11・殿下・新たなテンプレに出征す
多くの仮想戦記において、テンプレと言えば対米戦?いやいや、まずその前に、欧州戦線への参戦、そして、ロシア皇帝一家救出ではないだろうか?
やはり、このテンプレも出来れば実行したいと思い、元老を頼って工作、交渉を行った。
元老だけに頼ると言うか、元老には後進育成もお願いしているので、はねっ返りや勘違いではない政治家や軍人を育ててもらう様に。まあ、軍神をどうにかしないと海軍はどうにもならなかったが。
空軍創設騒動と並行して行われた対露工作は完璧な訳もなく、あまり良い結果を引き出せはしなかった。
しかし、ロシアでの革命騒ぎに際し、何とか英国を説き伏せて亡命に応じてもらえたのは幸運だった。
その後どうするかも当然ながらテンプレだ。
「シベリア平定ですか」
陸軍の元老が渋い顔をする。
「私も出る」
そう言うと、困った顔をしたが行って良いらしい。
そこからが色々大変だった。東北や北海道の真冬の訓練は死ぬかと思ったが、何とか耐えた。マタギのヤヴァイ部隊がどんなものかを実体験したが、冗談じゃない。何やってんだアイツら、頭もおかしいが体もおかしい。
豪雪地帯を普通に踏破しているし、訓練なのか狩猟なのかもよく分からん、訓練中に熊を狩る必要はあったのか?
「宮さまもこれどうぞ」
そう言って得体のしれないモノを食わされたりもした。吹雪になるとかまくら作って耐えたかと思えば、落伍したはずの連中は捜索隊が発見した時には雪合戦して遊んでいる始末だ。本当に何やってんのか分らん。
そんな連中に混ざってシベリア行きと相成った。
作戦自体は、俺が事前にその必要性を説いていたので十分練り上げることが出来ているらしい。院長元帥に対抗心を燃やす連中が意気込んで無理な作戦立ててなきゃいいが、きっと元老が目を光らせていると信じたい。流石に宮様を凍死させるアホではないはずだ。多分、きっと・・・
出兵理由は、表向き史実と同じだが、日英米の思惑は極東にロシア帝政を存続させることだった。英国にとってはロシア帝室はどうやらお荷物らしいので、日本が面倒を見ろという話になったらしい。米国?そりゃあ、金目でしょ?
米国もシベリア確保に積極的に参加することになった。
そのため、欧州戦の最中でも余裕のある日米軍で15万の兵力を揃えることが出来てバイカル湖畔まで占領するに至った。
そう言えば、口実はチェコ軍団救出だったが、変態紳士がいつの間にやら亡命ロシア帝室の帰還先とかいう話を広め、日米がその協力者という話を作り上げていた。流石、何枚舌があるかわからん連中である。
そんな事もあって、占領地は真正ロシア帝国領という事で帝国存続を求めた者や革命と相容れない者たちが集まり真正ロシア軍が編成されていき、日米はどんどん撤退していくことが出来た。それでも俺の所属する部隊は出兵開始から2年ほどはシベリア各地で作戦行動をとる事になりはしたが。
だが、想定外の事も様々に起きてしまっている。
日米軍が撤退し、ロシア軍が主体となっていくにしたがって、どうも怪しい動きをする者たちが現れた。
やはりと言うか、帝政時代の話を持ち出したり、そこからさらに突っ込んだ話をしだしたりしている。なんでも、大興安嶺山脈以西は蒙古の領土なんだから、ロシア軍が居ても良いと言い出しているし、ハバロフスク近郊以南では、更なる安全地帯が必要だと好き勝手に西進したりして満州の軍閥と戦闘になっていたりしている。更に東清鉄道沿線もどうとか話は拡大する一方だ。
こういう時、悪い意味で頼りになる英国が満州の一部編入を認めるようなことを言い、更なる混乱に拍車がかかるありさまだ。
さらに都合が悪い事に、前ロシア皇帝は建国される継承国家の帝位に就かないと言い出して更なる問題を引き起こしてくれやがっている。
これも何とか日英が走り回り、ロシア皇族の中から帝位に就いてくれる人物を探し出して問題を解決したが、前皇帝は息子の治療を優先して米国に行くのだという。つまり、見事米国は金目を手にしたことになる。日本は完全に貧乏くじだ。
何とかシベリア問題が沈静化したのは、出兵から3年後だった。そう、沈静化であって解決はまるでしていない。満州軍閥とロシアの境界問題はそのままで紛争は拡大しかけている。しかも、モンゴルでも共産主義との内戦が行われ、ロシア軍の介入で何とかモンゴルは国を維持している状況だ。満州北部や東部へのロシアの勢力拡大と合わせて、大きな問題をはらんだままだが、なにせ、英国が何枚も舌を動かして動き回ったことで、非常に複雑な状況と相成ってしまっている。どうすりゃいいの?これ。
それと共に、俺にも問題が起きた。
帰国したらいきなり婚約者が決まったと言われた。しかも前ロシア皇帝の四女だというではないか。何がどうしてそうなったのかよく分からなかった。
しかもだ、しばらく四女には避けられ続けた。ツンデレとかそんなちゃちなもんじゃ断じてない。アレは完全に人種間の問題から来る嫌悪だと思うんだ。だが、なぜか時折目の前に現れては何だかんだやっていく。一体何がしたいのかよく分からなかった。




