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ガーディアンズ・ファンタジア~神々の啓示~  作者: 唯(ただ)の草花とくろうさぎ
第一章
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第十話:シェルトフォードにてーー聖魔剣、抜剣


 ユイが参戦するとなれば、あの二人は再度休めだの戻れだの言うだろうが、彼女も彼女でロイドに「大丈夫」と言って出てきた手前、そう簡単に引き返せないーーいや、元より引き返すつもりもない。


「さて」


 未だに目の前でドンパチされているわけだが、消耗の激しい武器を使用している上に、だらだらとこれ以上引き伸ばすのも嫌になってくる。


「『聖魔剣(せいまけん)・ディザイア』ーー抜剣(ばっけん)


 ユイの眼が紅く染まる。

 ぶわりと周辺に魔力が広がったことで、ルークたちだけではなく、あの魔獣にも気付かれただろうが、どうせそちらに用があるのだから気にすることでもない。


『グルゥア……セイ、マ、ケ……』

「あー、やっぱ知ってるし、大分(だいぶ)話せるようになっちゃったか」


 最初は聞き間違いかと思っていたのだが、今見た通りに話してくれたし、お陰で奴を殺さないといけなくなってしまった。

 どこの誰だか知らないが、本当、余計なことをしてくれたものだ。


「悪いけど、もう希望も何もないから、()るしかないよね」


 誰に言ったかなど、問うまででもない。

 このまま魔獣(やつ)に『進化(・・)』でもされたら、それこそ手が付けられない。


「ユイ、お前ーー」

「その話は後にして良い? こいつが人の言葉を話せば話すほどマズいから」


 ルークが何を言いたいのか、ユイは理解しているつもりだ。だからこそ、後回しにしたし、厄介になることを暗に告げた。


(それにしても、早いな。私と遭遇して、そんなに経ってないだろうに)


 けどまあ、そんなことはどうでも良い。

 ユイには、『倒す』という手段しか無いのだから。


 だが、そんな考えも、自らに迫る爪で(いや)が応にも途切れさせられる。

 ユイの方も手にしていたディザイアでその腕を振り払い、すぐさま魔獣の首を狙うが、本能なのか、後ろに首を逸らすことで回避される。


「ですよね。でもーー」


 そんな魔獣の行動を予測済みとばかりに、奴の頭部に向かって蹴りを入れたことで、魔獣が一気に吹っ飛ばされる。


「おー、結構飛んだなぁ」


 ディザイアの能力を借りた上での威力とはいえ、あれだけ吹っ飛ばされたのを見ると、いくら自分がやったこととはいえ、ユイとしてはいろいろと複雑である。


「ディザイアさん、ちょいと威力を上げ過ぎゃないかね?」


 ユイはちらりとディザイアに目を向け、そう告げる。

 久々の活躍で張り切っているのは分かるが、やり過ぎは良くない。


「いや、能力強化はありがたいんだけど……」


 (はた)から見ると、ユイが独り言を言っているように見えるか、頭のおかしい子に見えるのだろうが、相手は意志を持つ武器である。言葉にしなくても、ああしたい、こうしたいという意志は伝わってくるので、その返答として示すために、ユイは話し掛けるだけに(とど)めている。


『セイ、マ、ケン……』

「そんなに時間が経ってないだろうに、どうして知っているのかなんて知らないけどさ」


 何とも言えない複雑な感情を目に浮かべながらも、ディザイアを見て『聖魔剣(セイマケン)』と口にする魔獣に、ユイは告げる。


ディザイア(こいつ)はやらねーよ?」


 現所持者であるユイが死なない限り、ディザイアが次の契約者兼所持者に渡る事はない。

 そして、ユイ自身もディザイアを誰かにやるつもりはない。


「それと、今のお前がこいつを持った時点で、お前の身は()たないし、扱うことも不可能だ」


 『聖魔剣(せいまけん)』とは言っているが、『聖』と『魔』を持ち合わせているだけで、どちら寄りの能力なのかを問われれば、能力的には『聖』に近い。だから、魔獣が『聖魔剣(ディザイア)』を持った時点で、『魔』の力を持つ魔獣の身は失われる可能性の方が高くなる。

 もし、失われない可能性に賭けたとしても、ディザイア使用時には毎回消耗するから、それで命を落とす可能性もある。つまり、何が言いたいのかと言えばーー


「お前が手にしようがしまいが、お前はこいつで身を滅ぼすって事だけだ」


 『そーいうこと』と同意するような意志をディザイアから感じるが、悲しいかな。ディザイアの意志(こえ)は、ユイ以外に届かない。

 そんな説明をしつつも、ユイは魔獣を捌くことに手は抜かないし、ルークたちもユイの説明に耳は傾けながらも魔獣に攻撃は加えている。


「ユイさん、伏せてください!」


 ユーリの声にユイがしゃがみこみ、その上を砲撃形態の槍から放たれた光線が魔獣に向かっていく。


「やっぱり、この威力では足りないか」


 先程と同様に砲撃に耐えた魔獣に、ユーリが顔を顰める。

 だが、その表情をしたのもほとんど一瞬だった。


「いえ、問題ありません。もう、これだけ満身創痍なら、十分(じゅうぶん)倒せます」


 ユイとルークの二人による、近距離からの攻撃により、ユーリの二度目の砲撃にも立っていた魔獣の身体は三分割にされる。


『グワァァァァアアアア!!!!』


 そんな声を上げ、魔獣は息絶える。

 そして、それぞれの刃に付いた血を払い、解除して納剣すれば、ユイはその場に倒れ、ルークはその場に座り込む。槍を解除し、そんな二人に近付こうとしたユーリも膝から崩れ落ちる。


「おお……やっぱ、今回は使いすぎたか」

「だな。とりあえず、報告と……うわぁ、面倒」


 ルークとユーリがそう話す一方で、ユイは仰向けになって、空を見上げる。


「うわぁ……やっぱ、反動きつ……」


 こうなる度にシンクロ率上げないとなぁ、とは思いながらも、ディザイアを出すまでもなく終わらせられるのだから、どうするべきか悩み所である。


「ユイ」


 名前を呼ばれ、ユイは視線をそちらに向ける。


「私、頑張ったよ。お養父(とう)さん」

「まあ、そうだね」


 心配していた様子も、怒っている様子も無いようだが、その場にしゃがみこみ、ユイの(ひたい)に手を当て、そこから頭を撫でる。


「けど、無茶し過ぎ。僕は前にも言ったよね(・・・・・・・・)? 自分の身にも少しは気を付けろと」

「…………うん、言ってた。でもさ。お養父(とう)さん、帰ってきたから、会えたから」


 涙は流れないが、ユイのよく知るロイドが目の前に居る。


「私としては、魔獣も退治出来て、大成功だし」

「……ユイ」


 ぽつりと名前を呼ばれたかと思えば、ロイドはユイの額に向かって、デコピンを放つ。


(いた)っ!」

「調子に乗らない。そもそも、彼らが来てくれた上に、ディザイアがあったから良かったものの、下手したら死んでいたかもしれないんだから」

「わー、結局お説教ー!」


 そう言いながらも、嫌そうな表情(かお)をしていない辺り、ユイとしてはロイドとのこういうやり取りも嬉しいのだろう。


「けど、ロイドさんが本当に無事で良かったな。ユイ」


 いくらか回復したらしいルークとユーリが、足を引きずりながらもやって来る。


「そういえば、何でここに来たの? ユーティウス家の方は任せておいたはずだけど」


 今更だけど、とロイドが尋ねる。


「ロイドさんが大火災に巻き込まれたって聞いて、ユイさん飛び出して行っちゃったんだよ」

「それでも、すぐに向かわずに我慢していた時間はあったから、あんまり責めないでやってくれ。かなり心配していたから」

「……」


 それを聞いたロイドはユイに目を向けるが、肝心の彼女は、ルークたちに暴露されたことが恥ずかしかったのか、彼らに背を向けて丸くなっている。


「ロイドさん、良ければユーティウス家に来てもらえますか? ユイさんから貴方がここに居ると聞いて以降、屋敷のみんなも心配していたので」

「……ったく」


 ユイから視線を外し、頭を掻きながらも息を吐く。


「ほら、丸まってないで早く起きろ。ユーティウス家に向かうから、準備するぞ」


 そう言うロイドに、ユイが顔をゆっくりと上げ、上半身を起こす。


「おう、準備してこい」

「この場の後始末は僕たちがしておきますから」


 ルークたちの言葉に、ユイは申し訳なさそうにするが、彼らに「早く行け」と言われてしまってはユイも従うざるを得ない。


「では、お願いします」


 頭を下げ、ロイドとこの場を離れていくユイを見つつ、ルークとユーリは息を吐く。


「ありゃあ、今回のことを報告したら、統率役が何としても確保しに行きそうだよな」

「言うな」


 ユーリも考えなかった訳ではないが、一度ユイの能力をその目で見た上に、ユーティウス家を守るために役立つ能力者であるなら、統率役ーージェイドのことだ。ユイを守護者(ガーディアン)にしようとするだろう。しかも、珍しい『聖魔剣』の契約者兼所持者となれば尚更。


「『聖魔剣』については黙っておくか? ユイがうっかり使ったとしても、この時には見てなかったで通せば良いし」

「けど、統率役。怒ると怖いだろ。バレたときのことを想像してみろ」

「それこそ、言うなよ」


 二人して溜め息を吐く。

 ユイたちには悪いが、ここは正直に報告して、みんなできちんと話し合ってもらうしかない。


「とりあえず、僕たちのやるべきことはやろう」

「そうだな」


 今更になって登場した騎士か警備員らしき者たちに、二人は苛立たなかった訳ではないが、後始末を引き受けた以上は最後までやるつもりだ。

 そしてーー……





「そうか。もう行くのか」

「はい。お世話になりました」

「いや、記憶が戻って良かったよ」


 ロイドがシェルトフォードでお世話になった人たちに挨拶回りしている間、ユイはルークたちから後始末時の話を聞いていた。


「ふーん」

「あんまり驚かないね」


 特に何の反応も示さないユイに、ユーリは苦笑する。

 予想済みだったのか、自分に関係ないと思っているのか。ユイと付き合いの短いユーリには判断できない。


「つか、お前の方が、俺たちよりも怒って良いんだからな?」


 何の助けも無いまま、ルークたちが来るまで、たった一人で戦い続けていたのだから。


「そりゃあ、放置しっぱなしなのはイラッとしましたが、お二人が助けてくれたじゃないですか」


 いくらユーティウス家から彼女を連れ戻すために追い掛けて来ただけとはいえ、本来ならユーティウス家とはほとんど関係ないユイを助ける必要は無かったのだ。


「遅くなりましたが、ありがとうございました」

「……」

「……」


 頭を下げるユイに、二人は目を見開く。


「ユーリ」

「何だ?」

「俺、『ありがとう』なんて、久々に言われたわ」

「僕もだ」


 ロイドに呼ばれ、そちらへ向かうユイを二人は見つめる。

 一体、いつぶりに『ありがとう』なんて、言われたのだろうか。

 守護者(ガーディアン)となった最初の頃ならともかく、慣れた今ではその一言を言ってもらえることも少なくなっていた。

 もちろん、街の人たちが感謝の意を忘れているとか言うわけではなく、買い物などに行けば、いくらかおまけしてもらえるが、それは『いつもご苦労様』の意だ。


「二人とも」


 何やら話しているらしいユイと挨拶相手(といっても医療従事者の彼だが)を余所に、ロイドがやって来る。


「ありがとうね。あの子、すぐに無茶しようとするから、助かった」


 今回はロイドが近くに居たものの、彼が記憶喪失なのを良いことに、逃げずに魔獣と対峙していた上、使用制限された能力を使っていた。

 今回ばかりは彼女を心配させたこともあり、怒るのを控えたロイドだが、やはり親代わりとしてはユイが女の子であるために、無理・無茶な行動は控えてほしい所ではある。

 ーーそれでも止めないのがユイという人間なのだが。


「どうかしましたか?」

「いや、何でもないよ」


 そうこうしているうちにユイが三人の元へと寄ってくるのだが、三人の様子に首を傾げている。


「それじゃあ、向かいますか。ーーユーティウス家へ」


 ロイドの言葉により、一行は馬車乗り場へと向かうのだった。




今回はいくつか候補があったために、サブタイ迷いました。


次回はユーティウス家に戻ります。



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