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ガーディアンズ・ファンタジア~神々の啓示~  作者: 唯(ただ)の草花とくろうさぎ
第一章
12/23

第十一話:戻ってきました


「お帰りなさいませ、皆様」


 ユーティウス家の玄関口で出迎えたオブリウスに、先に馬車から降りたルークとユーリはそっと息を吐いた。


「……」

「……」


 ユーティウス家に戻るまでの道中の馬車内では、まさにお通夜のような空気が漂っていた。

 というのも、ユイは隣に座るロイドに対して縮こまっているし、ロイドはロイドで何も話さないし、同乗しているルークとユーリがその気まずさ故に口を閉ざしているからだ。


 だからこそ、ユーティウス家に着いたときの、ルークとユーリの安堵感は凄かった。


「お久しぶりです。オブリウスさん」

「これはこれはロイド様。お久しぶりでございます」


 そう挨拶を交わすロイドとオブリウスに、ユイは気まずそうな顔をする。

 あんな立ち去り方をしたものだから、気まずくて当たり前である。


「ユイ様も、ご無事で何よりです」

「……ご心配をお掛けしました」


 オブリウスの言葉に、それが社交辞令的なものであることを理解しながらも、ユイは頭を下げる。心配も迷惑を掛けたのも事実なのだから。


「それで、旦那様たちはご在宅ですか?」

「ええ。皆様、今か今かとお待ちしております」


 オブリウスに案内されながら、四人はアクティウスたちの元へと向かう。


「ああ、そうだ。ユイ」

「何ですか?」


 ルークに話し掛けられて、ユイは目を向ける。


「統率役から話があると思うから」


 守護者(ガーディアン)たちの統率官ーージェイドからの話とは、何なのだろうか、と思うのと同時に、嬉しくない話だろうな、とユイは思う。


「まあ、無茶ぶりではないと思うから、そんなに不安そうな顔をしなくても良いと思うよ」


 ユーリがそう言うが、そんなに不安そうな顔をしていたのだろうか、とユイは思う。

 その話が終わるのと同時に、アクティウスたちが待っているであろう場所へと着く。


「旦那様。皆様がお帰りになられました」

「そのようだな」


 ユイたちを見て頷くアクティウスに、ルークとユーリは頭を下げる。


「勝手な行動をしてしまい、申し訳ありません」

「いや、ジェイドから話は聞いていたから、問題ない。そして、ロイド殿、ユイ殿。ご無事で何よりだ」

「ご心配とご迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳ありませんでした」


 ルークたちの謝罪の後にロイドも頭を下げ、ユイも彼の後ろで軽く頭を下げる。


「いや、気にするな」

「それにしても、貴方が本当にご無事で良かったわ。貴方が巻き込まれたんじゃないかと聞いて、ユイさんがかなり取り乱していたから」

「ええ、知ってます。この二人からも聞きましたから」


 クリスティールの言葉に、自分も最初そう聞いたときは信じられなかったんですがね、とロイドが改めて確認するかのようにユイに目を向ける。


「あ、いや、だって……」


 何と言えばいいのか分からず、ユイは視線を泳がせる。

 一度思いっきり照れたためか、そんなに恥ずかしさはないものの、心配していたのは事実だし、かといって本当のことは言いづらい。


「実際、記憶が怪しかったじゃん」

「まあなぁ」


 そのことについては、ロイドも否定しないが、ユイの何となく居たたまれない空気を変えたいというのも分かる。


「どうやら、思ってた以上に心配させたみたいだな」


 悪かった、とロイドはユイの頭を撫でるが、ユイはユイで恥ずかしさから視線を逸らす。

 そんな二人に、ユーティウス家の面々は微笑ましそうにする。


「ささ、立ち話も何ですから、お座りください」


 アクティウスに促され、それぞれが席に着く。


「それにしても、ロイド殿。ユイ殿は本当に良い義娘(むすめ)さんですね」

「そうですね」

「貴方の代役を見事に務めていたんですから」


 アクティウスの言葉に、ロイドはユイに目を向ける。


「クリスティールが大層気に入ったようでね。誰かと婚約してみないかと冗談混じりに言ってみたところ、上手いこと逸らされてしまった」

「そうですね……まあ、何をどう言われようと、こちらとしてもまだ、この子を上げるつもりはありませんから」


 アクティウスの言葉にロイドがそう返せば、アクティウスはアクティウスで数回(まばたき)きを繰り返す。


「あらあら、今からこれではユイさんがお嫁に行くときは大変そうだわね」

「……その前にお養父(とう)さんの結婚が先です。私が嫁入りするまで独り身で居てほしくないので」


 どこか楽しそうに告げるクリスティールに、ユイが大真面目に返す。


「……だそうだが、相手は居るのか?」

「居ませんよ」

(むし)ろ、誰か紹介していただけませんか?」


 矛先がロイドに向いたからか、ここぞとばかりにユイがアクティウスたちに尋ねる。


「ユイ」

「私、お養父とうさんだけとか嫌だからね」


 暗に母親も欲しいと言われ、ロイドは肩を竦める。


「ユイさんはどのような方が良いとか、希望はあるのですか?」

「とにかく、仲良くしてもらえれば、文句はありません」


 他にも希望はあるが、一番の希望はそれに限る。

 家庭内がギスギスするのだけは嫌だから。


「それじゃ、好きな子とかはいないの?」

「特には。こんな職業ですし」


 ロイド同様、商人に片足を突っ込んでいる状態のユイとしては、好意を持ち、自分のすることに文句さえ言われなければ、文句は言わないつもりだ。

 そんなユイの返答に、クリスティールは困惑する。


「そういえば、ジェイドがユイ殿を欲しがっていたぞ」

「はい……?」

「いや、そういう意味ではなく、守護者(ガーディアン)としての意味だ」


 凄むロイドに、アクティウスが慌ててそう付け加える。


「どうやら、ユイ殿の能力が珍しかったようでな」


 それを聞いたロイドが、頭を抱える。


「ユイ……」

「何?」

「やらかしたな」

「不可抗力。シェルトフォードの時みたいに、向こうから来られたんだから、対処するしかないでしょ。それとも、お養父(とう)さんの努力とかを水の泡にして良かったと?」

「それぐらいで無くなるような信頼関係を結んだ覚えはないし、大体そんなところにお前を行かせるわけがないだろ」

「行かせてなくても、行ったことはあります。そもそもそこで戦闘行為に発展したじゃない。こっちが勝ったから良かったものを、負けてたらどうなっていたと……」


 視線のみを向けるだけで、ぐちぐちと始まったディライト義親子(おやこ)の言い合いに、ユーティウス家の面々は驚きを(あらわ)にする。


「大体ーー」

「あの、二人とも……」

「もうそこまでにした方が……」


 まだ続きそうな気配を察してか、ルークとユーリが止めに入る。


「いろいろ言いたいことがあるのは分かったから、それは家か部屋に行ってからやってくれ!」


 ようやく届いたらしい、叫ぶようにして放たれたその言葉に、二人の言い合いも止まるが、ユイが不機嫌そうな顔をしたまま黙り混む。

 ーーが、次のアクティウスの一言で、空気は変わる。


「さて、ユイ殿。申し訳ないが、少し席を外してもらって良いかな。ロイド殿と少し話したいことがあるのでな」

「分かりました」


 再会してそんなに経っていないだろうに、あっさりとした許可がユイから下りたことで、アクティウスは「また後で会えるのでな」と付け加える。


「その間はーー」

「ルークたちに任せておけば良いんじゃない? どうせ長引きそうな話をするみたいだし、その間に街を見に行かせてもいいし」


 クリスティールが横から告げる。


「え、でもーー」

「どうせ、やることなんていつもと変わらないんだし、そこにユイさんを案内することが増えるだけでしょ?」


 クリスティールに言われ、顔を見合わせるルークとユーリだが、当の本人であるユイは気にした素振(そぶ)りすらない。


「それは、そうですけど……」

「……」

「……」


 ユーリが何とか返事をするが、やはりユイは何の反応も見せないし、ルークたちは困惑しっぱなしである。


「貴方たちが嫌だったら、他の人たちに任せても良いのよ?」


 守護者(ガーディアン)たちは、みんながみんなそれなりの実力者だから、もし何があっても対処できる。

 クリスティールがルークとユーリに話を向けたのは、二人の方が年齢(とし)が近いし、守護者たちの中で接している率が高いからだ。


「いえ、引き受けますよ」

「時間的にも、この後は仕事ですからね」


 つまり、自分たちがユイと一緒に居ると言いたいのだろう。


「それでは、ロイドさん。ユイさんのことは僕たちにお任せしてもらってよろしいですか?」

「まあ、二人なら問題ないだろうが……」


 ユーリの言葉に、ロイドはユイに目を向ける。


「どうせ出ていかないといけないなら、ゆっくりしてくるから気にしなくて良いよ」


 さすがにいくらか冷静になったらしいが、ユイが地味に根に持つタイプであることはロイドも分かっている。


「お前のことだから、そんなに迷惑を掛けないとは思うが、今は好きなだけ見て回ってこい」

「……ん」


 そんなユイの返事に、オブリウスが「それでは、まずはお荷物の方をお部屋へ移動させましょうか」と告げる。


「ああ、そうだ。変な約束だけはしないでよ」


 まるで何を話すか分かっているかのような口ぶりに、ロイドではなくユーティウス夫妻の顔が引きつる。

 ロイドに向けられて言ったであろうに、何故自分たちにも言われているような気がするのだろうか。


「しないよ。ちゃんと相談する」

「……なら、いい」


 ディライト家の人間はロイドだけではない。ユイも居るのだ。話し合うべきことは、きちんと話し合うべきである。


「ーーそれじゃあ、行ってきます」

「ああ、行ってこい」


 ロイド(たち)に見送られながら、ユイはその場を後にした。



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