赤ずきん3
2人がしばらく待ちました。もう日も暮れてきました。あの子は大丈夫だろうかと、2人が心配になっていると、扉がギィィィーーと嫌な音を立てました。赤ずきんはただ1人、とぼとぼ歩いてきて、泣きながらおばあさんに抱きつきました。
2人は赤ずきんに声をかけることもできず、おばあさんに縋りついて泣いている赤ずきんを見ていることしか出来ませんでした。
ひとしきり泣いた赤ずきんは、おばあさんにお礼と謝罪を述べると2人のほうを振り返りいいました。
「さっきはとても酷いことを言ってしまってごめんなさい。本当は感謝しています。それよりも2人というか、右の方が追われているみたいですね。今の街は兵隊さんでいっぱいでした。おふたりは私の命を救ってくれた恩人です。おふたりのことは黙っていますから安心して下さい」
「それよりもお医者さんはどうしたのですか。このままだとおばあさんが・・・」
「医者は来ませんよ。おばあさんは医者に、いや街に見捨てられた人なんです。おふたりはレプラという病気をご存知ですか。おばあさんはその病気を患っているんです」
「それは・・・・。だから医者も誰も来ないのね・・・・」
「えぇ。つい焦ってそのことを忘れていました。あの病気のせいで、おばあさんは街を追い出されてこんな森の奥にたった1人で暮らしていたというのに」
ハクアと赤ずきんはとても暗い表情でした。白雪姫だけがレプラという病気を知りませんでした。白雪姫は聞きました。
「そのレプラってどんな病気なの」
「白雪は知らないのか、この世界じゃ有名な病気だよ。悪魔に呪われた者がなる病気ってことでね。この病気を発症すると、手とか足とか顔とかの感覚がなくなっていくんだよ。熱いとか痛いとかの感覚がなくなって、手も足も動かせなくなっていくのさ。さらに質の悪いのが、見た目の変化だよ。手足の皮膚の変色や顔の変形とかで、皆から恐れられるんだ。だから皆はこの病気は悪魔の呪いとして恐れているのさ。悪魔に呪われた者は殺されるか、よくて村から追い出されるか、隔離されるか」
「おばあさんがその病気だったの。でも見た目そんなに変りないように見えるけど」
「おばあさんが発症したのは最近なんです。両親や街の人たちは殺そうしていたんですが、おばあさんはもう年だし殺さないでって私がお願いしたんです。皆もおばあさんを殺して呪いが自分に移らないか怖かったんだと思います、それを許してくれて、ここの使われていなかった森小屋でおばあさんを住まわせることになったんです」
「そう。貴女も大変だったのね。さぞ辛かったでしょう」
白雪姫の言葉に、赤ずきんは鼻をすすりながらいいました。
「はい。おばあさんが亡くなってしまうことよりも、街の皆がおばあさんの死を望んでいることがとても、とても辛かったです。おばあさんを助けてもらおうと駆け込んだ私に、医者はなんていったと思いますか。『それはめでたい。明日には死体を処理しないといけないな』ですよ。医者はヘタっと倒れた私を置いて、嬉しそうに出ていきましたよ。今もあの声と顔と嬉しそうに去っていく姿が頭から離れません」
白雪姫は思わず赤ずきんを抱きしめました。赤ずきんはしばらく白雪姫の胸で泣いていましたが、落ち着いてきたのか、顔をあげていいました。
「それより、2人は早く逃げないといけません。皆は明日までにはここに来るでしょう。だから2人は早く逃げないと捕まってしまうかもしれません」
「そういうことならそうするわ。忠告ありがとう。白雪、早く支度をしてここから出ましょう。ここから国境はそんなに遠くないし、明後日の夜までには着くはずよ」
「ねぇ、赤いずきんを被った貴女も私たちと一緒に行きませんか。貴女のその気持ちは、ここにいたらずっと消えることも薄れることもなく残り続けるでしょう。もしかしたらより濃くこびりついてしまうかもしれません。でも私たちとくれば、その気持ちは和らぎ薄れるでしょう。ねぇ一緒にこんなところ出ましょう」
赤ずきんは迷うことなく、はっきりと答えました。
「いいえ、私はここに残ります。おばあさんの最期を私は見届けなければいけません。それに、たとえここに残ることが苦しくても辛くても逃げたくはないのです。街の人たちを見返してやりたいのです」
「ほんとうにありがとうございました。おふたりのことは忘れません。おふたりが無事に逃げ切れることを望んでいます。お元気で」
白雪姫が振り返ると、手を振りながら力いっぱいの声で見送ってくれている赤ずきんの姿がどんどん小さくなっていきます。赤ずきんの逃げたくないという言葉は、白雪姫の心をざわつかせていました。白雪姫には逃げない、逃げたくないと思い立ち止まれることが立派で正しいことであると思えたからです。そして逃げている自分が軟弱で正しくないことをしていると感じたからです。
白雪姫は前を向くと、ハクアの腰に回した手をより一層強く握りしめました。