てられる存在だと知っている。同じ肌の色であっても、野蛮で粗野なところがある米国人と比較して、日本人には体格以外に変わるところは見付けられていなかった。欧州人にとって、米国人が言うからと日本人を見下すよりも、双方の意見を客観的に比較するだけの思考が働いた。


 知識人からすれば日本の行動に問題はない。自分達もそうすると考えていたし、一緒に戦場を駆け巡り、酒を飲んで騒いだ戦友を悪く思えない市民にしても、米国の主張には違和感を覚えていた。


 日本政府が正式に韓国を併合する決定をした時も、反対したのは米国のみ、欧州は全く問題としなかった。


 が、俺は更なる奇策に出る事にした。いや、史実を繰り返したくなかったからと言えるだろうな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ