第4話 早速だがピンチに至る
そして、翌朝。
全身(特に腰)が強張った様な痛みで目が覚めた。
「うあぁ……痛てぇ………」
どうしてこんな事に…と考える前に、景色が普段と違うことに気づく。正確に言うと同じ場所ではあるのだが、普段使っている寝具の位置に居ないのだ。
「…あー、そういやそうだったか。」
意識が段々とはっきりしてくるにつれ、昨日の出来事を思い出し始める。確か、女の子(正体はグール?)を拾って、色々あった後に寝台を譲ったはずだ。
……字面だけ見ると結構酷い状況だな。これ。
「よいしょ…っと…」
だいぶ目覚めてきたので、朝の支度をする為に立ち上がる。枕元のスマホを取るついでにぐる子の方を見てみると、幸せそうにスヤスヤと寝息を立てていた。
(危機感が無いのか…それとも、状況を把握出来てない…のか?)
そんな事をぼんやりと考えながら、卵幾つかとレトルトのご飯、余ってたハムなどを取り出し、調理しにかかる。
「あ、今日は土曜日か。なら講義の事を考えなくてもいいな。」
ネットニュースを流し見しつつ、朝食のチャーハンを盛り付ける。もう一つの皿には、普段自分で食べる分よりも多めに盛り付けた。出来上がったチャーハンをちゃぶ台まで運んだ後、ぐる子を起こしに掛かる。
「ほら、起きろ。ご飯出来たぞ。」
「ん〜ぅ〜………」
あまり朝が得意じゃないのか、ぐる子は布団から出ようとしない。早くしないと飯が冷めるんだが…
「仕方ない。よっ………と。」
とりあえず、顔を洗わせれば多少は目も覚めるだろう。俺はぐる子を担いで洗面所まで運び、うがい手洗いと洗顔を軽くさせた。
「んー…」
一通りさっぱりしたぐる子は、相変わらず眠そうではあったが、自分で歩けるくらいには意識がはっきりしたらしい。昨日と同じ座布団に座っている。
「さて、いただきます。」
「いただきまーす…」
そしてぐる子は俺の真似をして手を合わせた後、案の定凄いペースで食べ始めた。
(これなら余る事はなさそうだな)
俺は自分の分を口に運びつつ少女を観察する。無言ではあるが、その食べっぷりを見るに少なくとも不味い訳ではないらしい。頬が膨らむ程詰め込んでいるので、何となくハムスターを見ているような気分だ。
「…おかわり、要るか?」
「ん。」
ぐる子は再び大盛りのチャーハンを平らげると、満足したのか腹をさすった。
「さて、どうしたものか…」
俺は使った食器を泡立てながら、今日の予定を組み始める。とりあえず、ぐる子用の服を一通り揃えなければいけないので、出掛けねばならないのだが…問題は、外に出る為の靴さえも無い事だ。
「…あれ、手詰まりじゃねぇか…?」
突き付けられた事実に、この2日で何回抱えたか分からない頭を抱える。今まで服には無頓着だった所為もあり、どうしたら良いのか検討もつかない。服に詳しいいとこにでも頼るか…?
…と、そんなことを考えている時に、アパートに備え付けのインターホンが鳴った。こんな朝から何の用事なのか、と訝しみながら応対する。
「朝早くにすみません、本日隣に越してきた者です。挨拶しに来ました。」
インターホン越しなので顔は分からないが、声を聞く限りではそれなりに若い女性なのだろうと分かった。
このアパートは立地上、そこそこ近所の入れ替わりが激しい(特に大学生が多い為だ)。俺もそこまで長く暮らしている訳ではないが、回覧板の一部が書き換わっているのを何度か見てきた。
俺はインターホンを切り、玄関を開ける。目の前の女性は外国の人なのだろうか、金髪碧眼で割と彫りの深い顔立ちの美人、といった感じだ。それにしては流暢な日本語を喋っていたが、多分ハーフか何かで昔から日本で暮らしていたのだろう。
「これ、良かったらどうぞ。」
「あ、ありがとうございます。では…」
ギフト用の菓子折を受け取り、俺は礼を言って扉を閉めようとした。が、それはすかさず阻まれる事となった。
「……へ?」