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2017年3月14日ーー春先の花冷えには香る蜜飴part2

「え、どこなの?」

「お庭のちげみー」

「……それ果てしなく広いけど、生えてる場所わかるの?」

「うん!」


 つい先程、転移した場所にあったからな。


「ふーん。行き先は僕とこの子が転移すればわからなくもないか? じゃ、カティアはクラウの看病してて?」

「あ、はい」

「じゃ、頭に思い浮かべててー? そのまま辿って転移するから」


 我はこくりと頷けば、創世神は我の頭に手を添えた。

 そして、一瞬の浮遊感を感じ、気がつけばカティア達の姿も部屋でもなく、今日我が転移した茂みの中に創世神と立っていた。


「ここか……? ふーん、たしかに同じ匂いだね。ディシャスは竜だから匂いに敏感だもんね?」

「あい」


 しゃがみ込めば、クラウから漂ってきたのと同じ匂いがする草花がちゃんとあった。

 花は可憐で白く、草の部分は青々としてしっかり土に根付いていた。


「こりぇか?」

「うん。それだね。えーっと……ひい、ふう、みぃ……ディシャスもその辺の抜いていいよ? 根の部分は別にいらないから」

「にゅく?」

「こうやって葉と茎を一緒に持って、土から出せばいいの」


 試しに一本だけ創世神が抜いてみてくれて、我もそれにならって抜いてみた。

 2人でえっちらおっちら抜いていれば、あっと言う間にこんもりと小さな山が出来た。


「これは亜空間に仕舞えばいいから、と」


 ぱちんと創世神は指を鳴らせば、草花の山は空間に溶け込むように消えてしまった。

 ただし、一本だけは彼の手にあった。


「じゃ、戻ろうか?」


 と言って、もう一度指を鳴らせば瞬時に我達はカティアの居る部屋に戻ってきた。


「フィーさん!」

「お待たせ。これ持って厨房に行こうか?」

「けど、クラウこのままでいいんでしょうか?」

「あー、そだねー? 出来たらすぐ食べさせた方がいいし、あっちのが人手多いから連れてくか?」


 そうしようと言うことになり、我も同行を許可されてちゅーぼーに向かった。


「あら、カティ?」


 食堂に行けば、隣国の王妃と遭遇した。守護妖達の姿はなくて、少しほっとする。


「……あら、その子。それにクラウの様子が変ね?」


 王妃はざっと我らを見ただけで察したようだ。

 ちなみにクラウはカティアに布に包まれて抱かれている。


「クラウが花冷え風邪にかかったみたいでさ?」

「あの風邪? いやね、うちの四凶(しきょう)達も久々にかかっちゃって。在庫がないようだから今からヘルネ取りに行こうとしてたのよ」

「四凶さん達もですか?」


 あの守護妖達もクラウと同じ病に?

 想像してみたが、人型でなく元の姿なのだろうか。


「それで弱っちゃったから全員原型になってしまってね? 部屋からは出さないようにしてきたわ」

「あ、あのお姿に」


 カティアは見たことがあるようだが、やはり畏怖が優って直視は出来なかったようだ。我とてあの姿は異様に見えるからな。深く同意する。


「ヘルネなら、僕とこの子が取りに行ったからあるよ」

「あら、そうなの。じゃ、あとは飴作りね」

「その前に乾燥させる準備しないと」


 なので、我はクラウと卓の端でじっとしていることになり、カティア達は摘んできたヘルネとやらを花と草と分け始めた。


「たくさん摘んできてよかったー。一個じゃクラウはまだしも四凶(しきょう)達は厳しいからね」

「元があの巨体だもの。それに花冷え風邪は人族でも直に広がるだろうから、予防のために食べる方がいいわね」

「人でも引いちゃうんですか?」

「そうね。時期性の流行り風邪と一緒だけど、インフルエンザほど大したことはないわ。どっちかと言うと喉風邪に近いわね。クラウが咳というか調子悪そうに鳴いてるでしょ?」


 我はクラウを覗き込めば、『けきゅ、ぶゅ』と平素と比べれば辛そうにしていた。


「よーし、こっちは終わり! 順に乾燥させてくね」


 と言いつつも、所作は指を鳴らすだけであっと言う間に千切った花々が生気を残しつつもパリッとした風に乾燥されていく。

 創世神はそれをカティアや王妃の方も終われば同じようにしていった。


「茎や葉の方は香草茶にすればいいわね。そっちは自然乾燥で天日干しすればいいかしら?」

「どんな味になるんですか?」

「そうねー? レモンバームやカモミールの中間くらいかしら?」


 よくはわからないが、草花には無駄な部分がないらしい。

 仕分けを終えた草の方はまとめられて、創世神が指を鳴らして消えさせた。


「じゃ、まずは蜂蜜飴作るわよ!」

「はーい」

「人手欲しいから君も来る?」

「え?」


 まさか待つように言われると思っていたのに予想外な展開。


「最後の仕上げだけなら手伝えそうだし、ここにいてもどうしていいかわかんないでしょ?」

「そうね。待たせるより目の届く範囲にいた方がいいわ。クラウにも出来次第すぐ食べさせたいものね?」

「行こうか?」


 カティアは布ごとクラウを抱き上げていて、空いてる手で来い来いと手招きしてくれた。


(またカティアの料理を見れる!)


 今日は食べるのが目的ではないので、手伝えることがあるのならば喜んでするとも。

 とりあえず、ちゅーぼーに行けば手を洗うように言われ、カティアと一緒に水で手を清めた。


「作り方はシンプルだけど根気がいるの」


 我達の前には大きな透明の器に琥珀色の何かが入っているものが置かれた。

 なんだろうと首を傾げるが、漂ってくる匂いから集めた花の蜜だとわかった。

 あれで何をするのだろうか? そのまま食しても精霊達より味覚が鋭過ぎる我らでも人族でも甘味が強いはずだが。


「この蜂蜜を焦げないよう煮立たせて、飴状にして少し冷却させたら手で丸めて最後に乾燥させたヘルネの花を乗せればいいのよ」

「素手で大丈夫ですか?」

「この蜂蜜なら大丈夫よ。飴にしても手にベタつかないの」

「じゃ、この子には花を乗せる作業やってもらおうか?」

「あい」


 見ていればわかるだろう。今しばらくは暇なようでクラウを見てやることしか出来ないでいるが。

 だが、直ぐに花の蜜を濃縮したような香しい薫りがしてきた。


「あっまい匂い!」

「ほんとですねー」

「ふふ、そうね。木べらで焦げつかないようにしなきゃいけないからずっとついてなきゃいけないけど。この甘ったるい匂いだけはどうしようもないもの」


 少し奥を見れば、王妃、カティア、創世神が並んで同じようなことをしていた。カティアだけは木箱に乗って創世神と高さを合わせていたが。たしかにあの卓でも調理をするのにカティアの背丈では足りない故か。以前もそうであったし。


「あっつ!」

「この湯気が立ってからがポイントよ。練り具合が硬くなってきたら蜜飴の完成なの」


 ふむ。更に薫りが濃くなってきたな。我ら竜ではメロモが花の蜜代わりだと教え込まれてきたが、全く違う気がする。

 基本的には草原などへ遠出に行く時や獣舎の脇に稀に咲いているものでは仄かに感じ取れるが、これは濃過ぎる。器に入れてあった時よりもはるかに。


「ふきゅー?」

「目がしゃめたか?」


 此奴も匂いに目が覚めてしまったのだろう。顔を覗き込めば、まだ辛そうだが鼻辺りをくんくんと動かしていた。


「ふゅ?」

【カティア達が今薬を作ってくれている。まだ寝ておけ】


 口ではうまく伝えられないから念話で話せば、薄目を開けていたのをまた直ぐに閉じた。

 どうやら伝わってはいるようだ。


「さぁて、出来たわ!」

「こっちもー」

「僕も多分?」


 とここで、カティア達の仕度が終わったらしい。

 未だに濃密な甘い匂いを漂わせるそれを、冷気の術か何かで冷やせば匂いがいくらか落ち着いた。


「じゃ、あなたの出番はこれからよ? 私達が今からこれを丸めていくから、さっき仕分けて乾燥させた花を一枚ずつペタって乗せていって?」

「のしぇる?」

「手本は見せるから、ちょっと待ってて」


 と言って王妃は先が少し凹んだ棒で花の蜜を掬い上げて、手の中でコロコロと転がしていった。

 ただねとっとしていたものが玉のように丸くなり、脇に出しておいてあった花を1つ掴んで、王妃は丸めたそれに乗せればぴたりと自然に張り付いてしまう。


「こうやればいいの。出来るかしら?」

「あい!」


 これだけならば、技術なども特にいらない。

 我はカティア達が丸めていく花の蜜に1つ1つ丁寧にヘルネの花を乗せていくのを手伝っていった。


「終わりました!」

「僕も、いやー久しぶりに疲れた」

「終わりまちた」

「あなたもお疲れ様。じゃ、半分はうちの四凶(しきょう)達に持っていくからそっちは頼んだわよ」


 と言って、王妃は出来上がったものを持ってちゅーぼーから去っていった。

 我達も会話を聞かれたくないためにカティアの部屋へと移動し、クラウを再び寝床に降ろした。


「これを食べさせれば落ち着くんですか?」

「多分ねー?」

「多分?」

「神獣が花冷え風邪引くなんて初めてだから」

「こ、これが効かなかったら?」

「まあ、とりあえず一個食べさせてみなよ」

「あ、はい」

「ふきゅ、けきゅ」


 たしかに早く食べさせなくては、クラウが辛いままだ。


「クラウー? 起きれそう?」


 カティアが呼びかければ、クラウは薄目を開けてゆっくりと視線を彷徨わせた。


「けきゅ?」

「起きれた? 薬出来たからお口開けれる?」

「ふ……ゅ?」


 寝起きのせいでカティアの言ってることがほとんどわかっていないのだろう。

 それでも、蜜の匂いに口に入れたい欲求が出て来たのか、わずかばかり口を開けてくれた。

 カティアはその口に少し蜜の玉を押し込み、クラウが苦しくないようまた少し含ませるように押し込む。





 ころろん、ころん




 小さな音と共に玉がクラウの口の中に入っていった。

 大きいからか飲み込めないでいるが、頰に袋が出来るように左右転がせていれば、やがてクラウの薄目がどんどん大きく開いていく。


「ふ…………ふゅふゅぅ!」


 と声を上げて、あれだけ辛そうにしていた身体をなんなく起こしてカティアの方に振り返った。


「ふゅぅ!」

「クラウ、大丈夫?」

「ふゅ!」


 こくこくと頷いたクラウは翼で跳び上がってカティアに抱きついた。カティアも予想はしてたのか落ち着いて抱きしめる。

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