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004 《久しぶり》

 アーサーズ聖剣学園。


 全校生徒数872名。

 1クラスあたり30人編成。1学年10クラス存在する。

 クラス替えはない。


 ただ上述通りなら、三学年トータルの生徒数は900名いなくてはいけない。

 なら消えた28人はどこにいったのか?


 それは【中退】したか、もしくは【除籍】されたかである。

 除籍の意味は――まぁ察しはつくだろう。


 生徒同士で戦って命を落とすことは滅多にないが、課題や仕事として魔族と戦うこともある。ダンジョンに行くこともある。


 生き残ったのが、この872名という数字だ。

 そしてその最下位。

 第872位が――このオレ、グレイ・ロズウェルである。


     ※


「……遅刻しました」


 命を懸けた追いかけっこを経て、オレはようやく自分の教室――2年A組に辿り着いた。

 早く登校したお陰もあり、そこまでの大遅刻にはならずに済んだらしい。


 ただ当然のように、教室に来た時はホームルームの真っ最中で……。


「き――た――なぁ――!」


 上半身を傾け、コッソリ入ったが担任のアイズに見つかる。

 美人。独身。アラサー。

 彼女の説明はこの3単語ぐらいでいいんじゃないか?

 

「ふふふふ。私はなぁ、ロズウェル。ずっとお前に会いたくて会いたくて、震えながら待っていたんだぞ」

「そ、そうですか。じゃあホームルーム続けてもら――」

「んなものは後でいい!」


 叩き付けた両手が教卓を破壊した。


「器物損害……」

「あ!?」

「いえ、至急本題、と言いました。先生のお話が早く聞きたくて」

 

 教室を見渡すと、出席しているのは20人強という感じ。

 説教が始まる。中断させてクラスメイトたちに申し訳ない。

 というかみんな……今日はやけにオレのことを見てくるな。

 

「当たり前だバカ! ロズウェル、お前どうして〝期末認定試験〟に出なかった!?」


 怒鳴られた。

 確かに期末認定試験は【重要】だ。

 いくら試合や課題で好成績を残しても、この試験を受けなければ学内の【ランキング】には完全反映されない。


 逆に言えば、受けなかった場合『その年の成績が全て無効』となるのだ。


「認定試験どころか追試験も、追々試験も来なかったよなァ!? お前その意味分かってんのか、あぁん!? 殺されたいんか!?」

「今日はヤンキーの日かな……」

「なにィ?」

「なんでもないです。意味は分かってます」


 つまりオレのランキングが――


「最下位だよ! さ・い・か・い! 第872位だよお前はぁ――ッ!」


 と、自分で言う前に担任が代わりに答えてくれた。

 新入生たちも入試成績を鑑みて、もう順位に組み込まれている。

 

「お前が学園創設以来、初の2年生最下位スタートなんだぞ」

「はぁ……」

「気の抜けた返事を……っ! そもそも冬から一度も(、、、、、、)授業に出ず(、、、、、)今の今ま(、、、、)でどこを(、、、、)ほっつき歩(、、、、、)いていた(、、、、、)!? なにも申請は受けていないし、連絡も取れないし、私は――」

「すいません、ご心配をおかけしました」

「謝って済む問題では――」


 彼女の言う通り、オレは去年の末から姿を消していた。

 教室に来るのは――実に4ヶ月ぶり(、、、、、)となる。


「――残念! てっきり死んだと思っていたのに!」 


 ここで1人の女生徒が毒を飛ばしてくる。

 

「最下位に落ちこぼれる前の【順位】も全然大したことなかったけれど、まぁ最下位になったことで、いよいよワタシとの差は天と地の差で――」

「すいませんアイズ先生、今日の説教はこれぐらいで勘弁してください」

「無視!? ワタシの挑発を無視して会話を進めるの!?」

「……なんだ、いたのかリザ。背が小さくて気づかなかった」

「普通は声の大きさで気づくでしょうが!」


 1人立ち上がって、突っかかってきた金髪少女はリザ・ファトラウエンという。

 金髪で小柄、ゴスロリチックに改造した制服が特徴だ。

 あとうるさいのも特徴か。

 あ、名前は長いから覚えなくていいぞ。


「授業を長期にわたってサボるどころか、まさか認定試験まで欠席するだなんて前代未聞よ。いったいどこで油を売っていたのか。さぁ答えなさい!」

「……答える義理も理由もないな」

「そんな言い訳が通じるとでも?」

「おいファトラウエン。今は私が――」

「先生は黙っていてください。怒りという感情はシワを増やすそうですよ。ただでさえ婚期を逃しているのですから。これ以上は――」


 ……酷いヤツだ。その言い分は悪魔のそれだ。

 ほら見ろ。先生しょんぼりして俯いちゃったぞ。


「腰に差している【聖剣】も以前のモ(、、、、)ノと違う(、、、、)。なんでそんな安物を……」

「ずっと宝の持ち腐れとか陰口を叩かれたんでな、アレは売ったよ」

「っな!?」

「そういうことだ。もういいだろ」


 師匠の形見でもあったあの聖剣は、遠く冬の地で【彼女】との戦いで失った。

 あの天国のようで地獄のようだった冬春(とうしゅん)を経て、ようやくこの教室に自分はいる。

 オレはリザを一瞥し、窓側にある自分の席に着く。

 不服そうだが、それ以上彼女はなにも言ってこなかった。


「どうだい約4ヶ月のぶりの椅子の座り心地は?」

「最高だ」

「はっはー。今のお前は最悪だって顔してるぜ」


 すぐに話し掛けてきたのは、隣席であり数少ない友人の1人――


「よ、グレイ。久しぶりだな」

「リストも、元気そうでなりよりだ」


 名をリスト・フロイント。

 前と変わらず、深みのある茶髪をきっちりとキメている。

 

「しっかし無事で良かったぜ。リザが心配した通りマジで死んだんじゃないかと」

「……アイツが心配? あの言い方でか?」


 小声で耳打ちをしてくるリスト、どうやらクラス内では『グレイは死んだ』と半分以上思われていたらしい。

 

「ツンデレなんだよ。いつも通り、お前に元気に突っかかるアイツも見れて一安心だ」

「その度にオレが苦労するんだけどな」

「これからはもっと苦労が重なるぜ。なんせランキング最下位だからな」

「…………」

「ったく、ランキング表を端末で見た時はビビったぜ。1年どもをぶっちぎってグレイが最下位として名を連ねてるんだ」


 ぶっちぎったというより、ぶっ下がったのが正しいかとリストは言った。

 彼の言う通り、オレは今までと同じような暮らしはできないだろう。

 ここは実力至上主義の場所なのだから。

 

「ま、無事でなにより。最近は変な噂も多いし気をつけろ」

「変な噂?」


 こう見えてもリストは情報通だ。

 ぶっちゃけてしまえば、裏で情報屋的な仕事をしてもいる。


「奇妙な話さ。今この学園に聖剣を喰(、、、、)らう怪物(、、、、)が出るっつう」

「……」

「『聖剣殺し』って異名で今――って、興味なさそうだな」


 お前は世間の動向なんて気にしないもんな、とも付け足される。

 そうだな。噂は噂だ。

 証拠の1つ(、、、、、)でもある(、、、、)ならまだ話を聞いてもいい。

 

「じゃあ方向性を変えて、超ハッピーな噂というか話を教えてやる」

「ほう。これは?」

「金は要らねぇよ。ロハだ。復学祝いだぜ」


 満面の笑みを浮かべ自信満々、よっぽど良い情報なのだろう。

 代金を気にしたが無料にしてくれた。


「なんでもだ。今年の1年生の中に――」

「中に?」

「すっっっげぇ可愛い子がいるんだってよ!」


 ……。

 …………は?


「しかもその子は主席で入学だ。ここ数年、いや学園の創設以来ダントツの実力を持っているとかって言われてる。ようは天才ってやつだな。それでいて超絶美少女なんだから――」

「これは金を払わなくて正解だったな……」

「またも興味なし!?」


 ガクンと首を降とす、感情豊かな友人だ。


(というか1年主席の美少女って……)


 気のせい……だと思いたいが、ひとり心当たりがある。

 昨日一昨日のことでなく、つい今さっきに――

 

「俺は会ってみたいよ。噂じゃ縞瑪瑙(オニキス)みたいな黒染めの髪を持つ美少女で、大きな青い瞳と、白磁のように真っ白な肌で――」

「……どんなに見た目が良くても、もしかしたらソイツ、会った瞬間に斬りかかってくるヤツかもしれないぞ? 襲ってくるかもだぞ?」

「はぁ? んなわけないだろ。きっと心も優しさの塊、天使のような子だろうさ」

「天使、ね――自然災害と呼んだ方が正しいとオレは思う」

「どんだけ目の敵にするんだよ。ダチでも殺されたのか?」


 いや、オレが殺されかけたんだ。


「仮に彼女が天使だとして、その子と会う時は、お前が死ぬ時だろうな」

「それマジのお出迎えじゃねーか。俺が会いたい天使は人間だぞ。雑なボケはいらん」

「ボケじゃなくて本気なんだけど……」

「はぁ。結局グレイは美少女後輩ちゃんに興味ないみたいだけど、後で俺が仲良くなっても紹介しないからな? 文句言うなよ? 嫉妬するなよ?」

「しないしない」


 手を振って、三度(みたび)の確認?を否定する。

 まったくもって、微塵も興味関心はない。

 そもそもこの学園のこと自体――オレはなんとも思ってないのだから。


 試合や課題などにやる気もない。

 ただ出席しているだけ。

 できるものなら、こんな学園――さっさと辞めたいぐらいなんだ。


 だから最下位だの落ちこぼれだの好きに呼べば良い。

 悪評たたって退学とかにしてくれ。


「あ。そういやグレイ、今更だが今日はどうして遅刻したんだ?」


 ここで思い出したようにリストが尋ねてくる。

 オレは合わせていた視線を窓の外へと向け、雲ひとつない青空を見ながら答えた。




「ハリケーンに追いかけられたんだよ」

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