26. もう全部あのふたりでいいんじゃないかな
蒼と桜の雷が、縦横無尽に奔る。
スライムの群れに接近し、回転斬りの要領で刃を振るう。
斬撃の軌跡はそのまま稲妻となり、途上に存在するスライムを、一瞬で蒸発させていく。
たださえ竜にも効く威力ゆえか、銀の刃を纏う雷撃魔法は、集約されたおかげでさらに威力が増大しているように感じる。
威力過剰など承知の上。表情すらないクリーチャーにかける情けなどない。
消滅を確認し、すぐさま別方面へ踏み込む。
駆けながら詠唱し、再び刀身に雷を纏わせる。
進行にはさらに5体のエルダースライム。そして、破片から徐々に再生する個体が2体ほど。
1体がこちらに気づく。
学習能力でも有するのか、動きは少しずつ機敏になる。
だが、機敏になったところで、もともと鈍ければ話になるまい。
縦に振りかざされる水の刃を、右へ飛び込み回避。
すれ違いざまに一閃。沸騰したスライムが、破片も残さず消滅する。
遅れて反応した2体もにじりより、腕を槍のように変形させ、挟み撃ちのように突き放つ。
「――食らってやるほどノロマじゃねえよ!!」
魔法で強化した右脚で、地面を蹴る。
軽く5メートルほどの高さまで跳躍。眼下に映る、うごめく6体のスライム。
ゆったりとした動きで、ヤツらがこちらを見上げる――その間に詠唱は完了していた。
剣を握らない左手を真下へ突き出し、雷撃魔法を、加減なしの出力で放つ。
ほとばしる蒼の雷撃が、檻のようにスライムの群れへ落ちる。
為す術もなく、スライムたちは水蒸気に変わっていく。
軽やかに着地すると、遠くの方では、桜色の雷撃が駆け抜けていた。
俺の戦闘方針をすぐさま理解してくれたリルハは、しかし全く別の戦法も編み出していた。
「リルハ……そういやもともと魔術師スタートだったっけ……」
「そういや……でも前衛に出たいから今のスタイルに切り替えたんだっけか……」
気の抜けたトーンで話す前衛の人たちの言うとおり、彼女の戦い方はまるで魔術師だった。
細剣を杖代わりに、突きの動きで一直線に雷撃を放ち、タクトのように振るえば、落雷が降りかかる。
若干破片こそ残るが、わずかに寄り集まった新たな個体は、雷撃の刃で着実に撃破している。
スライムの群れをまるで寄せ付けない姿は、今まで以上に頼もしく映った。
「ん……?」
再度、雷撃を刀身へ展開すると、ふと異変に気がつく。
スライムたちが、ヒト型から、よく見るスライム型へ、姿を変えていく。
手足も失った彼らは、より機敏な動きで、一箇所へ向けて移動を開始する。
……まるで栓を抜かれた穴から、水が流れ出ていくように。
スライムたちは、湖に開いた大穴めがけて集まっている。
「――リルハーッ!!」
同じくこの光景を怪訝そうに眺めていたリルハへ向けて叫ぶ。
「あの穴まで追い立てよう! あそこになにかあるかもしれない!」
「わたしもそう思う! いこう!」
意見が一致したところで、二人いっしょに駆け出す。
「……つっえーな、あのふたり」
「あたいたち、出る幕ないなぁ」
「もう全部あのふたりでいいんじゃないかな」
気の抜けたような他のパーティたちの声がどんどん遠くなっていく。
お構いなしに、逃走するスライムの群れ目掛けて走り続ける。
穴までおよそ10メートルほどまで近づくと、さらなる異変が起きる。
逃げ出したスライムたちが、一箇所に集合。
溶け合うように――いや、事実1つの塊へと溶け合っている。
1体、また1体と、合体していき。
「な――」
眼前に、スライムの巨人が顕現した。
さきほどまで屠り続けてきたエルダースライムの、ざっと20倍のサイズ。
はるか上まで見上げてもなお、頭部が確認できない。
「……なるほど、ピンチになると合体するところまで同じか!」
俺の世界で最も有名なスライムを思い出し、思わず悪態をつく。
巨人の身体が、水紋のように震える。
鳴き声がないぶん、その震える動作が、竜の咆哮のように感じられる。
振りかざされる巨大な両腕。心なしか、合体前よりも速度がある!
力まかせの振り下ろし。動きが単調な分、回避こそしやすい。
だが、地面を大きく揺らす一撃は、目でわかるほどの脅威だ。滝壺が真上から降ってくるようなものだろう。
「……うかつに近づけないね。近づいても、あれじゃあ斬っても……」
合流したリルハの懸念も理解できる。
この巨体、果たして斬ったところで全体を吹き飛ばせるかどうか。
そしてそもそも近づくのも困難だろう。適当に腕を振り回されるだけで脅威だ。
とはいえ、あくまで接近戦を挑む上での話。
「……むしろ、的としてはこの上なく最適じゃないか?」
「――それもそう、だねっ!」
意を介したリルハが、剣を高々と掲げる。
刀身に桜色の電撃がほとばしる。その姿は、まさに「魔法騎士」という言葉がよく似合う。
あわせて、俺も詠唱を行い、両腕に蒼い雷を這わせる。こちらはさながら「大魔導師」か。
こちらの意図に気づいたのか、スライムの巨人が、両腕をこれ以上となく振り上げる。
槍に変形できる腕だ。伸縮も自在だろう。
だが、腕を振るうのと、魔法を放つのでは、どちらが早いか? そんなことは誰でもわかる。
「「――吹き飛べえッ!!」」
タイミングを合わせ、二人同時に、雷撃を放つ。
天からは、桜色の落雷の檻。
正面からは、蒼色の電撃の嵐。
波打つ巨体に、二色の雷が奔る。
回避する場所などありはしない。合体したスライムたちは、今度こそ、一片も残らず霧散していった。




