3. 決め手は女神の寵愛です
俺の命を救ったあげく俺の恥を刮目した少女は、リルハと名乗った。
聞けば冒険者ギルドに所属する冒険者で、「静謐の洞窟」というこのダンジョンを探索中、たまたま全裸で魔物に食われそうになっていた俺を見かけたのだとか。
彼女にとっては不運だったが、こちらにとっては幸先良し。俺は現状をありのままに伝えた。
「つまり……コージィくんは、記憶もなにもなくして、ここに倒れていた、と?」
前言撤回。「記憶喪失の男」を演じている。ちなみに名前はそれっぽく発音している。
「はい。信じてもらえないかもしれないんですけど……」
「いや、冒険者ギルドと聞いてキョトンとしている人、はじめて見たし……だったら、わたしが地上まで案内するよ!」
「えっ、そんな、いいんですか?」
「困っている人を見捨てるなんて、冒険者として恥ずべきことです!」
半ば不可抗力とはいえ見事にセクハラを仕掛けてきた相手に、なんて優しいんだ。やはりこの世界の聖女なのかもしれない。
その後、リルハは丸腰丸裸な俺にいろいろと物を都合してくれた。
敵からドロップしたという「絹の服」。
予備で携行していた「鉄の剣」。
ダンジョン内で拾った「毒避けの指輪」というアクセサリ。
一通り身につけると、よくあるRPG最序盤な姿になった。ひとまず全裸よりはマシだろう。
ちなみにこれらのアイテムは「アイテムポーチ」と称する、腰提げポーチのようなものから取り出されている。
容量がなさそうなポーチから服やら剣やらが、四次元ポケットのごとく取り出される光景には軽く悲鳴を上げたが、冒険者の間では基本装備らしい。たしかにゲームでも持ち物制限ってないこと多い。
生まれて始めて握る剣を、軽くぶんぶんと振り回していると、不意に疑問が浮かんだ。
(これ、ステータスとか上がったりするもんなのかなぁ)
すると突然、視界全体が文字らしきもので覆われた。
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■コージィ Lv:1
【ステータス】
筋力:10
魔力:15
耐久:8
敏捷:12
【装備】
[E]鉄の剣[攻撃 +10]
[E]絹の服[防御 +8]
[E]毒避けの指輪[防御 +2 / 毒耐性アップ]
【スキル】
女神の寵児
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おいおいそこまでゲーム的リアリズムか。しかもそれほど強くなさそうなのが悲しい。
……スキルを除けば。
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◎女神の寵児
生まれながらにして女神の寵愛を受けし存在。
具体的に言えば、痴漢冤罪で死に追いやられた哀れな人に捧げる、わらわの慈愛。
以下のスキルを内包する。
・〔異性〕からの好意判定が必ず成功する。
・自身への好意を持つ相手のスキルを模倣取得する。
・自身への好意を持つ相手の取得経験値を自分も獲得する。
・自身への好意を持つ相手に「寵愛」を与えることができる。
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……余計なTipsを除けば、あまりにもすごいことが羅列されて意味がわからない。
ん? つまり? 単に女の子に好かれるどころか? 好かれると強くなって? そんで必ずモテて?
はっはーん、わかったぞ。これチートだな? BANされちゃう!!
「……コージィくん? どうかした?」
「あっ! いや、なんでも……」
軽くフリーズしていたところをリルハに声をかけられ、うっかり剣を取り落とす。
「あっ、もしかして剣は苦手!? ナイフの方がよかった?」
「いや、それ以前に武器とか持ったことなくって」
「あぁそういうこと……でも、それだったら逆に、剣でいいかも。初心者オススメ武器だからね!」
そうなのか。槍とかの方が強そうだけど。でも直感的に使えそうだし、そうかもしれない。
「そして、初心者向けだけど、極めればどんな時でも活躍できる。技もいっぱいあるからねー、わたしはそこが好きなんだ」
「……技かぁ」
先ほどの魔獣に対しても、そういやリルハはなんか必殺技めいたものを繰り出していた。
なんだっけ。「桜花・錐絶」だったか。名前の時点でかっこいい。5連続の突き技っぽかったけど。
たしか……
右手に握る剣に――
魔力を瞬間的に注ぎ込んで――
たまった魔力を――
柄の内側で爆発させる感じで――
放出させれば――
《[女神の寵児] スキル取得……成功。『桜花・錐絶』 剣技スキルとして登録します》
機械的な音声が聞こえたなと思った直後、右腕が神速のごとき5連突きを放つ。
舞い散る桜色の光。たまたま眼前にあった岩の塊に、5つの風穴が開く。
あんぐりと口を開けるリルハ。同じく口が開きっぱなしな俺。
「――えっ、えっ、えええええぇぇぇ!? うそ! なんで『桜花・錐絶』使えるの!? それ、魔法剣技の中でも結構習得むつかしいやつなのに!?」
「えっ、えっ、いや、えっ、いや、その……」
数秒前に見てしまったあのスキルが脳裏をよぎる。うん、そんなものは説明できない。
「……リルハさんが、使ってたの、見てたから……」
苦し紛れの弁明。完全に絶句する彼女との間に、長い沈黙が横たわる。
「……すっごい……」
ようやく吐き出された声は、なぜかどこか恍惚としている。
「コージィくん……もしかして神さまかなにかじゃない……?」
「いや、いたって普通の人間だと思うけど」
「謙遜しすぎだよぉ……Aランク剣技を、見ただけ、見ただけでおぼえちゃうなんて……ぜったい天才……そんなぁ……こんな、こんな才能あって……しかも、こんなかっこいいのにぃ……♡」
さっきまで愕然としていた表情はどこへやら。
まるで恋する乙女みたいに、顔を赤らめて、もじもじと腰を動かしているなんて――
……もしかすると、彼女が聖女なわけじゃないかもしれない。
神さま、俺、本当に無条件でモテちゃうんですかね?




