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ガーディアンズ・ファンタジア~神々の啓示~  作者: 唯(ただ)の草花とくろうさぎ
第一章
3/23

第二話:襲撃


「旦那様、奥様、ユイ様。夕食の用意が出来ましたので、食堂の方に」

「ああ。もう、そんな時間か」

「楽しいときほど、時間が経つのは早いわねぇ」

「私の分まで、すみません。すぐに片付けますね」


 三人を呼びに来たであろうオブリウスの言葉に、それぞれが返す。


「ユイさん、私たちと一緒に移動しましょうか。オブリウスに案内させても良いんだけど、私ももう少しお話ししたいし」


 珍しく浮き足立つ女性ーー名を、クリスティール・ユーティウスというーーに、オブリウスもどこか懐かしそうに目を細める。


「では、参りましょうか」


 クリスティールに促され、一行は食堂へと移動する。


「そういえば、ユイ様。苦手なものはございましたか? こちらのミスで、聞き忘れていたのですが」

「あ、大丈夫ですよ。それに、私もこちらに泊まるなら、夕食のことについても視野に入れ、自己申告するべきだったんですから」

「だそうだよ。オブリウス。次、気をつければいい」

「それでは、次回生かさせていただきます」


 ふふっ、と四人で笑う。


「さて、ユイさん。ここが我が家の食堂です」

「……っ、」


 扉を開けて、中を見たユイは、目を見開く。


 ーーお嬢様。味の方はどうですか?

 ーーえぇ、とても美味しいわ。いつも、ありがとうね。


(今の……)


 今では慣れてしまったが、時折フラッシュバックする光景。


「……ぃさん? ユイさん? 大丈夫?」

「あ、すみません。思っていたのと、少し違っていたので……」


 クリスティールに話し掛けられ、ユイはそう誤魔化す。

 フラッシュバックの影響で、思わず頭に手を当ててしまったが、目の前にある光景は、紛れもない現実なのだ。

 それに、と目を向けた先に彼女(・・)が居たことも、功を奏したのかもしれない。


「……?」


《フィラン・ユーティウス 職業:ユーティウス家次女・侯爵令嬢/???》


 今更だが、アインの『公爵』といい、『令嬢』などを職業として、考えて良いのだろうか? と思うが、職業欄後者の『???』がユイは気になった。


(それに……やっぱり、この景色には見覚えがある)


 おそらく、失った記憶の一部の影響だとは思うが、何故このタイミングでーー


「ああ、フィラン。紹介するわね。こちら、ユイさん。ロイドさんの娘さんらしいの」

「そうなの?」

「あ、はい。ロイド・ディライトの養女(むすめ)、ユイ・ディライトと申します」


 クリスティールの説明に不思議そうなフィランを余所に、ユイは名乗る。


「ユイさん。こっちは私たちの娘、フィランよ」

「よろしくね、ユイさん」

「よろしくお願いします」


 にっこりと笑みを浮かべるフィランに、クリスティールと似た部分を見つけたことで、やっぱり親子だなと思うユイ。


「それじゃ、我々も席に着こう」


 男性ーー名をアクティウス・ユーティウスというーーに促され、あっさり席に着くユーティウス夫婦。

 ただ、ユイは動けなかった。


(どこに座れば良いんですかねぇ? 執事さぁん)


 普通の、大衆系の食堂ならまだしも、長机のある食堂の対応などは、義父であるロイドからは聞いていないため、困ったユイはオブリウスに目を向ける。


「ユイ様、どうぞこちらに」

「は、はいっ」


 オブリウスが椅子を引いたことで、そこが座るべき場所だと理解する。


「こうして、座っていると、まるで姉妹みたいね」


 フィランが嬉しそうに微笑む。


(あれ? けど、彼女にはーー)


 兄と姉が居たはずだ。

 記憶の断片からの知識だが、では何故、この場にいないのか。


(その理由は、この国が管理する学園か学院に、二人とも通っているからで……)


 本来、学園に通っているはずのフィランが実家に居るのは、病弱なためで。そしてーー


「……ああ、そういうことか」


 記憶の断片からの情報に、ユイは納得した。いや、してしまった。

 病状が安定し、再度学園に通い出すことで、彼女の『物語』は始まる。


「本日はよろしくお願いします。フィラン様」


 姉妹云々が本音だろうと、社交辞令だろうと、ユイには関係ない。

 ユイにしてみれば、フィランは商談相手の家族なのだから。


   ☆★☆   


 さて、ユーティウス親子との夕食を堪能した後、ユイはオブリウスに案内され、部屋へと向かっていた。


「本日はありがとうございました。元々、会う予定していたとはいえ、部屋まで用意してもらって」

「ユイ様が気にする必要はありませんよ。こちらはそれが仕事であり、貴女は我々のお客様なのですから」


 そう言われ、ユイは目を見開いた後、小さく笑みを浮かべるーーのだが、それも一瞬だった。


「ーーッツ、オブリウスさん!」

「ーーッツ!?」


 失礼を承知で、ユイはオブリウスの襟を引っ張る。


「ユイ様……?」


 目を見張るオブリウスに、ユイは進行方向を睨み付ける。


『グルルルル……』

「ここまで追ってくるとか、自警団は何してるんだっつーの」


 だが、壁を破壊し、現れた獣化(けものか)した男に、ユイは舌打ちしたくなった。

 いや、よく見れば、昼間に対峙した奴とは別人らしい。


「オブリウスさん。戦闘経験、ありますか?」

「対人戦が出来なくはありませんが、さすがに、獣化した人相手はありませんね」

「そうですか」


 だったら、無闇に手伝えとは言えない。

 自分でどうにかしないといけないと判断したユイは、旅行用かばん(スーツケース)とは別のカバンから昼間にも使った、やや曲がった棒を取り出す。


(範囲が範囲だ。なるべく早めに仕留めないとーー)


 近接武器が短剣類ぐらいしかない、ユイたち(こちら)が危ない。


「さぁて……私が持つ近接武器って、短剣類しかないんですよ。しかも、メインは弓ですからね」

「まさか、戦う気ですか!?」


 ぎょっとするオブリウスに、ユイは引きつった笑みを向ける。


「ああ、客だから守れなんて、言うつもりはありませんが、私、一通りの武器は扱えますから、せめて、剣ぐらい貸してもらえませんか?」

「それが事実だとしても、無茶ですって!」

「だったら、二人揃って死にますか? 私は嫌ですよ。私にはまだ、やるべき事があるんですから」


 曲がった棒のボタンを押して、弓へと展開する。


『グルルルル……』

「しつこい男は嫌われるぞ」


 光の粒子の矢が獣化した男に当たるが、あまり効果が無いのか、男は遠吠えした後、ユイたちに向かって走り出す。


「っ、これだから、理性を失った奴らは面倒……なんだよ!」


 さっきまでの丁寧な物言いはどこへやら。

 弓をやや曲がった棒へと戻し、短剣を構え、襲いかかってきた獣化した男に繰り出す。


「浅いっ……!」

『キシャアアアア!!!!』


 浅くても痛いものは痛いのか、男は声を上げる。


「やっぱり、根は人か」


 耐えられようが、耐えられ無かろうが、人は痛ければ様々な悲鳴を上げる。


(気配はこいつだけ……それなら、この家の人たちがこの場に来ない限りは、彼らは無事でいられる)


 ユイは、そっと息を吐く。

 体格差は埋められなくとも、ユイに他の手が無いことはない。

 ただ、それは反動が大きいだけで、使おうと思えば使えたのに、使わなかった手だ。


「……」


 ナイフの構えを解く。


「オブリウスさん」

「……何でしょうか」

「無いとは思いますけど、私が亡くなり、もし養父(ちち)が来た場合、『短い間、ありがとう』と伝えてもらえます?」


 だが、オブリウスからの返事は、当然『No』だった。


「何を言ってるんですかっ、貴女はっ! それに、若い貴女が死ぬより、老いぼれである私が先に逝くことの方が良いに決まってるじゃないですか!」

「決まってませんよ。人は、死ぬときには死にますからね」


 だからといって、ユイもそう易々と死ぬつもりはない。


「『執事』なら、ちゃんと家と主人を守らないと」

「そう、ですね……まさか、自分より若い人に諭されるとは思いませんでしたよ」


 お恥ずかしいと言いたげに、オブリウスは頬を掻く。


「必要なのは剣、でしたか?」

「あれば良いなぁというぐらいですね」

「そうですか。ーーでは、皆さん。後のこと、お任せします」


 オブリウスは、そう周囲に響くように告げる。


「なーんだ。もう少し、見てようかと思ったのに」

「確かに。だが、これ以上は……」

「屋敷を壊す訳にはいかないもんねぇ」


 残念そうな声を出したり、同意しながらも迷っていたり、正論を告げる者が姿を現すのだが。


「それにしても、あの矢は君が放ったものだったんだね」

「貴方たち……」


 この屋敷の関係者だったのか、と『もしかして』という可能性から目を逸らしていたユイだが、こうして現れられると、どう反応していいのか、困ってしまう。


「なぁ、オブリウスさん。まさか、お客さんってーー」

「ええ、彼女ですよ」


 オブリウスが一緒な時点で、説明されなくとも分かるようなものだが、一応、確認を取る金髪の少年ーールークに、オブリウスは頷く。


「そんなことはどうでもいい。さっさと対処するぞ。そこの娘も、能力持ちなら力を貸せ」

「言われるまでもありません」


 おそらく、ルークたち『守護者(ガーディアン)』の統率役であろう男に、ユイは獣化した男に目を向ける。


(とはいえ、どうする)


 今居るのは、オブリウスたちが用意した自身の客室へと繋がる廊下だ。

 それなりの広さがあるとはいえ、動ける範囲にも限界はある。


「そもそも、何であいつ、こんな所にいるんだ?」

「その子の手引き、ってことは……無いみたいだね」


 ユイが少しも獣化した男から目を逸らさないため、彼らの中にあった『彼女(ユイ)が手引きした可能性』が低くなったらしい。


「その血は君の?」

「彼のですよ。反撃したら、こちらに掛かっただけです」

「ああ、もしかして、腕にあるあの傷か」


 ルークが「なるほどな」と言いたげに納得する。


「けどまあ、ここまで一人でご苦労様」


 ぽんぽんと黒髪の青年ーーユーリに頭を撫でられるが、ユイとしては微妙な心境である。


「おい、来るぞ」


 ルークの声に、その場に居合わせた面々は、それぞれ構えたり、得物を握り直したりする。


「……一つ確認したいのですが、あの人の獣化を抑えたら、後はお任せしても構いませんか?」

「抑えることなんて、出来るのか?」

「出来なきゃ、言い出したりはしませんよ」

「……分かった。俺は信じてやる」


 ルークが頷くのを確認すると、ユイは「ありがとうございます」と告げ、短剣で指を刃に当てて切った後、仕舞う。


「説教、覚悟しないと」

「え……今から何するつもりなの?」


 ユイの呟きが聞こえたらしいユーリが、ぎょっとする。


(ごめんなさい、お養父(とう)さん。約束、守れそうにありません)


 そう心の中で謝罪し、やや曲がった棒から弓を展開する。


「おおっ」


 後方から驚くような声が聞こえてくるが、ユイは無視する。


(これで駄目なら、本当に最終手段だ)


 光の粒子の矢を(つが)えるユイだが、彼女が放つまでに相手が大人しく待っているはずもなくーー


「っ、やっぱり、こうなるのかよ!」

「というか、こうなることは予想していただろ」


 ルークとユーリが前に出て、獣化した男と対峙すれば、その間にも、ユイは構え、男に(やじり)を向ける。

 指から流れる血が、光の粒子の矢に(にじ)んでいく。


「なぁ、嬢ちゃん。何か矢が変色しているが大丈夫か?」

「問題ありません」


 状況を見守っていた大男がユイに問うが、この程度、彼女にとっては何の問題もない。

 もし、一つ問題があるとすれば、中々狙いが定まらないことだ。


「あれだけ動き回られたら、狙えるもんも狙えなくなるな」


 どうやら、他のメンバーも動けないらしい。

 だが、ユイは腕を下ろさない。いつか、そのタイミングが来るのを分かっているから。


「……」


 ユイが無言で矢を放つ。

 彼らの動きはバラバラだが、速度は一定だから、タイミングを間違えなければ、ユイの矢は寸分の狂いもなく当たることになる。


「ユーリ、ルーク。避けろ!」

「っ、」

「……っつ!?」


 仲間からの声で、矢が迫っていたことに気付いた二人がとっさに回避する。

 それを余所に、ユイは腕を下ろす。

 当たるのを確信し、当たったことを認識したからだ。


『グォォォォオオオオ!!!!』

「マジで当てやがった……」


 矢が当たったのは男の右胸辺りなのだが、ユイの能力の影響か、声を上げる獣化した男に対し、ルークが思ったことをそのまま口にする。


「見ろ、獣化が!」

「解けていく……?」


 そのまま気を失ったのか、男はその場に倒れたままだ。

 その事に一息吐くと、ユイは弓をやや曲がった棒へと戻す。


「おい、娘」

「何でしょう?」


 統率役であろう男に話し掛けられ、ユイは振り返る。


「あ、あのジェイド様。彼女は旦那様と奥様のお客様ですので……」


 慌てて口を挟んできたオブリウスに、ジェイドと呼ばれた統率役であろう男に、ユイは目を向ける。


《ジェイド・アルバート 職業:守護者/守護者統率官》


 そう表示されたステータスに、「ああ、やっぱり」と思うユイ。


「旦那様たちの?」


 怪訝な顔をするジェイドにユイも苦笑する。


「申し遅れました。私はユイ・ディライトと申します。本日は養父(ちち)、ロイド・ディライトの代わりに、こちらへ参りました」

「ああ、あの人の」

「礼儀正しいよね。どこかの誰かさんと違って」

「うるせーよ」


 納得するジェイドに、仲間からからかわれたルークが不機嫌になる。


「さすがに、そのまま帰すと危ないと判断された旦那様たちが、泊まっていくようにと仰られたのです」

「けど、泊まるにしてもなぁ。この状態だと……」


 ユーリの言葉で、目の前に広がる惨状に、何も言えなくなる面々。


「ユイ様。申し訳ありませんが、新たなお部屋を用意いたしますので、それまではお待ちいただけますか?」

「別に構いませんよ」


 オブリウスの言葉にユイは頷くと、部屋の確保に向かう彼を見送る。


「じゃあ、俺は旦那様たちに報告に行ってくる。後は任せたぞ」

「はーい」


 返事をしたのは、おそらく副統率官に位置する人物だろう。

 そう思いながら、ユイは先程まで獣化していた男が居た場所に目を向ける。

 どうやら、いつの間にか男はどこかに連れて行かれたらしい。


「それにしても、本当に君だったとはね」

「そういえば二人とも、その子とは知り合いみたいだったよね。いつ知り合ったの?」

「今日の昼間。買い出しの時に会ったんだよ。今みたいに獣化した奴に絡まれていたけど」


 それは事実だが、ユイは肯定せずに目を逸らす。

 二度も同じ状況に遭遇するとなると、誰かが狙ったんじゃないかと思いたくなる。


「それにしても、ロイドさんもどういうつもりなのかね。この子一人でこの街に来させるとか。迷えって言ってるようなものでしょ」

「そんな状態でよくもまあ、この屋敷に来れたなぁ。嬢ちゃん」


 先程、矢の変色を指摘した大男がユイの頭をぞんざいに撫でる。


「え、ええ、何とか……」


 ぼさぼさになった髪を直しながら、ユイは返す。


「とりあえず、いつまでもここに居るわけには行かないから、場所を移動するよ」

「移動は構いませんが、どこへ?」

「リビングで良いんじゃない? あ、ルークとユーリは絶対に一緒に来なよ」


 その意図を理解したのか、ユーリが苦笑いする。


「了解です」

「うぃーっす」


 ルークも理解しているのかどうかは怪しいが、おそらく呼ばれたから返事しただけだろう。


「それでは、一緒に移動しましょうか。えーっと……ユイさん」

「あ、はい」


 ユーリに促され、どうやら無事だったらしい荷物を手に、ユイは頷く。

 そのまま、みんなでぞろぞろとリビングに向かう。


「そういえば、オブリウスさんが言ってたけど、俺より年下って本当なのか?」

「私には貴方の年齢が分からないので、何とも言えませんが、今の(・・)私は十一ですよ」

「十一ぃっ!?」


 自分で聞いておきながら驚くルークに、ユイは顔を引きつらせていた。

 二度も年齢詐称したのである。こうなったら、バレるまで貫き通すしかない。


今の(・・)、っていうのは?」

「誕生日が半年後なので」

「ああ、そういうこと」


 確かに、誕生日が来れば、年齢(とし)も変わる。


「誕生日が半年後ってことは、ルークとは実質的一歳違いになるわけか」

「まぁ、誕生日が来れば、ですけどね」


 実際は四歳も違うのだが、それは彼らが知らないので仕方がない。

 年齢の話をしていれば、いつの間にかリビングに着いていたらしい。


「じゃあ、とりあえずみんな自由時間ってことで」

「自由時間って言ったって、やること何も無いじゃん」


 副統率官(であろう男)に言われたが、付いてきた守護者の面々には、特にやることもないわけで。


「んー……じゃあ、ユイ嬢」

「はい」

「僕たちと商談でもする?」

「え……」


 副統率官(であろう男)に言われ、ユイは固まる。

 別にユーティウス夫妻以外に商談するなとは言われたわけではないが、ユイにしてみれば、おそらく雇われている状態の彼らに商談をしていいものか、分からないのだ。


「あの、こちらとしては嬉しいのですが、そちらに不都合が無いとは言えませんので……すみません」


 それを聞いた副統率官(であろう男)が困ったような表情を浮かべる。


「どうやら嬢ちゃんは、後で俺たちが怒られたりしないか、心配してくれているみたいだな」

「なるほどね。けど、この待ち時間をどうしようか」


 そう思案する男に、ユイは目を向ける。


《ケイン・レインベルグ 職業:守護者副統率官/???》


 ーーああ、また『???』だ。


 ユイがそう思うのと同時に、やはり彼は副統率官だったらしい。


「……商談ではなく申し訳ないのですが、カードならあります」

「カードかぁ」

「じゃあ、ババ抜き? 大富豪でもやる?」

「ポーカー? 七並べ?」


 ユイがカード(トランプだが)を取り出せば、みんなが何をしようか話し始める。


「嬢ちゃんは何がしたい?」

「あ、それについてはお任せします。一通りは出来るので」

「そうかぁ、凄いなぁ」


 再び頭を撫でられ、頭がぼさぼさになるのだが、もう慣れたものである。

 というか、避けないユイもユイなのだが。


「ブラックジャック? 真剣衰弱?」

「う~ん……」


 中々決まらない。

 下手をしたら、オブリウスが呼びに来るのが先になるのではないのだろうか。


「よぉ。だいぶ落ち着いてきたか?」

「あ、えっと……」

「ルークでいいよ。俺もユイって呼ぶから」

「あ、うん……」


 声を掛けてきて、隣に座ったルークに戸惑いながらも、ユイは頷く。


「ユイはさ。何か戦い慣れてたみたいだけど、何かやってたわけ?」


 その問いに、ユイは固まった。

 ルークがユイに声を掛け始めた時点で、リビングに居る大人たちは聞き耳を立てていたのだが、それに気付いたわけではなく、単に返答に困ったのだ。


「まあ、やってなくはないんですが、ほとんどは養父(ちち)からの『やっておいて損はないから』っていう言葉に騙された感じですね」


 死んだような遠い目をするユイに、「あ、悪い」と思うのと同時に、「あの人。一体、何やらせたの」とロイドに聞いてみたくなるルーク。


「でも、あの戦闘能力と君が使っていた能力(ちから)は別だよね」


 ユーリが隣にやってくる。


「そうそう、あの獣化を解いた件についても聞きたかったんだ。何なの? あれ」

「……そう聞かれましても困りますが、それが私の能力としか言えません」


 自身の両手を見ながら告げるユイに、困惑するユーリたち。


「把握してなかったのか? 獣化を解かせられるっていう能力」

「それは知ってましたよ。だから、さっきも戦ったわけですし」


 もし、別の能力があったとしても、ユイは戦っていただろうが。


「似たようなこと言うけど、やっぱり昼間のあれ(・・)も君がやったんだよね?」

「否定はしません。ただ、被害が大きくなる前にどうにかしたかった、というのが本音ですから」

「まあ。実際に被害が抑えられたんだし、責めるつもりはねぇから気にすんな。(むし)ろ感謝してるんだから」


 ルークの励ましているのかよく分からない言い分に、ユイも苦笑いする。

 そこへ、リビングの扉を開けて、オブリウスが入ってくる。


「ユイ様。少々遅くなりましたが、お部屋のご用意が出来ましたので、移動の方、お願いできますか?」

「あ、はい」


 オブリウスに呼ばれ、ユイが立ち上がる。


「あ、嬢ちゃん。ちょっと待った。忘れ物だ」

「あ、すみません」


 男から渡されたカードを受け取り、ユイは頭を下げる。

 そんなユイを見た後、オブリウスは守護者(ガーディアン)の面々に目を向ける。


「皆様もお疲れでしょうから、どうぞお休みになってください」

「休めって言ったって、実質的に動いたのはそこのお嬢さんとルークとユーリじゃん。僕たち、疲れてもないから、このまま休むとなるとサボることになるけど?」

「……それでは、交代で見回りしてもらってよろしいですか? また同じことがあっても困りますから」


 溜め息を吐いて、肩を竦めたオブリウスに、「了解」とケインは返す。


「それではユイ様。参りましょうか」

「はい、お願いします」


 オブリウスの言葉に頷けば、二人はリビングを出て行く。


「さて、それじゃあ僕たちも仕事しに行くとしようか」

「了解」

「はい」

「分かりましたー」

「りょーかい」


 ケインの声掛けに、リビングに居た守護者たちがそれぞれ返事をし、順に部屋から出て行く。


「これで良かったんですよね?」

「ああ」


 相手からの肯定に、ケインは肩を竦める。


「それじゃあ、僕も仕事しに行ってきますよ」


 相手からの返事は無いが、ケインはそのままリビングを出て行った。



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