第十五話:新たな生活への第一歩
ーー翌日。
「それじゃ、本当に良いんだな?」
「うん、大丈夫」
ロイドの問いに、ユイは頷く。
ユイの手元には、商品となるもの以外のーー彼女自身の手荷物のみ。
「私がそうするって、決めたから」
「そうか」
小さく笑みを浮かべるユイに、ロイドもロイドで安心したかのような笑みを浮かべる。
「じゃあ、もう行くよ。旦那様、奥様、守護者の皆様。ユイをーー娘を、よろしくお願いします」
ユイに返事をした後、ロイドは見送りに来ていたアクティウスたちにそう告げる。
「ああ、もちろんだ。お前からの大切な預かりものだからな」
「貴方が戻ってくるその時まで、きちんととお守りいたしますから、絶対にまた来るんですよ」
そんなクリスティールの言葉に、これから『守護者』になる人を守るって言う言い方はどうなんだ? とその場に居た面々は思いはしたが、もしロイドに何かあれば、またユイは暴走するだろうし、今回の件でその事はよく分かったので、その事に関して特に口には出さずに、笑みを浮かべるだけに留める。
「じゃあ、ユイ。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そう言い合い、ユイは少しずつ遠ざかるロイドの背中を見つめる。
アクティウスたちはその場から離れたが、気を利かせてか、オブリウスがいつもより少しだけ遅く扉を閉めていく。
「よし、それじゃ、僕たちも行きますか」
「あ、すみません……待たせてしまったみたいで」
「別に気にするなって」
ユイによるロイドの見送りが終わるまで待っていたユーリとルークが笑みを浮かべながら、彼女の手を引き、その背を押す。
「え? え、あの?」
「今日はもう初日扱いだから、守護者の先輩たちに挨拶に行く! これ、ここの決まり」
「ちなみに、旦那様たちへの挨拶は明日すること。これも決まりね」
「……先輩たちに挨拶した日の翌日に、旦那様たちに挨拶する」
二人の言ったことを復唱すれば、それで良いとばかりに、二人が頷く。
「でも、何で旦那様たちへのご挨拶が次の日なんですか? 雇い主であるなら、先に挨拶しておいた方が良い気もするんですが……」
「あー、その点はよく分かんないんだよな。俺が来たときにはもう、そういう決まりだったし」
ルークの言葉を受け、ユーリにも目を向ければ、「僕の時もそうだったから、ちょっと理由までは分からないかな」と返される。
「決まりなら、仕方ないですね」
「街の人たちには、外に出たときに挨拶をする。まあ、顔見せも兼ねて出歩いても良いが……」
「先輩たちへの挨拶を優先にします」
そう言うと思った、とばかりにルークは肩を竦める。
ロイドと完全に離れたことで、てっきり落ち込んだりするかとも思っていたが、どうやらその心配は必要なかったらしい。
そして、ルークとユーリの案内による、ユイの先輩守護者たちに対する挨拶回りは開始されたのである。
そしてーー……
「さぁて……みんな元気にしてるかなぁ?」
街を繋ぐ列車の中、いくつかの影が駅に降り立とうとしていた。
「新人も居るって言ってたから、楽しみね」
「どんな子かな」
「可愛い子だといいなぁ」
「お前にしてみれば、女の子はみんな可愛い子だろうが。男だと知って落ち込むのがオチなんだから、今回もあまり期待しないでおけよ」
先に伝わっていた情報だけを頼りに、面々は話す。
「とりあえず、避けられないようにしないとねぇ」
その言葉に対して、全員目を逸らし、黙り込む。
「まあ……どんな奴でも後輩には変わりないんだから、守護者の先輩として、サポートしてやらないとな」
そう意気込む面々が足を進めていくのだがーー……彼らの到来により、屋敷に嵐がやってこようとしていた。




