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ガーディアンズ・ファンタジア~神々の啓示~  作者: 唯(ただ)の草花とくろうさぎ
始まりは
1/23

プロローグ


 ザーザーと音を立てて、雨が降りしきる。


 ーー何で自分はこんな所にいるんだろう。


 そう、少女は自問自答した。

 少女が纏うその服は、身の丈に合っておらず、ぶかぶかとしており、例えて言うのならーー大きかった『何か』が小さくなった、と言うべきなのだろう。

 そんな少女の肩には大きなカバンが掛けられており、背の低い彼女は、ずるずると引きずっていた。

 少女の瞳は何も映していなかったーーいや、映さなくなった。水溜まりで己を見て、周囲を見て、判断したのだ。


 ーーああ、そうか。


 と。少女の中にあるこの姿に(小さく)なる前の記憶は酷く曖昧で、無理して思い出さない方がいいと、彼女はすぐに理解した。

 それだけではない。

 少女が覚えていたのは、十七歳という実年齢(・・・)と、今いる場所が自分の良く知る場所じゃないこと。そして、名前。

 時折、雨の中を走っていく者もおり、少女はそれを淡々と見ていた。


「ん?」


 だが、そこで一人の男が少女に気づく。


「君、一人なのか? 両親は? 一緒じゃないのか?」


 少女は、両親は、という問いに首を横に振り、一緒じゃないのか、という問いに、首を縦に振った。


「とはいえ、勝手に連れて行くわけにもいかないしなぁ」


 困ったように唸る男に、少女はじっと見つめる。


《ロイド・ディライト 職業:商人》


 男の近くに表示された『ステータスのようなもの』に、それを見た少女は自分の目を疑ったが、そんなことよりも彼女の中にあったのはーー


(私は、この人のことを知っている(・・・・・)


 初対面のはずなのに、少女は男ーーロイドのことを知っていた(・・・・・)

 知識から言えば、信頼しても問題はない。

 だが、人間というのは本性を隠すのが上手いので、その知識を鵜呑みにするわけにはいかない。


「うーん……」


 こんな大雨の中、人の目の前で迷わないでほしい。


「……ここから、連れてって、くれるの?」


 少女は、半分期待の眼差しを向けながら問う。


「……うん。やっぱり、このままだと風邪を引くし、自警団に届け出とけば大丈夫だよな」


 決意したように頷くロイドに、少女は溜め息を吐きたくなったが、助けてくれなくなる可能性もあったため、何とか耐えた。


「ほら」


 差し出されたロイドの手に、少女は戸惑いながらも手を重ねた。


   ☆★☆   


 数年後。


 石畳の上を、地図が書かれた紙を左手に、やや大きめのバッグと旅行用かばん(スーツケース)を右手に持ちながら歩いていく。


「ったく、何で一人で行かせるかなぁ」


 そう愚痴りながらも、地図にある店名と建物の看板を確認しつつ、ユイは一人歩いていく。

 実はこのユイ、数年前に商人の男に助けられた少女でもある。


「にしても、よくもまあ、得てきたよなぁ」


 この地に来るまで、ずっと思い、何度も言ってきたことだが、やっぱり不思議でしかない。


「つか、目的地に着かないって……」


 方向音痴ではないから大丈夫だと思っていたのだが。


「だーいーたーい、買い物ぐらい俺だって出来るっつーの!」

「そうは言うが、お前、途中で買う物忘れるし、自分の欲しいもの、買おうとするだろうが」

「それの何が悪いんだよ」


 そう言い合いながら、金髪の少年と黒髪の青年がユイの横を通り過ぎていくのだがーー


「ん?」

「何?」

「うん?」


 先に気づいたのは少年と青年であり、数秒遅れてユイも気づいた。


「アヒァッアヒァッ! ヒァッハー!!」

「チッ、こんな時と場所で現れやがったか!」


 何かが爆発したかのような音がした後、立ち込める煙の登る方向から来た存在ーー目を赤く光らせた、狂ったかのように奇妙な声を上げる男に、少年が舌打ちし、青年は顔を顰めた。


「……避難誘導してくる。こっちが完了するまで、お前は奴の相手をしてこい」

「ああ!」


 即座に役割分担をした二人を、ユイは何の感情も浮かべずに見ていた。


「少しの間、俺と遊んでくれよ?」


 にっと笑みを浮かべた少年はそう告げると、身軽であることを教えるかのように、器用に相手の周囲を舞いながら、上手く翻弄し始める。


「まさか、この程度じゃねぇよなぁ?」


 先程までのテンションはどこへやら、静かになった相手に対し、ニヤリと笑みを浮かべる金髪の少年。


「随分と余裕だなぁ」


 ユイはぽつりと呟くと、目をやや細める。


《ルーク・ヴェルド 職業:守護者》


「……守護者(ガーディアン)、ね」


 続いて、ユイが目を向けたのは、黒髪の青年。


《ユーリ・ランドロス 職業:守護者》


「あの二人、同業者だったのか」


 一人納得するユイだが、目を向ける度に情報を与えてくるため、ユイ自身が耐えきれず、ロイドに引き取られてから、この能力(ちから)をコントロールしきるのに、一年近く掛かっていた。

 ユイにしてみれば、正直、二人の職業などどうでもいいのだが、狂ったかのような男は無視できない。


(少しだけ手助けしてやるか)


 一度旅行用かばん(スーツケース)から手を離し、手を下げたまま、小さく指を鳴らす。


「後はまあ、頑張れ」


 そう言って、誘導している青年ーーユーリの方に向かおうとしたときだった。


「ーーッツ!!」

「っ、」


 吹っ飛ばされてきたのか、金髪の少年ーールークがユイの目の前に飛んでくる。

 さすがに、そのことには驚いたユイだが、ハッと彼が来た方を見てみれば、狂ったかのような男がこちらに向かってきていた。


「ちょっ、君!」


 慌ててルークに声を掛けるが、返事が返ってこないことから、それなりにダメージがあったらしい。


「ああもう!」


 ユイが叫ぶ。

 ルークの代わりに戦うことは可能だが、来て早々悪目立ちだけはしたくないという思いが、ユイを動かさなかった。


「ヒヒッ」


 どうやら男は、ルークだけではなく、ユイの姿も捉えたらしい。


「っ、マズーー」


 男が手にしていたナイフを振り下ろそうとするが、ユイに届くことはなかった。

 ユーリが男を蹴り飛ばし、ルークがユイを突き飛ばすような勢いで、抱きしめるように助けたからである。


「……全く。俺、避難誘導が終わるまではこいつの相手してろ、って言ったよな?」

「すまん。正直、油断した」


 そう話す二人だが、服を引っ張られ、ルークがそちらを向く。


「そろそろ、放してもらっていいですか?」

「あ、ああ……」


 ユイの言葉に、ルークは彼女を解放する。

 ただ、角度のせいで上目遣いみたいになったからなのか、ルークはやや照れていた。


「ヒャッヒャッヒャッ」


 その声に反応して、三人はそちらを見る。


「ルゥジュ~」

「え?」


 ユイを見ながら誰かの名前を呼ぶ男に、ユイは思わず声を洩らし、ルークとユーリはユイを見る。


「何でだよォ。何で……」


 顔を伏せたかと思ったら、バッと顔を上げーー


「俺を捨てたァァァァアアアア!!!!」


 そう叫びながら、ユイに切りかかる。


「悪いが……今のお前に、この子は渡せない」


 ルークがユイを背後に回して場所を入れ替わり、ユーリがさらに前に出てそう告げる。


「お前、あいつと知り合い……なわけないか」

「知りませんよ。ついさっき、この街に着いたばかりですから」


 ルークの確認するような問いに、ユイはそう返す。


「それに、『ルージュ』なんて名前でもありませんし」


 男のデータを読み取ろうと目を細めるユイだが、ほとんどが文字化けして解読不可能だった。


「嘘ダァァァァ! ルゥジュゥゥゥゥ!!!!」


 男は叫ぶ。


「そもそも、その『ルージュ』って人、私と似たような見た目の人なら、マズくないですか?」


 ユイの見た目は十代前半、対する男は二十代後半から三十代前半ぐらいである。


「人の好みに文句を言うつもりはないですけど、公の場で言うのはどうなんですかね」

「あー、うん。そうだね……」


 ユイの言葉に、ユーリは苦笑する。


「まあ、似てるだけで見間違えてる可能性もあるがな」

「そうだといいんですけどね。……そもそも、最初に私を見て、切りかかってきた時に、今みたいに『ルージュ』って人だと、気付かなかったというのもおかしいですけど」


 気になることを含めながら、そう返しつつ、ユイは二人から少しずつ距離を取る。

 助けてもらったお礼を言えないのは残念だが、これ以上関わると色々とマズいと判断したのだ。


『グルルルル……ルゥジュゥゥゥゥ!!!!』


 ミシミシと音がした後、男は叫び、その姿は獣のようなものへと変化していく。


「とりあえず、どこかに……って、いない!?」

「ルーク、余所見するな!」


 ぎょっとするルークに、ユーリが声を掛ける。


「ったく、こっちは助けてやったっつーのに、礼の一つも無しかよ!」


 そう言いながら、ルークは獣と化した男の攻撃を避ける。


「文句を言いたいのは分かるが、さっさと片付けて、頼まれた買い物を再開させるぞ」

「だな。まだ何も買ってなくて、良かった。もし何か買ってたら、買い直す必要があったかもしれないからな」


 にっ、と笑みを浮かべて、ルークは言う。

 そして、先程と同様に、相手を翻弄するために走り出す。


(買い物ついでに、あの子も捜してみるか)


 来たばかりだと言うのなら、日が落ちる前までは捜せるだろう、と思いつつ、ユーリも駆け出すのだった。


   ☆★☆   


「やれやれ。避難してきて正解か」


 位置を移動したユイは、そう告げながら、ルークたちの戦いを見る。


「けど、まさか獣化(けものか)するとは。サポートのために掛けた奴、解除されちゃったなぁ」


 だが、ユイに困った様子はない。


「……」


 無言で戦闘の様子を少し眺める。


「……お礼は、するべきだよね」


 ユイは旅行用かばん(スーツケース)とは別の、もう一つ持っていたバッグから、やや曲がった棒を取り出す。


「また後で会うことも想定するのなら、避けるべきなんだろうけど……」


 棒に付いたスイッチを押せば、巨大化した上に曲がっていた部分が伸び、大きな弓のようになる。

 そこに矢は無いものの、ユイが放つための構えを取れば、光の粒子が矢の形となり、放つ準備は整えられた。


「獣化は解いても、解決するわけじゃないから、後は頼むよ。守護者(ガーディアン)さんたち」


 タイミングを計り、ユイは矢を放つ。

 放たれた矢は、きちんと獣化した男に当たり、それと同時に光の粒子となって消えた。


『グググ……ギャアアア!!!!』

「何だ!?」


 苦しそうに声を上げた男に、ルークたちは警戒して距離を取るが、攻撃してくる様子はない。


「なっ!?」


 だが、それと同時に驚きの光景を目にすることになった。


「獣化が、解けた……?」


 顔を見合わせる二人だが、油断せずに相手を観察する。


「何で……何でなんだよォ、ルゥジュゥゥゥゥ!!!!」


 再び声を上げる男だが、獣化はしなかった。


「とりあえず、今のうちだな」


 そこからはこういうことが慣れているのか、手際が良かった。


「けど、一体何があったんだ?」

「獣化が解ける直前、矢のようなものが当たったように見えたんだが……」

「矢? けど、そんなもん無いだろ」


 拘束した男を見ながら、二人は話し合う。


「ま、こんなこと、ずっと起こるとも限らないし、今回のことはラッキーってことにでもしとくか?」

「……そうだな……」


 考え込むユーリに溜め息を吐くと、ルークは「こいつ、一旦連れてくからなー」と告げるが、ちゃんと聞いているのかどうかは怪しい。

 そんなルークが男を回収したのを見て、ユイは巨大な弓を元の棒にまで戻し、バッグにしまう。


「さて、それじゃ私も行きますか」


 そう告げると、ユイはその場から去っていった。



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