ハーメルンの笛吹き男2
「王子様って・・・・。どういうこと?」
「これでも私はお姫様だったのよ。それなりに他国との王様たちと交流もあったわ。そのなかでも兵隊の先にある国の王子はとても優し勇敢で頼りになる人だったわ。きっと私たちを助けてくれるわ」
白雪姫は遠くを見る目を輝かせながら言いました。その王子様が月日というものによって変えられていないことを望みながら、ハクアは目を輝かせている白雪姫をとても愛おしく思いました。
「そうと決まれば早速行こう。早くしないと後ろの子たちも正気を取り戻してしまうからね。さぁ2人とも殿|⦅しんがり》としてついてくれ」
男はそう言うと、また同じように笛を吹き始めました。
2人は最後尾に並ぶと小さな声で話し始めました。
「白雪、きっとこの子たちは聖戦には行かないと思うんだ。白雪がまだ笛の音色の余韻に囚われていたときの話なんだけれど、あの男がいったんだ。死ににいくようなことをする勇気は必要なのか、僕にはそれが疑問だって。でもその言葉と今の行動は矛盾してるよね。どう考えてもこの子たちが聖戦に行くことは、この子たちの死そのものじゃないか。つまり、あの言葉が嘘か、それともこの子たちを聖戦ではないどこかに連れていくつもりのどっちかだよ」
「ハクア、どっちにしたって今の私たちはあの人についていくしかないよ。あの人の真意がどうであれ、今の私たちの道はこれしかないよ」
「おい、お前たち。今はここは通行手形があったとしても通らせるわけにはいかないんだ。さぁ、とっとと回れ右をして帰るんだな」
兵隊は想像通りの対応でした。しかし男が笛の音色を変えた途端に、目から光がなくなり何も言わなくなって、ただの像のようにその場に立ち尽くしました。笛吹き男を先頭、白雪姫とハクアを殿《しんがり》とした列はその兵隊の前を難なく通り過ぎました。そしてついに国境を越えたのです。
「白雪、やっと国境を越えたね。あとは・・・・この国の王子様と会って今の王妃を捕まえてしまえばハッピーエンドだよ」
「そうね、でも私には王子様に会うまえに私にはやらなくてはいけないことがあるわ。笛吹き男さん、ちょっとお話があるんですけど、聞いてくれますか」
「もちろん。どんな話でもお答えいたしますよ」
「貴方はハクアにいったそうですね、死ににいくようなことをする勇気は必要なのかと。実際のところ貴方はどうお考えなのですか。もしや、ここにいる子どもたちが聖戦にいくことは、死ににいくようなことではないとは思っていませんよね」
「そうですね。もちろんこの子たちを聖戦に連れて行ってしまえば、おそらく全員が帰らぬ人になるでしょうね。でもこの子たちはそうはならない。なぜなら聖戦には行かないから。この子たちは商品として売られるのですよ。これはこの子たちの村の大人が原因なんですがね」
「では、貴方はその子たちを聖戦ではなく、闇市かどこかに連れていくつもりなんですね」
「えぇ。私もこんなことはしたくなかったのですが、お金がどうしても必要でして。聞きたいのはそれだけですか」
「いえ、まだ1つ。今いるこの子たちを私が買い取らせていただくことは出来ますでしょうか。もちろん、今すぐに代金を支払う余裕などありません。しかし私が王妃を捕まえ王女に戻ったときには、闇市以上の値段をお支払いすることをお約束致します。ですからこの子たちを私に売ってはくださいませんか」
「それは面白い話ではありますが、とてもそんな賭けをしようなどとは思いません。あの王妃に白雪姫が勝てるなど私には思えませんから」
「どうして貴方は私が王妃に勝てない思われるのですか」
「そうですね。これは、あくまで知人の昔話の話なのですが・・・・」
王妃が王妃になる前から、その知人と彼女《おうひ》はとても仲良しでした。ですが、ある日から彼女はその知人と遊ぶよりも、魔法を勉強するようになりました。彼《ちじん》は、そんな彼女のことも愛おしく美しいと思っていました。
そして何年か経つと、彼女は魔法具と呼ばれるものを作れるようになるまでになっていました。そして鏡や笛の魔法具を作りました。彼女は鏡に「この世で1番美しいのは誰?」と問いかけました。鏡は答えました。「それはこの国の王妃様です」と。
最初、彼女はそれに怒りも憎しみも持っていないようでした。ならもっと美しくなって追い越してみせるわとよく言っていました。ですが、何年経っても彼女は王妃をこすことは出来ませんでした。そしてこれまでの彼女の頑張りが一転して、怒りや憎しみに変わっていきました。どうして私は1番美しくないのと鏡に向かって暴言を吐く姿をよく見ました。その度に彼は言いました。僕にとっては君がこの世で1番美しいよと。ですが、その言葉は彼女には届くことはありませんでした。
ある日、彼女は言いました。「私が王妃になるわ」と。彼はその言葉に彼女が王妃を殺してしまうと思い、必死に止めました。その度に彼女は言いました。
「大丈夫。王妃を殺したりはしないわ。捕まえてしまうの。そして王様を脅すの。王妃を殺されたくなければ、私を王妃にしなさいってね。でもそれだけでは王妃が生きているから、私は1番美しくなれないわ。だから私が醜くしてあげるのよ。殴るもよし、蹴るもよし、顔を炙るのもよし。想像するだけでいい気分だわ」
彼女は言葉通り王妃になりました。彼も彼女の側近としてついていきました。彼女も最初こそ王妃として満足していましたが、それもすぐに終わりました。鏡が白雪姫がこの世で1番美しいと言ったからです。彼女は今度ははっきりと言いました。白雪姫を殺しなさいと。
彼は彼女の言葉通り刀を抜いて、白雪姫の胸を突き刺そうとしました。ですが、彼には出来ませんでした。母親は死んだと嘘を教えられ、挙句の果てに殺されてしまうなんて不憫でならなかった。
彼は血の付いたハンカチを持って彼女に嘘をつきました。白雪姫は殺してきましたと。彼はそんな嘘はすぐにバレてしまうことはもちろん分かっています。ですから彼は笛を盗み出して逃げました。
「こういうわけで、彼は彼女のことが嫌というほど分かっているのです。もちろん、この話を聞かされた僕には、貴方たちが王妃に勝てるとは思えないのですよ。では国境も越えたことですし、私たちは失礼しますよ」
そういうと、男と子どもたちは白雪姫をおいて先に進んでいきました。白雪姫は彼らを呼び止める力はありませんでした。
「お母様がほんとうは生きている・・・・」白雪姫はその衝撃からしばらく身動きが取れませんでした。