表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/30

008 《発見不可》

「「……見つからない」」


 わたしはクラスメイトであり、この学園で初めてできた友人エレミーさんと学食にいた。

 ここは実力が反映が全てだが、順位によって席が区切られていたり、購入できる食事が分かれるなどということはない。


 例えば奨学金。

 一定の順位に達せば、給付という形で受け取れる。 

 わたしなどは、その奨学金で今こうやって食事することができているわけで。

 下位の人たちは、パン1つ買うにしたって自分で稼がなくてはいけない。


「……もう上位100人は洗ったのになぁ」


 エレミーさんは食後のアイスコーヒーを飲みながら、感情を吐露する。

 感情というかは、調査結果の惨状にというべきか。


「性別、聖剣の型、髪の色、身長、その他もろもろで調べて、まーさか見つからないとは。本当に実在するんだよねレイン?」

「もちろん」

「乙女的妄想が生み出した幻覚とかじゃないもんね?」

「違います。わたしはそこまで残念な人ではありません」


 わたしが学園初日で見たはずの、あの人の剣の煌めき。

 だが彼女の言ったとおり、1週間以上使ってもそれらしき人物は発見できなかった。

 

「疑わしきひと数人にも直接アタックしたし……」

「全部ハズレでしたが」

「教師や周りに聞いても情報はなし……」

「得られませんでしたね」

「はぁ……。どうするレイン? これは完全に手詰まりだよ」


 エレミーさんはお手上げのポーズ。

 わたしも改めてこの一件を考察する。


(入学試験の結果、わたしは学園で暫定【50位】に順位付けされている。そしてあの男の人の実力はわたしより確実に上。普通に考えれば【49位】以上の誰かということになる……)


 至極当たり前の帰結だと、誰しもが考えるはずだ。

 しかし――見つからない。

 手がかりの1つや2つも発見できればいいのだが、影も形も噂もないのだ。


「わたしは本当に幽霊でも見ていたんでしょうか……」

「さぁてね。ただレインの話通りの【一振り】を放つなら、万が一ランキングが200位台でも誰かが知っているはず。でも聞き込みしたけど先生たちですら知らない」

「……ミステリーですね」

「マジでそれだよー。もう大穴狙ってさ、その人、実は超下位層でくすぶってるとかない?

いっそ私たちの探していた男は【最下位】でした――みたいな?」


 ここまで探してもダメ、思考放棄してしまうのも仕方ないが、


「シンプルに。実力があるのに、この学園でわざわざ下位に甘んじるメリットあります?」

「まーったくないね」


 住処も待遇も悪くなる。

 仕事だって順位ごとに受けられるモノが違い、報酬金額だって変わる。

 大前提として、ここは〝英雄〟を目指す場所なわけで――。


「わたしの探す人はとても凄いんです。凄いの凄いなんです。最下位などと呼ぶのは侮辱になりましょう。失礼です。第一に――」

「あぁ……またその人自慢が始まった……」


 うんざりした顔をするエレミーさん。

 まぁ1週間以上、同じようなことを言っていますからね。


「――見つけたぜぇレイン・レイブンズ」


 突然、聞き覚えのない声の男がわたしを呼ぶ。

 乱れた頭髪、乱れた格好、乱れた口調。

 ――あぁ、見た覚えはあった。


「なにかご用でしょうか」


 学園初日、1年生に絡んでいた3人組を覚えているだろうか?

 リーダー格の男はいないものの、彼の手下っぽい者が2人そこにいた。

 いや2人――だけではない。


(……囲まれた)


 四方八方、見た目だけで彼らの仲間と理解できる。

 端的に表すに、わたしとエレミーさんは不良の大群に包囲されていた。


「実は先週からな、オレの大事な大事なダチが消息不明になっちゃったのよ。覚えてるか? 細剣(レイピア)型の聖剣を持っていた男さ」

「消息不明……」

「色々と考えてみたが、仇討ち……いや、仕返しに遭ったんじゃないかと疑ってなぁ」

「…………」


 言わんとすることは分かった。

 つまりわたしが、彼のお友達を抹消した犯人と疑われているわけだ。

 ここ最近の一悶着あった生徒、それでいて一定の実力がある人物を考えここに至ったと見える。


「わたしは何もしていませんし、何も知りません。他をあたってください」

「言い訳は後で聞くからよ。とりあえずちとツラ貸せ、ついでにお前の可愛いお友達もだ」

「……え、私?」

「聞く耳を持つ必要はないですよエレミーさん」


 どうやら言葉だけでは退かないらしい。

 拒否を示したからか、彼らは既に剣を抜く寸前だ。


(できる限り校則は遵守したいですが――)


 まさか自己防衛権を放棄するはずもない。

 校則を守って死にましたなど、末代までの恥となる。

 だからわたしも――剣柄に手を掛ける。


「気の強い1年だ。いかに主席様とはいえ、この人数を相手に勝ち目があるか?」

「勝ち目あるなしではありません。勝ち目は自らの手で生み出すんですよ」

「っは。上等――お前ら剣を抜け!」


 わたしより先行して、周囲から刀剣と鞘が擦れる金属音。

 無関係な人たちは戦いを悟り、すぐに近くから離れていった。

 あまつさえ観覧をしている。


(校則で私闘は禁じられているものの、彼らが以前言ったとおりそこまで守られてはいないらしいですし、やはり皆さん慣れてますね)

 

 郷に入っては郷に従え。

 ここは修羅の学び舎、言葉ではなく剣で筋を通す。


「ぶっ殺さないようにな! お前ら――やれッ!」


 動けないエレミーさんを背に抱えての戦闘。

 既に男たちは剣を片手に動き出した。

 抵抗しなければものの数秒で床に伏すことになるだろう。


 手加減はなし。わたしも剣を抜く、いや抜きかけたその時だった――



「貴様らああぁああああぁぁぁぁぁ――ッ!」


 

 突然。

 わたしの前に、目の前に、緑色の巨人が降ってきた。

 ものすごく大きな着地音を立てて、床に大きなヒビを入れて。

 

「目覚めよ聖剣イラ! 正義の名の下に悪を断罪す――ッッッ!!!」


 巨人とわたしが称したのは、とても、とても大きな男だった。

 身長は2メートル級、手にも腰にも剣はない。

 だがその代わり――全身を『緑一色の(よろい)』で隙間なく覆っていた。

 

「正・義・執・行!」


 殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。殴打。

 四方八方から迫る不良たちを、その鉄拳を持ってして沈める。

 沈めて鎮める? いいやこれはもう――。


「風紀を乱すことは許さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 不良たちは殴られた威力を殺しきれず、窓を突き破り、星の如く吹き飛んでいく。

 鈍い着地音の次は、ガラスの割れる音が響き響く。

 たった数秒だった。

 わたしに【聖剣】を向けた男たちは、【聖拳】によって打ち砕かれたのである。


「うわぁ……」


 あまりに圧倒的、ゴクリと息を呑んでしまう。


「まったく、いつまで経ってもバカな連中だ。そして――大丈夫か1年生」

「あ、はい」

「剣を抜いた音がしたので飛んで来た。どうせいつも通りあのバカ共が、問題を起こしているのだと悟ってな」


 抜いた音って……聞こえた瞬間には、もう動けていた? 

 どれだけのスピードで移動を――


「きゃ、神聖機武装(キャメロット)も、同時起動させて……」

神聖機武装(キャメロット)? あぁ、(おれ)が纏っているのはまだ(、、)剣だ」

「え!? 展開していないんですか!?」

「無論。(おれ)は【甲冑かっちゅう】型聖剣の使い手、これが通常モードだ」

 

 はっはっはと笑う……先輩、たぶん先輩だ。

 こんな強者が1年生にいるわけがない。

 それにしても【甲冑】の聖剣とは、なかなかに珍しいモノだ。

 あれ、そういえば『円卓十二聖(アーサーズ)』の中に、鎧の、しかも風紀委員で――

 

「――よぉ緑の。またアタシの舎弟を可愛がってくれてみたいなぁ」

 

 突然、今度は女の声だ。

 ドスの効いた声音、彼女の格好もまた不良スタイル。

 派手なスニーカー、短いスカート、緩めたネクタイ、上はブレザーではなく【虎】が刺繍された真っ赤な上着を羽織っている。

 ショートの金髪はどこか赤を帯びているようにも。


 だが一番目につくのは――背負った【大鎌】だ。

 全長2メートルはあろうか、絵本に出てくる死神のモノに引けを取らない。


「やってくれたな風紀委員統括――いいや、【四席】ガーランド」


 やっぱりだ。

 わたしたちを助けてくれたこの人は、円卓の1人だった。

 なら【四席】相手に、不敵な笑みを浮かべているのは――


「貴様こそ。部下というなら面倒を見ろ。それが円卓の、【八席】としての最低限の役目だろう――リーナ・ティガーズ」


 対峙するは【四席】と【八席】。

 両者から放たれる殺気はわたしたちと別格、それが聖力(カムイ)と混ざって、まさに神話大戦の具現化と言わんばかり。

 正直――動けない。


「風紀がどうとかこうとか、ムカつくんだよなァ」

(おれ)とて業を煮やしていたのは同じ。ここで一度灸を添えておこうか」


 12席の円卓に名を連ねた、強者の中の強者。

 選ばれし者の戦いが今ここに――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ