2017年5月13日ーー爽やかな果物と共にカクテルを
アメリカの『バランス』(1806年5月13日号)という雑誌によってカクテルという名称が生まれた日。
その日僕は夜遅くに空腹感を覚えてしまっていた。
もちろん僕だけじゃなくて守護獣のクラウもだけど、ベッドでごろごろしてても二人揃ってお腹の虫が治る気配がないので止むを得ずに起き上がった。
「厨房に行こうか?」
「ふゅ」
この時間は誰もいないだろうけど、片付けをしっかりしておけば大丈夫だよね?
と思い立って、クラウと一緒に食堂の方に急いだ。
「……あれ?」
誰もいないと思ってた食堂の扉を少し開ければ灯りが漏れてきた。
誰かいるのかなとそっと開ければ、向こうもこちらに気づいてくれた。
「なんだ、カティアか?」
「どうしたのー?」
エディオスさんとフィーさんだった。
他にもユティリウスさんがいたけど、卓に突っ伏して寝ちゃってるみたい。
「お腹が空いちゃったんで厨房を借りようと……皆さんはどうしてこちらに?」
「晩酌だよー?」
ほら、とロックグラスに大きい氷とブランデーのようなお酒があるのを持ち上げられた。
(お酒、かぁ……)
幼児化して忘れがちになるけど、僕成人済みだからお酒は大丈夫なんだよね。
ただ、それでも酒毒の具合がわからないだろうとセヴィルさんに禁止されてるのです。
「ふゅぅ?」
クラウはお酒が初めてだから何の事?って首を傾いでいる。
「お、そっか。クラウは酒見んのも初めてだもんな?」
「ふゅ、ふゅ!」
「うーん、飲んでも害はないと思うけど……まだ生まれてそんなに経ってないからなぁ」
「ふゅぅ……」
飲んじゃいけないようなニュアンスがわかると、クラウはしょんぼりと耳と翼をへたらせてしまった。
「え……っと、ユティリウスさんはお酒飲んで寝てしまわれたんですか?」
「いつも途中で寝ちゃうんだよねー? まだ3杯程度なのに」
「この酒だからだろ?」
「酒精が強いんですか?」
そう言うのだと酔いにくい人でも酔っちゃうらしいって聞くけど。
「マシリータっつー遠方の国の献上品でな? 保存も考慮してか腐りにくい酒を造るのが上手いんだ」
「へぇ……」
からんとロックアイスを浮かべる琥珀色のお酒は、近くで見させてもらうと宝石のように綺麗だった。
「カティア、飲みたそうな顔してるね?」
「けど、セヴィルさんに止められてますから」
「こいつだけじゃなくて何かと割って飲めばいいんじゃね? こっちでも酒はフィーくらいの見た目の奴からじゃねぇとだめだがお前は違うし」
「え、カクテルですか?」
「「カクテル?」」
おや、カクテルって単語はこっちにはないんだろうか?
「お酒に果実酒やジュースなんかを混ぜ込んだ飲み物のことをカクテルって言うんです」
「随分洒落た名前だな?」
「ええ、そのカクテルごとに意味を込めたものもあるんですが……えっと、飲んでいいんですか?」
「飲み過ぎなきゃいいだろ? せっかくだし、俺も飲んでみてぇ」
「僕もー!」
「俺もー」
「ユティリウスさん?」
起きたのかなと思ったら寝言でした。
相変わらず卓に突っ伏したまま寝ちゃっているし。
「とりあえず、夜食とつまみも作ってからにしましょう!」
「僕手伝うよー!」
「俺も手伝えそうなもんがあるならいいぜ?」
「エディオスさんもですか?」
王様に、って言うのもだけどお料理されることなんてあるのかな?
「エディは夜営も1人でこなせれるくらいだから心配はないよー?」
「っつっても、下ごしらえ手伝える程度だろうな」
「じゃあ、行きましょう!」
3人とクラウとで貯蔵庫のものを探ってつまみの材料とカクテルの材料を調達していく。
「カクテルは数種類と考えてますんで、エディオスさんには絞り器で果物の果汁をひたすら絞っていただきます」
「そんくらいならお安いご用だ」
「フィーさんは僕とおつまみに夜食作りです」
「夜食は何の予定?」
「ふふふ、小麦粉とマロ芋を使ったものです」
あんまり食材を使い過ぎちゃいけないから、少なく且つボリューミーなものを作ろうと思います!
「マロ芋のチヂミと言う焼き物を作ります!」
「チヂミ?」
「僕のいた世界の異国の料理ですが、難しくはないですよ」
まずはジャガイモを薄く皮むきして、これまた薄くスライスしたら何枚か重ねて千切りに。
ジャガイモは別にフライドポテト用も用意したのでこっちはフライドポテトの大きさに切っておく。
生地は小麦粉と水でとろんとろんになるまで混ぜて、隠し味にお醤油を数滴。この中に千切りにしたジャガイモとごまを入れておたまで絡ませる。
これを熱したフライパンに入れて焼けば完成。出来上がったのは、順に食べ易い大きさに切ってからお皿に盛り付けます。
「これがチヂミ?」
「マロ芋じゃなくてにんじん……チャロッツと緑色の香りが強い野菜を刻んだのを使うのが多いんですけど、お腹にたまるのならこっちのがいいかなと」
「へぇ。で、こっちの皮付きの鳥肉は?」
「こっちはおつまみに近いですね」
作るのは鳥皮のペペロンチーノ風にもも肉の唐揚げ!
薬味が呼び方以外ほとんど変わらないから作るのは簡単。
ペペロンチーノの方は一口大に切った皮を片栗粉にまぶして、フライパンで香りづけしたニンニクと唐辛子の中に入れて皮がカリッとするまで炒める。
味付けはニンニクの香りづけの時に塩を入れてるから大丈夫。物足りなければ仕上げの時にふりかけるけれど。
並行して少し深い鍋でポテトと唐揚げも揚げて、全部が出来上がれば保温の魔術をかけてカクテル作りへ!
「ちぃっと手首が疲れたな?」
エディオスさんはお願いしていた果物を全部ジュースにしてくれました。
種類はオレンジ、グレープフルーツ、あとライム。
ライムはこっちだとレイクと言うらしい。
「ありがとうございます」
それとは別に僕はフルーツナイフで果物をグラスに刺しやすいようにカットしておくのも忘れない。
フィーさんとエディオスさんには不思議がられたけど。
「なんでまた切るんだ?」
「飾り付けも兼ねてです! さっき見つけてきた細長いジュースグラスの縁にこう刺すんです」
切り込みを入れたオレンジを実際に刺してみせれば、なるほどとお2人にも手を叩かれた。
僕はレストラン勤務だったから、ディナータイムのお酒の注文の際にこう言うのカクテルを提供させてもらってたんです。ランチタイムでもお子様のジュースにもやってたけどね。
「ふゅ、ふゅ!」
クラウは僕の頭の上でオレンジを食べたがってるのかじたばたし出した。
そんなクラウには普通にオレンジのカットしたのを少し食べさせて、いよいよメインのカクテル作り。
「氷を入れる前に、指一本分程度の高さにまでお酒を注いで」
久々だから慎重に注ぐ。瓶は結構重いけど我慢だ。
「そこに氷を詰めてからジュースを入れまして、マドラーでかき混ぜるんです」
マドラーはあるのにカクテルの名前が浸透してないのが不思議だよね。
それよりもと、3種類をとりあえず1個ずつ作ってから僕達は食堂に戻った。ユティリウスさんはまだ起きずに熟睡中でした。
「美味そうだな! ユティの奴なんで起きねぇんだ?」
「こんなに美味しそうなものを前にしてもったいないよね? がっつかれるから起こさないけど!」
「あはは……」
ユティリウスさんの爆食いは凄いからね。
「えっと、こっちのチヂミは下味はあんまりつけてないんでこのタレを使ってください」
「サイソースだけに見えんだけど?」
「お酢とちょびっとだけカラナを入れてあります」
「どれどれ……ん! もちもちしてて美味しい‼︎ タレもちょうどいいね」
フィーさんはひょいぱくっと言うくらい食べ進めるので僕やクラウも自分の分のチヂミを頬張る。
「ふゅふゅぅ!」
「美味しいねー?」
千切りにしたジャガイモがとごまがいいアクセントになってるし、生地はもちもちでタレにつければ無限に食べられちゃいそう!
「この皮のもいいな。酒によく合うぜ!」
「こっちの揚げ物もいい塩加減だよ!」
さて、メインのカクテル。
僕はオレンジでフィーさんはグレープフルーツ、エディオスさんはライム。
お酒は共通にブランデーのような蒸留酒。
グラスにはそれぞれのカットフルーツを盛り付けてあるからとっても綺麗。
「どれ……」
くぴっとエディオスさんが飲み始め、僕は反応を待つ。
ごくんと喉が嚥下するのを確認すれば、エディオスさんの口元が緩んだ。
「いいな、これ! レイクの酸味とよく合ってるな!」
「こっちのシトロムのも美味しいよー」
フィーさんもぐびぐびと飲んでいたので、僕も飲むことに。
本当にいいのかなーと、少しばかり罪悪感を覚えたけどいいよねと納得させてひと口。
一瞬強いアルコールが舌を痺れさすけども、美味しいカクテルだった! 一気飲みはせずにくぴくぴって具合にしたけど。
「ふゅ、ふゅぅ!」
まだ諦めてないのか、クラウが飲みたそうにこっちに手を伸ばしてきた。
「美味しいけど、君はまだ赤ちゃんだし」
「ふゅぅ、ふゅ!」
じたばた度が駄々をこねる赤ちゃんそのもので収集がつかない感じだ。
多めにチヂミや唐揚げとかたくさん盛りつけたのに、それはすでに空っぽ。
「……フィーさん」
「うーん。これは酒精少ないから、ちょびっとだけならいいかな?」
「わかりました。クラウ、ひと口だけだよ?」
「ふゅ!」
お腹に詰めたから空きっ腹にお酒入れるよりは大丈夫なはず。
とりあえずグラスを少し傾けて飲ませたんだけど、
ゴキュゴキュ!
まさかの展開で勢いよく残ってた3分の2を全部飲み干しちゃった⁉︎
「く、クラウ⁉︎ そんなジュースみたいに飲んじゃダメだよ‼︎」
「…………ぶゅ?」
案の定ぽけーっとお酒初心者のように顔が赤くなっていき、目もとろんとしてきた。
「どど、どうしましょう⁉︎」
「あちゃー……術で酒精抜いてもいいけど、わからせるためにそのままにさせとこ?」
「大丈夫なのか?」
「少し酔っただけだと思うよ? 二日酔いになったらなったで、そん時に叱りつけた方がいいね。今の状態じゃぼんやりしてるだろうから」
「……クラウにはお酒禁止ですね」
僕は飲む気が失せたので、あとは普通にジュースでつまみなどを食べることにした。
フィーさんやエディオスさんはカクテルが気に入ったので、お代わりの度に僕が作ることになったよ。
ただ、ユティリウスさんをいい加減起こした時にはニンニクの匂いにつまみを食べてたことがバレて盛大に拗ねられてしまった。
「今晩俺にも作ってよ!」
と、案の定の答えに僕達はしょうがないかと肩を落とした。
クラウは朝まで寝てたけど、起きたら二日酔いもなくけろりとしていて、むしろいつもより元気でいた。
僕も数口だけだったから異変はなかったし大丈夫!と思ってたんだけど。
「………………少しとは言え酒を飲んだらしいな」
「ごごごごごごめんなさい‼︎」
ユティリウスさんがカクテルのことをセヴィルさんにも言ってしまったようで、僕はセヴィルさんにお叱りを受けてしまいました。
ちゃんとジュースで薄めててもクラウのようなことがあるから、と超低音ボイスで圧力をかけられてしまい、晩酌はノンアルコールカクテルもといミックスジュースならと許可はいただけました。
それってお酒じゃないよ……早く元の体に戻りたいと違う意味で切実に思った。
櫛田は学生時代かけもちのバイトでカクテルを提供させていただいてたので懐かしい思い出です。
今は訳あって飲めませんが、時折ファジーネーブルやカシスオレンジとかノンアルじゃない方飲みたくなります(´。・д人)シクシク…




