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2017年11月7日ーー甘い中にもホットなスパイスを

森永製菓が制定。


1919年(大正8年)に日本で初めてカカオ豆からの一貫ライン製造による飲用ココアを発売した同社のココアの美味しさをより多くの人に味わってもらうのが目的。


日付はココアは体が温まる飲み物として 11月上旬から飲む機会が増え始めることから、冬の気配を感じ始める立冬を記念日に。

 最近、晩秋から初冬に季節が変わっていくせいかよく冷えてくる。

 こうなってくると、温かい飲み物でも少し甘さを感じるのが欲しい。

 なので、紅茶にコーヒーでもカフェオレ。あとは定番のホットココアだ。


「あったまるぅーー」

「ふゅぅーー」


 ちょっとおっさんのような言葉遣いが出てしまったが、冷え込んだ外で遊んでからのホットココアは格別なので仕方がないもの。


「ふふ、ホットココアは冬ならではの飲み物だもの」


 麗しの王妃様のファルミアさんもコフィーではなく今日はココアだ。彼女も寒さには少し堪えてるようで、僕らと同じように温かくて甘い物が欲しかったようだ。


「けど、ホットココアがこの世界で需要されてきたのはまだごく最近ね」

「そうなんですか?」

「ええ。ココア……コパトはそれまでデザートの彩りなんかにしか使われてなかったそうよ。チョコの原材料の一つとは言っても、砂糖を加えなければ抹茶以上に苦いからって」

「それが何故僕らも知ってる形態に?」

「ああ。私が再現してエディ達に飲んでもらったから」

「あ、あははは……」


 本当にこの人の地球食への探究心は凄い。

 僕も他人事じゃないが、この人の場合こちらに来てから相当の年月の間、拠り所になるものが欲しかっただろうから無理もないもの。


「ただ、チョコは難しいのよね。改善の余地はあっても、化学薬品があるわけじゃないから保存料とか柔らかくさせるのが作りにくいもの」

「と言うと、ほぼ天然素材由来のチョコ?」

「そうね。味や食感はまだ研究されてるけれど、今のところエディ達が普通に食べてるのが主流だわ」


 ちょっと大人でも噛み砕きにくい箇所を除けば、味はほとんど僕達が知っているチョコとそこまで変わりない。

 だからか、直接食べるよりは溶かしてソースにさせたりケーキに混ぜ込んだりが多いそうで。


「こうなると、ココアやチョコを使ったあったかいお菓子が作りたくなるわ……けど、そうなると一人ね?」

「セヴィルさんですよね……」


 甘いものを極力遠慮されるが辛いものはなんでもござれな人。

 僕らが作るのでも大分召し上がっているようだが、それでも普通に食べる量と比べたら僅かだ。甘じょっぱいもの以外で積極的に食べたのなんて、例の唐辛子入りジェラートだけ。


「ただこんな寒いんじゃジェラート作りにくいですよね」

「寒い時にはーって謳い文句はこの世界じゃ共感されにくいもの。ゼルがまだ食べれそうな……あ、飲み物なら一つあるわ」

「え?」


 彼がまだ飲めそうな?

 何だろうと考えるも、ファルミアさんにココアを飲んでから取り掛かろうと言われたので大人しく飲むことにした。


「材料はそこまで難しくなくてよ?」


 集めた材料は、唐辛子数本。ナツメグの粉状のタイプ。蜂蜜にココアの粉と水。


「こちらで何を作られるのでしょうか?」


 マリウスさんも見学することになったが、やっぱり予想は出来ないそうだ。僕も調理法は同じく予想出来ない。


「ホットコパトに辛味を加えるのよ」

「え?」

「こ、コパトにですと?」


 ほぼ同時に僕とマリウスさんの頬が引きつったと思います。

 けれど、ファルミアさんはにっこり笑ってから調理を始めた。


「乾燥のカラナを割ってタネを全部抜いて、水と一緒に鍋に入れてから煮立たせるの」


 その間にマグカップはないからコーヒーカップとティーカップの中間な陶器のカップに適量のココアパウダーと蜂蜜を入れておく。


「カラナがふやけて、少し湯が赤みががったら……これでコパトを溶かすの」

「か、辛くありませぬか⁉︎」

「こう言うコパトの淹れ方もあるのよ。蜂蜜と粉を丁寧に溶かすのに少しずつ入れてスプーンで混ぜて」


 全部入れて混ぜ終わったら、ふやけた唐辛子も入れて軽くナツメグもふりかける。これで完成だってさ。非常にお手軽です。


「ふーゅぅ?」


 クラウはくんくんとお鼻を動かしているが、少しして微妙な顔になった。眉毛はないけど、目が少しへにょんと垂れて首を捻ってる感じ。


「ふふ。いつもの温かいコパトとは違うもの。これはマリウスが試しに飲んでみてちょうだいな?」

「わ、私が、ですか?」

「あなたくらいの世代には好ましい味のはずよ?」

「で、では……」


 ぱっと見は、唐辛子の浮いたココアだ。

 本当に美味しいのかなぁと心配になってくるが、ファルミアさんの料理にはハズレがないもの。信じようとマリウスさんの感想を待つことにした。

 彼はココアのカップを慎重に持ち上げ、縁に口をつけてから軽く傾けた。

 待つこと数秒。

 不安気だったマリウスさんの表情が、段々ときょとんとしたものになっていく。


「辛味は感じますが……思ったよりは。甘味も蜂蜜があるおかげでちょうどいいですね。それに、普通のコパトよりも体が温まる気がします」

「ええ。カラナの辛味の部分が適度に湯に溶けるから、そこまで辛くないのよ。あと最後に振りかけた粉も足せば冷え症には最適よ。ココルルでもいいかもだけど、コパトの方があっさりしてるし甘味も調整しやすいの」

「なるほど。妃殿下が以前お伝えしてくださったコパトの飲み方でも十分画期的でしたが、また新しい飲み方ですね」


 熱いからごくごくは飲めなくても、マリウスさんは唐辛子だけを残して飲み干した。


「さて、これはごく普通よ? ゼルには……もっと凄いのを作ろうと思うの」

「もっと凄いのを?」


 カラナの量を増やすだけかと思いきや、貯蔵庫に行かれて小さな木箱を彼女は持ってきました。

 その箱を見た途端、マリウスさんはさっき以上に顔が引きつられた。


「そ、それをお使いになるのですか⁉︎」

「うふふ。これを食べれるのはゼルしかいないもの」

「使うのでしたら早めに仰ってください! 私どもはまだしも、カティアさん達は見たことがないでしょうから結界を纏わせなくては!」

「へ?」


 そんな危険物質?と首を捻っていたら、マリウスさんが軽く詠唱をして僕とクラウにベールのような結界をまとわせてくれました。


「開けるわよ?」


 ゆっくりと開けられた木箱の中には……綿に包まれたドライトマトより少し大きい赤い実。

 これのどこが危険なんだろうと近づいて確認しようとしたら、マリウスさんに肩を掴まれて止められました。


「結界越しでも危険に変わりありませんので、やめておいてください」

「これ、なんですか?」

「キャロパッラ。カラナの特上種よ。そうね……これを刻んで一粒口にしただけでも普通の人なら一か月舌と唇が痺れるだけで済まないわ」


 つまりは、ハバネロやジョロキア並みかそれ以上に辛くて痛い食材なんですね。

 乾燥状態でもカプサイシンとかが空気中に飛散どころか拡散の恐れがあるってどれだけ凄いんだろう。

 そして、これを平気で食べられるのがセヴィルさんって違う意味で尊敬しちゃいそうだ。


「さーて、ゼルには一応タネは取り除いて全部使おうかしら?」

「だだだ、大丈夫なんですか?」

「これを使った煮込み料理や麺料理を普通のカラナと同じように食べれるのはあの人だけよ?」

「そうですか……」


 僕が以前作ったカラナ入りジェラートでも、フィーさんがいたずらに辛さを増大させたのでちょうどいいって言ってたものね。

 キャロパッラを調理する際はさすがに離れててと言われたんで、少し距離を置いて待機してました。

 その後には僕も作り方をおさらいして普通の唐辛子ココアを作ってエディオスさん達と飲みましたが、ちょっと辛味があってもすっきりと美味しいココアでした。

 セヴィルさんの特製キャロパッラ入りは誰も味見しようとしませんでしたが、ご本人がおかわりしたい程気に入ってしまいました。それからしばらくは上層の厨房では結界だけでなく布マスクや伊達眼鏡装着してまで、必死の形相でお湯でキャロパッラを煮る光景が続いたそうです。

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