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14・殿下、軍制改革と憲法改正に安堵す

 震災後、大きな混乱もなくインフラの復旧や被災者支援が迅速に進められていった。


 史実では色々混乱が起きていたが、まずはその原因である人々がほとんどいない事も幸いした。


 さらに、防災訓練という事で軍や警察は事前に動員されていたのも大きかった。

 訓練や図上演習がそのまま実際の災害出動として実施され、混乱を早期に沈静化させていた。


 俺が子守をやっていたのも、関東近郊で多くの部隊が災害出動待機の状態にあり、彼らが投入されることで余裕が出来ていたからだ。


 政府による帝都復興計画は大風呂敷を広げたモノになり、一部から批判もあったが、そのまま採決されることになった。出来ればその大環状線をちゃんと実現してほしい。そうすれば川の上を高速道路が伸びる複雑怪奇な乱立計画にしなくて済むはずだ。


 復興計画では不必要なほどに広い環状道路が計画され、地下鉄も多く建設されることになっている。そうすることで、今後に予想される災害時には、大規模火災を未然に防ぐことができると謳っていた。


 その陰で進められたのが軍の制度改革と改憲だった。


 もうこの10年来の話であり、機会を窺っていた。


 今回の災害対応に当たっても、陸海空軍の連携は万全とは言えなかった。


 統合司令部は未だ試案の段階で、今回も合同司令部として連絡調整がメインに行われたに過ぎない。


 そのため、情報伝達の齟齬や欠落、二重通報による混乱などが起こっている。

 試験的に開発された消防飛行艇などは、大規模火災が起きているにも拘らず、情報伝達が遅延した事でほとんど威力を発揮していない。いや、そもそも、21世紀の大型飛行艇や大型ヘリによる消火とは比べ物にならん小規模なんだけどね?


 これまでの事も踏まえてとうとう、統合司令部の常設が決まり、制度の詳細を三軍で取り決めるところまで一気に話を進めている。陸海軍の重鎮を元老たちが説得した結果でもあるし、欧州派兵という現実によって軍に柔軟な思考が生まれたことも大きいだろう。欧州派兵経験のある士官はそれ以外の連中とは考え方が違ってきている。

 俺もシベリア出兵組であり、周辺の連中の考えは欧州派兵組に近い。

 

 シベリア出兵に当たって、欧州での知見を取り入れるという事で要所要所に欧州帰還士官が配されていたのも大きいかもしれない。


 そして、一部で問題視されているのが空軍の存在だ。


 陸軍の一部や政治の場には空軍を陸軍が取り込むべきだという意見が散見される。しつこく問題視する代議士や退役陸軍将校が居るのだ。


 このままでは史実より早くに統帥権干犯問題に類似した話をぶち上げる勢力が出てきかねない情勢にまでなっていた。

 少々俺たちは事態を楽観視しすぎていたのかもしれない。


 なにせ、史実では昭和五(1930)年まで顕在化しないのだ。まだ余裕があるはずだった。


 しかし、空軍の創設によって予想外に事態は進行していると見て良いだろう。欧州行ったから統帥権を問題視しないという話にはならん。実際を見たからこそ問題視する人々も居るだろうし、ドイツ帝国の崩壊を見て、別の感想を抱く者だっていた事だろう。


「どうやら悠長にやっている暇はないらしい」


 そう促して、軍以外の省庁再編も併せて行う傍ら、新しく作る官庁の権限に関することも含めて、「憲法に想定の無い事態が起きているので、憲法の『改善』を行う」という方向へと議会を誘導していった。


 少なからぬ人々が欧州を知り、近代戦を経験した。この影響も大きく、賛同は徐々に広がっていき、一部の者を除いて改憲賛成という情勢が出来上がる。


 ただ、そこまでにはさらに2年を要したのだから大変だった。


 その間、新聞で騒ぐ者も居た、議会で騒ぐ者も居た。


 ただ、そうした騒ぎは欧州へ渡った者にとって、稚拙で薄っぺらいゴッコと映っていた。難しい話は分からなくとも、まるで本質とは違う表層的な事で騒いでいるのが分かった。

 士官に限らず、兵でさえ欧州人の議論を間近に見ている。こんな茶番や喜劇が議論と言って良いのか?そんな疑問を彼らは持っていた。


 結局、騒いだ新聞や政党はその勢力を衰退させる一因となり、結果として賛成が上回る状況と相成った。


 そうしてようやく、制度改革が成り、総理大臣に多くの権限が与えられ、災害時に大きな権限を有する官庁が発足している。当然、陸海に空軍が正式に加わることとなった。その上で、三軍を束ねる統合参謀部が設置され、指揮権限は統合参謀長に一元化、軍制も軍務大臣に集約されることとなった。陸海空軍には長官職が設けられたが、直接天皇に上奏可能なのは統合参謀長一人となった。陸海空軍が単独で好き勝手に天皇に上奏する機会は無くなった。総理を通さない上奏自体、戦時の緊急事案に限ると明記されてもいる。


 憲法改正に際し、統帥権には「軍ノ指揮ハ総理が輔弼ス」の文が加えられ、天皇の補佐を総理大臣が行うことが明確化し、編制権には「議会ノ協賛ヲ得テ之ヲ定ム」と追加されて議会の承認を前提とするものとなった。


 制度としてはアレを繰り返さないモノを整備することが出来たが、問題はそれを運用する議会、議員の資質によるところが大きい。

 欧州派兵で多くの将兵が議会制度の何たるかを直接見聞する機会を得た。各種の国家間調整や企業取引で軍人以外の官僚や民間人も欧州やロシアと関りを持つに至っている。史実と同じ轍を踏まないようになってくれることを願うしかないだろうな。

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