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15・殿下、周辺情勢に頭を抱える

 国内では震災復興や制度改革、改憲と目まぐるしく事態が動いていた。


 俺自身もじゃじゃ馬姫の誤解が解けたことで二人の仲は急接近した。


 まあ、そんな具合に国内はうまく回っているのだが、外に目を向けるとまるで違う光景がそこには広がっている。


 真正ロシアと満州軍閥との争いは未だ解決の糸口が見えず、モンゴルではボグド・ハーンが死去し、転生者探しが始まっていた。しかし、転生者がすぐに見つかるという事はない。発見には最低でも数年はかかるとされている。その間、ボグド・ハーン不在になるのだが、そこに付け込んで共産主義勢力の盛り返しが行われ、ロシア側は防戦一方だった。


 さらに、真正ロシア建国以後、米国の中国大陸における活動が活発化している。最近は南部で勢力を拡大しているスキンヘッドの指導者を支援し、彼が北部へ進撃するのを手助けしていた。

 彼の侵攻を受ける側の北京政府はその主力が満州軍閥であり、対露戦に集中しているために主戦力が南部からの進撃に投入できていなかった。


 進撃を続ける南部勢力は昭和二(1927)年に南京へと進攻、そこで外国領事館や外国人を襲撃する事件を起こした。


「総理、外相は一体何をやっているんですか?米英が自国民を助ける中で我々だけが黙して被害に甘んじろと?さすがにおかしくはないですか」


 南京で襲撃事件が起きた直後、別件で会う事になっていた総理に南京での事態についても話をした。


 どうやら外相は対中協調を優先し、米英との協調をおざなりにしている様だった。


「それは確かに、一見平和主義に見えますが、同じことが満州で起きてもそうするんでしょうか?満鉄沿線にいる日本人の数は南京とは比較にならんのですよ?」


 史実においてはそんな事にはなっていない。しかし、満州軍閥が対露紛争に注力する現状においては、北京政府の瓦解も想定に入れておかなければならない。

 そうなった時、スキンヘッドが北京政府にかわって新たな中華国家の首班となる。南京で穏便に事態を収めるという事は、彼が満鉄接収を言い出したとき、外相ならどうするのだろうか?


 外相が中国に満鉄を引渡した場合、日本と英露の関係まで壊しかねない。本当にそれで良いのだろうか?

 しかし、総理ははっきり答えようとしない。


「もし、北京政府が倒れ、南部勢力による新政権が北部を制覇した場合、次は日露と対立することになるでしょう。日本が満鉄を中国に渡せば、せっかくの対露関係は崩壊し、北方に敵を生み出すことになりますよ?しかも、我が国の生命線である朝鮮北部の資源地帯を簡単に奪える位置に」


 そこまで言うと、さすがの総理も渋々、現在の外交方針を変更することを口にした。


「確かに、それは悪夢です。最悪の場合、殿下の尽力によって成った私の権限を行使し、外相を更迭いたす所存です」


 総理がそう言ってから僅か数週間で外相更迭が行われた。総理権限強化が何とか間に合ったと言って良いだろう。


 もし、史実のように対中協調路線を採っていた場合、英露との関係に亀裂が入り、さらに、中国首班とすら対立することになる。短期的には一見平和主義的な政策だったが、より長期的にみると外交的損失があまりにも大きすぎる政策であったと言える。

 それを未然に防げたことは良かった。


 もし、後の世、植民地が独立した時代であれば、外相の政策は普遍的であっただろう。しかし、時代はまだそのような政策を実施するには早すぎた。理想としては良いのだが、現実はそれに合致していない。まさに理屈倒れのナントやら。


 この外相更迭は別方面にも影響を与えている。


「はぁ?満州軍閥の首領を暗殺した?」


 飛び込んできた話はとんでもない内容だった。そう、アレだ。しかし、それって来年か再来年ではなかったか?


 しかも、調査の結果、どうやら関東軍が行ったらしい。それを聞いて、のんびり楽隠居をしていた院長元帥が軍務省へとやってきて陸軍長官を説教したという。

 そこから事態は急展開を見せる。


 院長元帥は現陛下の教育係でもあった。つまり、院長元帥を怒らせてしまった以上、陸軍は犯人たちを庇いだて出来ない。

 徹底した捜査の末、関東軍の実行犯だけでなく、政界にまで連鎖して類が及ぶ大疑獄事件となってしまった。政党を率いる元陸軍大将にその子飼いの狂犬や害鳥などが連座して罪に問われることになった。


 なぜ、代議士にまでと思ったのだが、史実と歴史が変わってしまった事で、連中は首領を暗殺し、満州が不安定化したところで一気に南満州を日本が抑えるという話をしていたらしい。狂犬や害鳥は満州政策に消極的な政府を突き上げてロシアの北満州占領に呼応して南満州を獲得する世論を作り上げる役割だったそうだ。


 その結果、関東軍の実行犯は軍規により銃殺となり、共犯であった代議士たちも死刑と相成った。


 この大事件によって軍務大臣は更迭、陸軍長官も辞職し退官することになった。ただ、総理は退陣せずに新たに軍務大臣を任命し、政権は続投という事になった。ただ、すべての問題処理を終えた後、速やかに総辞職という方針だけは打ち出されている。


 

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