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ガーディアンズ・ファンタジア~神々の啓示~  作者: 唯(ただ)の草花とくろうさぎ
第一章
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第六話:『敵襲』ーー赤き警報(レッド・アラーム)


 シェルトフォードに向かう途中で、隣接する町に立ち寄ったこと以外、誰かが下りるということも特に何か問題が起こるということも無く、馬車は進んでいく。

 馬車内では相変わらず誰も口を開かず、馬車が進む音のみがその場を占めるがーー


「っ、!?」


 脳内に響きわたる危険を知らせる警告音。

 『※Attention!』と目の前を覆う程の、無数の同じ文面の赤い画面に、ユイは舌打ちしたくなった。

 そして、面倒くさいことに、この危険察知能力は無駄に高性能だ。


「……すみません」


 さすがにこのままだとマズいので、ユイは二人に向かって、口を開く。


「お二方は、今すぐ戦えと言われたら、戦えますか?」


 「はい」でも「いいえ」でも、とりあえずユイは返事が欲しかった。

 可能なら自衛に、不可能なら自分が持つ商売道具ーー武器の(たぐい)を貸さなければならない(買い取りではない)。

 そんな状態で一番困るのは、何も返事をしてもらえないことだ。


「そんなことを聞いてどうする」


 青年の言葉は正論だった。

 だが、返してもらえただけでも有り難い。


何か(・・)が近付いてきているみたいなので、撃退できるかどうかの確認をしたいんです」

「……『何か』とは?」


 女性も口を開くが、それにユイは答えられない。


「分かりません。でも、自衛が必要なレベルではあると思います。先程から索敵・敵関知用の警告アラームが脳内で鳴りっぱなしなので」


 本当は索敵用ではないのだが、脳内では未だにうるさいほどのアラームが鳴り響いている。


「……戦えなくはない」

「近距離、遠距離。どちらが得意ですか」

「……近距離。遠距離も出来なくはないがな」


 次にユイは女性に目を向ける。


「お姉さんは?」

「異能は使えるけど……あまり役立てないと思う」


 これは、どう判断したものか。


「……もし、武器を使うなら、何が良いですか?」

「え、武器?」

「剣、槍、弓など……いろいろとありますが」


 戸惑いなどは感じるが、今はそれに答えている場合ではない。


「……え、短剣?」


 ユイが差し出した、少しばかりの装飾がされた短剣に、女性は首を傾げる。


「何もないよりはマシだと思うので」

「それもそうなんだけど……」

「あくまで、自衛手段として持っていてください」


 そう言いながら、女性の方に目を向けず、ユイは自身のカバンの中を漁る。

 そして、目的のものを見つけたのか、いくつか液体が入った小瓶を、ポケットに突っ込む。


(迎撃の準備は出来た。後は、どう馬車から出て、撃退するべきか)


 だが、そんなこと考えている暇は無くなった。


「ーーっつ!?」

「きゃあっ!」

「わっ!」


 青年と女性はともかく、かばんの中身を漁っていたユイは見事に転がった。


「~~っ、」

「だ、大丈夫……?」


 痛そうな音がしたために女性が尋ねるが、肝心のユイは派手に打った場所の痛さで悶えている。

 それでも、ポケットに入れた小瓶が割れた様子は無いので、ユイとしては助かった方だ。

 そして何より、馬車が止まったのと同時にアラームが収まったことで、瞬時に状況は把握できた。


「敵さん、登場したみたいですねぇ……」


 扉に付けられた小窓から外を見ればーー


獣化(けものか)した奴らが彷徨(うろつ)いてんな」

「しかも、一人や二人だけじゃない。捌ききれるか、これ」


 淡々と言う青年に対し、ユイは顔を引きつらせる。

 どんな敵が来るか分からなかった故に、様々な対策をしていたわけだがーー


「獣化。獣化……」


 カバンを閉め、あちこち移動しないように固定する。


「やるだけ、やってみるか」


 ロイドやユーティウス家の者たちが聞いたら、怒ったり心配したりしそうだが、その前に自分の身を守らないと最悪死んでしまう。


「……ふぅ」


 ぐるりと首を回し、一息吐きーー小窓から首を覗かして、外の状況把握。そして、それが終われば、自分の身体能力をフル活用して、小窓から馬車の屋根の上へと移動する。


「さて、その本能を利用して逃げれば良いものを」


 馬車を囲むように集まっている獣化したモノたちに、ユイは冷たい目を向ける。

 そんな彼女に何かを感じたのか、獣化した者たちが警戒を始める。


「御者さん、御者さん。生きてますか?」

「え? って、ええぇぇっ!? お嬢さん、そんな所で何やってるんですか!?」


 屋根の上にいるユイに気付き、ぎょっとする御者の男。


「生きているのなら、良かったです。手綱、しっかりと尚且つ上手く握っておいてくださいよ」


 御者の何をするつもりだ? と言いたげな視線を無視し、ユイはポケットから小瓶を一つ取り出すと、蓋を外す。


「『我は(こいねが)う』ーー」


 数滴馬車の屋根へと垂らし、女性に渡したのとは違う短剣の刃で指を傷つけ、血を先程垂らした数滴の上へと落とす。


「『我が血を(かて)に、我が願いを聞き届けよ』」


 ユイは告げていくが、無防備にも見える彼女なら倒せると判断したのだろう。ユイの背後から獣化した男が襲いかかるが、それは届くことなく終わる。


「『魔より我らを守護し、裁く(・・)ための力を欲す』」


 ユイに襲い掛かろうとしていた獣化した男は、血混じりの数滴垂らされた液体が放つ光に弾かれ、馬車の上から地面へと落下する。


『グルルル……』

「全く、四方を囲むとか……こっちは、お前らの相手をしている時間も惜しいんだよ」


 勝てると判断した相手に反撃され、睨みつけてくる獣化した者たちに、ユイは新たに液体を数滴垂らし、新たな術式を起動させる。

 それは光の槍となって、獣化した男たちを貫いていくのだがーー


「数が多い……っ!」


 いくら簡単に用意し、装備したとはいえ、小瓶の液が足りるかどうか、怪しくなってきた。


「きゃあっ!」


 馬車の中から悲鳴が上がる。


「馬車内にまで手を出してくるとは……」


 屋根の上から見下ろせば、中に侵入したであろう獣化した男が吹っ飛ばされ、青年が出てくる。


「車内じゃ、()りにくい」


 物騒な脳内変換をされた気もするが、思いっ切り戦えてもらえるなら、ユイの方から何も言うつもりは無い。


「っ、私もーー」

「お姉さんは出てこないで! 援護するなら、中からお願いします!」


 足手纏いとかではなく、何となく怪我をさせては駄目な気がするのだ。


「け、けど……」

「なら、荷物の管理もお願いします。急発進したりして、中身をぶちまけるならまだしも、こいつらのせいで貴重品を無くすわけには行かないので」

「分かった。けど、二人は……」


 きっと納得は出来ていないのだろうが、自分に出来ることを考えた結果なのだろう。


「近付けさせませんから、ご安心を」

「もう、お逃げください! 貴方がたなら逃げられるのでしょう!?」


 女性への言葉を聞いたのだろう、御者が声を上げる。


「私が囮になりますから……!」

「却下です。ここから歩いて目的地に向かえとか、鬼ですか。どうしても気になるのなら、手綱をしっかり握っていてください」


 逃げるタイミングはこちらで合図しますから、と告げれば、御者から不安そうな目を向けられる。

 十一歳児に向けるような目ではないのだが、そんな目を向けられた以上は、やるしかないではないかーーどうにかすることが出来る能力(ちから)があるのなら、尚更。


「お前ら、いい加減にしてくんない?」


 大量の獣化した男たちが現れた理由なんて、もう、どうでもいい。

 今回は愛用の弓ではないが、あれが無くとも、ユイ自身の能力を発動(・・)する事は出来る。


「もう二度と、追って来れないようにしてやる」


 人差し指を真上に上げ、空を指し示せば、何人かの獣化した者たちが釣られたように空を見上げる。

 そして、そのまま前方の獣化した男に向かって、腕を振り下ろす。


 ーー何が起こったなんて聞かれたら、目の前の光景が答えだとしか言えない。


 前方に居た連中は青年が排除して、馬車が通れるだけの道を作り、獣化した連中が再び塞ごうとする前に、ユイが矢の形をした自身の能力を発動したのだ。

 もちろん、それは前方だけではなく、後方の獣化した連中にも降り注ぎ、彼らを本来の彼らへと戻していく。


「さて、と」


 ひょい、とユイは馬車の屋根から降りる。


「もう、大丈夫だと思いますよ」

「あ、ああ……」


 呆然状態の御者を気にすることなく、ユイは馬車へと乗り込む。


「みんな、何とか無事だったね」


 「私は何も出来なかったけど」と、そう話しかけてくる女性をユイは一瞥すると、カバンを開け、戦闘前に取り出したものを仕舞い込んでいく。


「一つ、聞きたいことがある。お前、何者だ?」

「何者とは?」

「もちろん最後のもそうだが、最初、獣化した連中が居るにも関わらず、少しも戸惑うことなく車外に出て行っただろ。お前ぐらいの年代なら、怯えて当然なはずなのに」


 取り出したものを仕舞い終えたユイは、青年に目を向ける。


「申し訳ありませんが、それは私からお教えすることはできません。それに、お兄さんもお姉さんも、ご自分のことは話したくはないみたいですから、私自身についても話しませんよ。どうしても気になるというのなら、『交渉』しても構わないのですが」

「……」


 あれだけの大立ち回りをしたのだ。ただの子供だと思ってもらっては困るが、後々探し回られても困る。


「まあ、何かお困りだったり、御用が有る際は、ディライト商会をご贔屓に。食品に家財具、武器や防具、装飾品……必要とあれば、遠方への配達や護衛までお引き受けしますよ」


 にっこりと笑みを浮かべ、名刺を渡して営業活動するユイに、特に何かを返すことなく、二人は彼女の名刺を受け取る。


「ディライト商会……」


 女性がぽつりと洩らす。


「貴女の名前にも『ディライト』とあるけど、これは貴女の商会なの?」

「いえ、正確には養父(ちち)の、ですね。私の場合は、養父(ちち)を手伝っているだけですし」

「……そうか」


 きっと、手伝っていると言っているが、現在ユイが一人で居ることを疑問に思っていることだろう。


「まあ、そんなこんなで、今から立ち寄る場所ーーシェルトフォードで待ち合わせしてるんですよ」


 ロイドとの待ち合わせなど嘘ではあるが、本当のことなど知らない二人である。本人たちがどう思っているのかは知らないが、ユイとしては上手く騙されてほしいと思うことしか出来ない。


「けど、シェルトフォードって、今……」


 そう、街は今、先日起こった大火災の後処理に負われているのだろう。


「巻き込まれていないといいね」

「まあ、そうなんですけど……運だけは良いんですよ。あの人は」


 再度出発し始めた馬車に乗りつつ、ユイは外にへと目を向ける。


(あと少し……あと少しで会える)


 胸の前で手を握りしめるユイに、女性は笑みを浮かべ、青年も青年で特に何か告げたりすることもなく、窓の外へと目を向ける。

 そしてーー


「やっぱり、すぐには追い付かないよねぇ」

「けど、目的地は一緒だ。そこに着きさえすれば、絶対に追いつける」


 ユーティウス家を出たユーリとルークは、ユイたちが途中で立ち寄った町に居たのだった。




【おまけ(再出発後の馬車内にて)】

女性「そういえば、これ(短剣)返さないとね」

ユイ「あ、別にそのまま持っていても構いませんよ? そのまま差し上げます」

女性「良いの? 飾りは少ないけど、それなりにするみたいだし……」


 二人して、女性が持つ短剣を見る。


ユイ「まあ、そうなんでしょうけど、私も渡されただけで、いくらするのかまでは私にも分からないので……」

女性「……」

ユイ「……」

女性「……」

ユイ「……」

女性「……やっぱり、返すね」

ユイ「いえ、お気になさらず持っていてください。護身用として」

女性「いや、返すよ。だって、貴女を思って、渡したんだろうし」

ユイ「でも、私が持っていても出番が無さそうなので、無駄になりそうなんですよね。短剣以外にも刀剣、槍、弓、槌とありますから」

女性「……そう?」

ユイ「はい、あれぐらいの装飾なら、貴女が持っていても違和感は無いでしょうし、お譲りします」

女性「…………それじゃあ、貰おうかな」

青年「……(何だ。このやり取り)」



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