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24. ダンジョンを42人パーティで攻略しにかかるのは間違っているだろうか。

 総勢42人でダンジョンを歩くとどうなるか、答えは「ほとんど総回診」である。


 俺が率いることになったほとんど女性の「静謐の洞窟」攻略パーティは、ギルド直々に正面からの突入を依頼された。そして、他のパーティはことごとく外からの探索に回されている。

 まぁ、これ以上人を投入したら、狭っ苦しい洞窟がどうなるかわかったものではない。男性陣たちの恨めしい視線も持ち込むべきではないし、おそらく手を回してくれたスーニャさんには感謝の念が尽きない。


 そんなわけで「気を引き締めていこう!」と侵入前に皆に宣言していざ突入。

 結果としては、およそ10分であくびが出た。俺が。


「こーらっ、コージィくん緊張感持って」


「いやでもですね完全にこれ……」


 目の前の光景にどう緊張感を持てというのか。


 およそ半数を占める前衛職の方々は、スクラムを組むように広がって敵をムラなく掃討。

 それよりも先に10人ほどの後衛職の方々が一斉射撃で敵を射殺。

 5人ほどいるローグ職は、見事な連携でダンジョン内をくまなくマッピング。

 残るヒーラーな人たちは逐次回復行為を連打、パーティに傷を追った人はまるで見当たらない。 


 ……探索というより蹂躙だ。おかげで俺と、隣から離れないリルハには出る幕がない。


 そして、それ以上に。


---------------------------------

《[女神の寵児] 経験値を 209 獲得 (対象:ローズ 要因:スケルトンメイジ撃破)》

《[女神の寵児] 経験値を 189 獲得 (対象:メリル 要因:スケルトン撃破)》

《[女神の寵児] 経験値を 128 獲得 (対象:クレア 要因:ラージスライム撃破)》

《[女神の寵児] 経験値を 128 獲得 (対象:ロムニ 要因:ラージスライム撃破)》

《[女神の寵児] 経験値を 151 獲得 (対象:ミーナ 要因:ギラゴブリン撃破)》

《[女神の寵児] 経験値を 127 獲得 (対象:ステファニー 要因:デスホーネット撃破)》

《[女神の寵児] 経験値を 189 獲得 (対象:エリナ 要因:スケルトン撃破)》

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 さっきからひっきりなしにログが流れている。経験値もバンバカ舞い込んでくる。

 すでに高レベルになっているのでレベルアップの兆候は見られないが、歩いているだけで経験値がゲットできるかのような光景は、正直笑っていいのかすらわからない。


 あくびをこらえながら前進する間にも、戦闘職で前へ展開する人たちは時折こちらへ「護衛」として後退し、ローグ職の人は逐一耳打ちで状況を報告、ヒーラーの人は「大丈夫?痛くない?」とひっきりなしに聞いてくる。

 ……時折おっぱいを押し付けながら。


「こーらっ、鼻の下伸ばさないのっ」


 リルハがふくれっ面で抗議するが、やわらかい感触と多種多様な華やぐ香りの渦で、顔をしかめっ面にできる男がいようか。いや、おるまい。

 と、紛うことなきハーレムを満喫していると。


「……コージィくんのスケべっ……」


 リルハが思いっきり腕に抱きついてくる。

 右腕に伝わる豊満な旨の感触。鼻孔をくすぐる若々しい香り。思い起こされる至福の初日。


 ……うーん、ダンジョン探索ってこんなにも簡単に行ってしまうのか!!



   * * *



 謎の感慨にふけりながら、我ら42人はまったくの無傷のまま、最深部の地下3階まで降りてきた。


 忘れもしない、リルハとの出会いの地。

 しかしながら、俺たち以外の冒険者にとっては「初めて明らかになったダンジョンの領域」だ。

 澄み渡る巨大な地底湖を前に、パーティ一同、思い思いにはしゃいでいる。


「……あらためて見ると、不自然なくらいでっかいよなぁ、ここ」


「そう? 水辺のダンジョンだったら、最深部に大きな水源があって、近くの河につながってる、って結構よくあることだよ?」


 その点については特に違和感はない。問題は、水源があることよりも、地底湖の形だ。

 二度目の訪問、冷静な目で見つめてみると、この湖はものの見事に正円だ。

 小学生がおぼえる公式で面積を算出できそうな、きれいな円……そんな湖がおいそれとあるものなのか?


 まぁ、魔法がある世界なのだから、あるのかもしれないが。だが、引っかかる。

 そんな風に首をかしげていると、リルハはおもむろにアイテムポーチをまさぐり始める。


「まぁ、一応ここまで30分くらい歩きっぱなしだったし、一旦休憩しよっか!」


「それもそうだな。ところで、いったいなにをお探しで?」


「……実はですねぇ……」


 にんまりといたずらっぽく笑うと、ピンク色のアイテムポーチから、木目のきれいな、弁当箱のような箱が取り出される。

 フタを開けてみると、中にはサンドイッチがぎっしりと詰まっている。


「お昼ごはんを作ってきたのです! たまたま時間があったので!」


「おおおっ! いいね! しかもおいしそう!」


 一つ手にとって、しげしげと眺めてみる。

 厚切りのパンは少しきつね色にトーストされている。具は大きくかつ厚くスライスした一枚肉に、みずみずしいレタスのような葉野菜。

 一口かじってみると、甘めソースと、わさびのようなツーンとした辛さの香辛料が、絶妙に肉と野菜に絡み合っていく。香ばしいにおいのするパンは、前歯を立てるとサクッと小気味よく鳴る。なんだこれ、どんどん食べ進めていけてしまうぞ!?


「ど……どうかな……? 少食だけど、お肉はおいしそうに食べてたから、結構肉多めにしてみたんだけど……」


「……うまい……うまいよこれ! すっげえうまい! いくらでも食える!」


「ほ、ほほほ、ほんとっ!? よかったぁ~……! 早起きして作った甲斐があったぁ……!」


「思いっきり仕込んでいるじゃないか! 余計うれしいわ!」


 そう、おいしい以上に、すごくうれしい。

 女の子に料理を作ってもらった経験? 彼女できなかった俺にあるわけないじゃないっすか。

 セックスは最悪風俗に行けば体験できるけど、「女の子に料理を作ってもらう」って経験は、金を出して体験できるものじゃない。だから、余計に貴重に感じてしまう。


 ……なにより、手作りの料理の感想を聞いて、こんなによろこぶ女の子の顔を見ていると、胸の奥があったかい心地につつまれる。

 へにゃあっと、本当にうれしそうに笑うリルハは、心の底からかわいいのだ。


 本当に、この子には何度も救われている気がするな。


 そんな風に感慨深く(同時に、周囲からの言及し難い視線を感じながら)サンドイッチを味わっていると。


 ――足元が、轟音とともに激しく揺れ始める。


「きゃああっ!?」


「ぬおおおおおおっ!?」


 思わず声を上げずにはいられない異常事態。

 遠くで巨大な怪獣が足踏みをするかのごとき重音と、震度6以上は感じられる縦揺れ。


 パーティの女性たちも悲鳴を……

 上げるようでいて、それ以上に野太い「おおおおおおっ!?」という驚きの叫びがこだましていた。

 気がつけば、観光気分だったメンバー一同、完全に臨戦状態。場数を踏んだ冒険者は肝が据わっているということか。

 ……と、ちょっぴりへっぴり腰気味に俺に抱きついていたリルハは、思いっきり顔を赤らめている。


 いいんだぜ。俺は驚いて可愛い声をあげちゃう女の子も好きだぜ。


 内心のろけてみせたが、直後に聞こえる、滝のように水が流れる音でハッと我に変える。


 ――河も通っていないこのフロアで「水が流れる音」なんて聞こえなかったはず。いったいどこから!?


「あっ――あれ!!」


 ふと、大剣をかついでいたメンバーの一人が、地底湖のはるか反対側を指差し叫んだ。


 ……目を疑うような光景だった。

 指差す先には、湖の中に、まるでダイナマイトで爆砕したかのように開いた大穴。

 透き通った湖水は、その大穴から、栓を抜いた浴槽のようにどこかへと流れ出ていく。


 やがて、見渡す限りの地底湖が、巨大な正円のクレーターへと姿を変えていく。


 ……浮かび上がってきたのは、湖底だったものにびっしりと刻まれた、不気味な紋様。

 なにかの地上絵のようにも見える無数の線は、まばゆい青白い光を発し続けている――

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