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6. ぶらり異世界散策 ~ギルド街へ~

 トンネルを抜けると、そこは広大な草原だった。


 一面の草原。ビルも、車も、電柱も、遮るもの、なにもなし。およそ地球上でもそうそうお目にかかれそうにない光景が広がっていた。

 盛大なやらかしの後、「静謐の洞窟」を抜けた俺達は、ひとまず最も近い冒険者ギルドのある街へ向かうことになった。

 リルハによれば、徒歩でだいたい1時間くらいだという。思ったより近所で拍子抜けする。


「基本的に、ダンジョンの近くに構える拠点、としてギルドはあるの。だから徒歩でも1時間以内、馬車を使う場合でも2時間以内、というのが目安として決まってる感じかな」


「それ以上となると、新たにギルドを設けるのがベター、と」


「そうそうそう! 飲み込み早くてすごいっ!」


 そんな感じで、歩きながらリルハからこの世界についてのレクチャーを受けている。ちょっと類推を効かせるたびに褒めてくれるのがなんかむずがゆい。


 その話をまとめると、


・この世界には未開拓の地が数多く存在し、全容は未だにつかめていない。

・冒険者は、こうした未開拓領域を開拓し、世界を広げるために活動する職業である。

・その仕事柄、冒険者は魔物と戦うことが多く、必然的に腕っ節や魔法の才能などが求められる。そういったものを表すのが「ステータス」という概念。

・新天地を見つけた暁には名誉や財産をほしいままにし、実力を認められ国や貴族に召し抱えられることもあるため、成り上がりを夢見る人々で人気の職業となっている。

・そんな冒険者たちが、相互に情報を交換し、時には手を組んで活動するための互助組織が、冒険者ギルドである。


 ということらしい。まるで大航海時代のようだ。


「すると、リルハさんも、一攫千金を夢見て冒険者になった感じ?」


「そーんな感じっ。あっ……その、『リルハ』でいいよ。もう他人行儀なカンケーじゃないでしょっ?」


「お、オッケー。でも意外だな。リルハって、そんな成り上がりしたがる身分に見えなかったから」


「えっ……ただの商人の一人娘なんだけど……」


「そうなんだ。てっきり最初、どこかの国のお姫様かと」


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」


 ありのままのイメージを伝えた瞬間、リルハの全身が真っ赤になった。服装が白いだけに余計目立つ。


「おっ、おっ、おおおっおっ、おぉひめさまぁって、えぇ、えぇぇ!!??」


「いやーだって、ヒラヒラなドレスに、手足の具足、それにかっこいい剣。……そういうのって、『姫騎士』とか呼んだりするもんだと」


「た、たたた、たしかにっ! 意識してないこともなくもないんだけど! それはホラ! 魔法剣士系の女の子の流行りっていうか! かっこよさとかわいさのいいとこどりしたいファッションなんだけど!」


「ファッション! そういう概念あるのか!」


「ある! あるある! なかったら死ぬ! だから魔法剣士って女の子に人気で――!」


 そこまで恐ろしいほど早口でまくし立てた後、きゅぅっとしぼむような声量になって。


「…………ホントにお姫様みたいって言われたの、はじめて……」


 女の子がこんなに照れて真っ赤になっている顔は初めて見るかもしれない。

 あぁ、こんな顔って、本当にあるんだ……

 ドキッとしない方が、無理なんじゃないか。



 そんなこんなで20分ほど歩いていると、そこそこの大きさの馬車が現れた。

 御者の顔を見るや、リルハが近づき、気さくに話しかける。聞けばこの馬車、目的地のギルドに向かう行商人のもので、御者はリルハの知人なのだとか。


「街まで乗せていってくれるって! これでちょっと楽できるよ!」


 それはラッキーだ。1時間も歩き通しはそこそこ疲れる。

 お言葉に甘えて馬車の荷台によじ登ると、そこには積み荷の他、中年にさしかかったとおぼしき男がどっしりを腰を下ろしていた。


「おっ、リルハちゃんじゃねーか! 『静謐』から帰りかい?」


「ゴードンさん! そうなの。今から街へ戻るとこだよ」


 しかもリルハの顔なじみらしい。この子、きっと顔が広いんだろうなぁ。


「……ん? 後ろのアンタ、見ない顔だな」


「あっ、この人はコージィくん。『静謐』の中で行き倒れてて、記憶もなくして困ってたから、助けてあげたんだ」


「ダンジョンの中でか!? ははぁー……そりゃなんというか、災難だったなぁ」


 「記憶がない」に疑いを抱かないあたり、このゴードンという男性も、人がいいのだろう。笑顔にはどこか愛嬌を感じる。

 今さらながら記憶喪失設定に罪悪感を感じる。いやまぁ、「転生しました」よりはマシなんだろうけども。

 黙りっぱなしも悪いので、こちらからも話しかける。


「コージィといいます。行くあてもなく困ってたんですけど、リルハには本当になにからなにまで助けていただいて……」


「でもコージィくんすっごいんだよ! 実は凄腕の冒険者じゃないかってぐらい!」


「おっ、その様子だともう打ち解けてるみたいだな。ダンジョン抜けるまでにいろいろあったのかい?」


「えっ、まぁその、いろいろあったといいますか」


「うん、いろいろあって、ね……」


 するっと、リルハが隣にすり寄る。ぴったりと寄り添うと、はにかんだ表情を浮かべて。


「――運命のヒト、かも♡」


 間髪入れず、ゴードンさんと御者さんが吹き出し、驚いた馬がいななきを上げ、馬車の中は上下に激しく揺れた。

 しばらく馬車の中は大騒ぎになったが、真っ白になった俺の頭には、一切言葉が入ってこなかった。

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