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ガーディアンズ・ファンタジア~神々の啓示~  作者: 唯(ただ)の草花とくろうさぎ
第一章
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第二十二話:実力を見てみよう――本番編Ⅱ


 さて、どうしようか――ユイは、頭の中をフル回転させて考える。

 だが、そうしている間にも彼女は圧されており、このままではケインに勝敗を決める一つである『フィールドの外に出したら勝ち』をされかねない。


「……あと少しだけ耐えてね」


 ぽつりと、ディザイアにだけ聞こえるように、ユイは呟くと、目線をぶつかり合う風と刃の二つへと向ける。


「そこに、私の魔力があるのなら」

「……?」

「勝てるチャンスは、まだある」


 ユイの目にゆらりと光が宿ったかと思えば、ケインが放つ魔力の風の一部――未だに形を保っている矢がきらきらと光り出す。


「何だ……?」


 二人の戦いを見ていた人たちだけではなく、訝しげにケインが魔力の風へ目を向ける。

 そして、ユイが投げ刺した短剣も光を帯びる。


「その短剣……やっぱり、何か仕込んでた?」

「この場で使いたくなかったんですが、少しでもダメージ抑えようかと思いまして」


 これについては本当である。あんなのを食らって、ダメージが無いわけがない。

 だからと、ユイは足に力を入れて、その場で踏ん張る。


「まあ、あとは魔力が逆流しないことを祈りますよ」

「ちょっ、何するつもり?」


 ユイがさらっと恐ろしいことを口にしたためか、ケインがぎょっとして聞き返す。


(と言っても、私の魔力はかなり取られてるけど……)


 正直、もう混ざりあってしまったものに関しては、回収を諦めるが、まだ残っているもの――矢に関しては応用できなくもない。


「『我は(こいねが)う』ーー」


 口にしたのは、ユイがいつも術式を使う際に告げる文言。


「『魔力(ちから) 主に戻りて 我 鎮まることを願う』」


 ユイの言葉に反応してか、ケインの能力範囲を逃れたであろう魔力の風が二人を――そして、フィールドを覆うように荒れ狂う。


「っ、一体何――」


 ケインとしては、一体何をしたのかを問いたいのだろうが、それどころではない。


「っ、ユイちゃん!」


 風に遮られ、ユイの姿を捉えられなくなったケインが叫ぶが、彼女からの返事はない。

 一方のユイはと言うと――……


「やっちまった」


 思った以上に、範囲の規模が大きくなったことに軽く反省していた。


「さて、ディザイアさん」

『……』

「ごめんなさい。やり過ぎました」


 相変わらずディザイアからの反応は無いが、角度を少し変えながら、ユイは気にせず話しかける。


「でも、間違った方法だと思っていない。だって、私の魔力は普通とは違うから」


 だから、あの中から感じ取ることが出来たし、こんな無茶もしようとも思った。


「それにまだ、使えないことはない」


 風に向けて、ディザイアを持つ手とは逆の手を伸ばし、粒子となって混ざりあっていない――そこにある、未だに矢の形をなす自身の魔力を一つに纏め、大きな矢の形になるのをイメージする。

 状況などは違えど、いつもやっていることなのだから、そんなに難しいことでもない。


「数は減るけど、無いよりはマシだから」


 それに、この暴走じみたものは自分の責任でもあるだろうから。


「『ユイ・ディライトの名を(もっ)て命ずる――』」


 そして、先ほど言ったことをそのまま告げる。


「『――魔力(ちから) 主に戻りて 我 鎮まることを願う』」


 すると、それぞれの魔力なのだろう。それぞれの主を求め、覆うかのように、そちらへと流れていく。

 それは大きな矢の形になっていたユイの魔力も無関係ではなく、霧散すると、彼女を覆うかのように、包み込む。


「っ、」


 思わず吐き出しそうになるぐらいの吐き気に、ユイはとっさに口を塞ぐ。


(ヤバいヤバいヤバい! これは、マジでヤバい!!)


 魔力酔いである。急激に許容量を越える魔力を吸収したことで、身体が警告反応を示したのである。

 とりあえず、このままでは自分の身も危ないので、吸収しきれず、再度霧散した魔力を矢の形に成形し、その場に待機させる。


(どうしよう、これ……)


 ユイは頭を悩ませるが、それはケインとて同じだった。


(動けない……)


 ユイから魔力の逆流について言われてはいたが、まさか本当にさせてくるとは思わなかった。

 二人を遮るようにしていた風も晴れてきたため、ケインが視線をユイに向ければ、どうやら彼女も同じ状態に陥っているらしい。


(今なら、攻撃は出来る。けど……上の矢が厄介だな)


 動こうと思えば、動けなくはないが、ユイの上にある矢が厄介な位置にあることで、下手に攻撃することが出来ない。

 もし、無理に攻撃しようとすれば、逆にこちらがあの矢で射抜かれかねないからである。


(っ、けど――)


 今回の試合の目的は、ユイの実力確認である。

 いついかなる状態であっても、それなりの対応は求められるし、今はその仲間の対応方法を見る時間である。

 体調が楽になったタイミングで、ケインは駆け出す。


「うわ……回復はや……」


 ぽつりと洩れた言葉。

 きっと、ユイの本音なのだろう。


「本調子じゃないけど、動けないほどじゃないからね」

「……っ、そうですか」


 ケインの剣をディザイアで受け止めるが、状態の重さが違う二人では、そこに込められる力も変わってくる。

 とりあえず距離を空けるべく、ユイはケインに向けて、待機させていたいくつかの矢を放つ。

 だが、ケインにとっては予想通りの流れなので、あっさりと(かわ)しては対処していく。


(さて、どうする)


 ケインが本調子でなくても突っ込んできたのを見るに、それだけ回復したとも言える訳だが、ユイ側にしてみればまだ動けるほど回復したわけでもなく、先程のように受け止めるのだけで精一杯。


(……ああ、悔しいなぁ)


 能力も道具も出し惜しみしないほどの『敵』であれば、全力で対応できたが、実際、彼は味方だし、となればあまり道具は消費したくないし……とユイの中に迷いが生じる。

 負けを認めるのは簡単だ。

 けれど、彼に勝ちたいと思ったのも事実だ。


「追加申請、しておかないと駄目か」


 ぽつりと呟くようにして、ユイの口から出る。

 その言葉はケインに聞こえなかったようで、「何か言った?」と聞き返される。


「ケインさん」

「ん?」

「一回、全力で来てみてください」


 ユイの言葉に、ケインは瞬きをした。

 何を言われたのか、分からないわけではない。

 もし、彼女の言う通りに全力を出して、大怪我を負わせた場合、文句を言われるのはケインなのである。

 責任は取っても、文句まで取るつもりは無い以上、そう簡単に全力を見せるわけにも行かず――……


「それは無理かなぁ」


 断る言葉を口にした。


「私には、全力で来いって行ってませんでしたっけ?」

「もしかしたら、言ったかもしれないけど、こっちは見る係だし、そっちは示す係な訳だ」


 だからね、とケインは告げる。


「君が本気を出せば、こちらもそれなりに本気を出す」


 つまり、ユイが本気で行かない限り、ケインが本気で対応することが無いということだ。


「それに、さっきも言ったと思うけど、そもそも君の――本気の攻撃ぐらい捌けないようじゃ、副統率官なんてやってないんだよ」


 完全に()められている――……ユイが本気を出したところで、勝てるわけがないと言われているようなものである。

 もしかしたら、ユイの本気を出させるための挑発なのかもしれないが……


(今の、挑発なのは間違いないだろうし、そこにあえて乗っかるという手が無いわけでもない)


 けれど、今手にしているのはディザイアである。

 ユイが少しだけやる気を出したとして、その威力を底上げする効果をもつが故に、彼女が加減しないと、相手に大怪我させかねない。

 でも、先程ケインは「ユイの本気を捌けなければ、今の地位にいない」と言っていた。

 で、あれば、ユイが取るべき行動は一つ。


「また、短剣?」


 数分前に一つの角に投げ刺したものと同じものを、別の角に投げ刺せば、それを怪訝そうな顔でケインが見つめる。


「持っている道具全て、可能な限り、使うことにしました」

「それは――……でも、いいの?」

「可能な限りって言ったじゃないですか。まあ、貴重なものには変わらないんですが、こっちが本気出さなきゃ相手してくれないって言ってきたのは、そちらですし」


 だから、こうしました、とユイは告げる。

 対するケインも、言葉の裏を察して、肩を竦める。


(挑発されてるのかなぁ、これは)


 本気を出すことについて渋る様子を見せていた彼女が切り替えたということは、そういう意味もあるのだろう。


「引き出せるといいね。僕の本気」


 口ではそう言うが、ケインはまだ本気を出すつもりはない。

 ユイの手札はある程度把握できたが、そろそろ彼女が仕掛けたあの短剣の能力の確認もしておきたいところである。


(彼女のことだから、意味もなくやるわけがない)


 試されてると分かっていながら、不要な行動をするとも思えない。

 時折、目眩ましとか、何らかの策で不要な行動をあえて取る者もいないわけではないが、今のユイが取るとケインには思えなかった。

 一方、ユイもユイで、自身を落ち着かせるかのように息を吐く。


 ――彼は、『仮想敵』だ。


 自分よりも、少しだけ強い()

 中でも、少し本気にならなければ勝てないような、()


 敵だと認識しないと勝てないようであれば、そう認識すればいい。

 一時的にでも、そう思い込めばいい。

 敵と認識したくないだとか、そんなことを言っている場合ではない。


「ディザイア」


 ユイは相棒に声を掛ける。


「もし、何かあったらごめん」


 どのような展開になるのかなんて分からないはずなのに、ユイは謝罪を口にした。


「だから、もう少しだけこの試合には付き合って」


 ディザイアがきらりと光ったのを見て、ユイは彼を握り直す。


「ケインさん」

「ん?」

「私を止められるといいですね」


 その台詞に、ケインは「必ず止める」とか「止められるに決まってる」などと返せなかった。


「う、おっ……!?」


 何せ、こちらに突っ込んできたかと思えば、すぐさま背後に回り、ディザイアを振り下ろしてきたユイに対処しないといけなかったからである。


(さっきまでよりは明らかに早いし、剣も重い)


 同じように相手していたらやられるのではないのかと思うほど、ユイの動きは先程までと違っていた。

 それに対し、顔を引きつらせるケインを余所に、そのままでは駄目だと判断したのか、ユイが距離を取る。


「……マジか」


 先程と立ち位置が変わったわけだが、ユイは弓も無しにそのまま矢を放つかのような動作に入ったことで、ケインは回避せざるを得なくなった。


「ちょっ、本気出せとは言ったけど、ギア上げすぎじゃない!?」

「今のケインさんは仮想敵なので」


 別に言う必要は無かったのだが、言っておいた方が納得してもらえるかもしれないと考えての事だった。


「仮想敵なのに、これなの?」

()らなきゃ殺られるので」


 仮想敵でもこれぐらいしないと勝てない存在がいることをユイは知っているし、そいつに勝つには目の前のケインを倒せるぐらいでないと意味がない。


「君の本来の『敵』が誰なのか、どんな存在なのかは知らないけど……そっか、僕は君の仮想敵には出来るレベルってことか」


 ユイが『敵』とする存在がどこの誰なのかは知らないが、そんな彼女に『仮想敵』とされたということは、それなりに強い相手と認識されたということなんだろう。


「……貴方を倒せないのに、アレ(・・)を倒せるとは思えないので」


 その言い方で、どうやら名前すら出したくない存在だというのは、ケインにも理解できた。


(まあ、気にならないといえば嘘になるけど……)


 そう思いながらも、ケインはユイの放つ矢を避けていく。


「やっぱり、厄介だな」


 こっちは遠距離系の武器は無いのに、ユイ側には遠距離にも近距離にも――どちらに対しても、対処できるのは厄介でしかなかった。


「考えてる場合ですか?」

「……っ、!?」


 いつの間に入り込んでいたのか、ユイが下からディザイアを斬り上げるが、ケインはとっさに回避する。

 そんなケインに、思わず「マジか」と声が洩れるユイ。


『――馬鹿みたいな反応速度だな』


 ふと聞こえてきた声に、一瞬だけ目を見開くものの、すぐさまいつも通りと言わんばかりの雰囲気にユイは戻る。


「……だからこその、『仮想敵』なんだよ」

『なるほどな。まあ、頑張れよ』


 手伝うということもなく、声の主はそれだけ告げると引っ込んでしまったが、ユイとしてはある意味いつも通りなので、特に気にするようなことではない。

 むしろ、様子を見るためだけでも、出てきてくれたことには感謝である。


「今の、回避できるんですねぇ……」

「まあ、声かけてくれたからね」


 そんなケインの回答に、「じゃあ、どこかのタイミングで、声無しでやっても避けるのか、試すか」とユイは決める。

 もちろん、声無しでなら気付かずに一撃を与えられるかもしれないが、それでももし避けられるのなら、また別の策を考えなくてはならない。


(――まあ、とりあえず……)


 ユイは三つ目の角に短剣を投げ刺す。

 それを見たケインは「また、あの短剣か」と思うものの、そもそも未だにあの短剣の目的がなんなのかが分からないので、対処も出来ずにいる。






「っ、本当、刺しといて良かったわ」


 まるで目印とでも言いたげな短剣に目を向けたユイは、風に目を向ける。


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