桜の木の下で〜 7 years〜
「本当に切っちゃっていいの?」
「…はい!!お願いします。」
この春、私は一大決心をしたんだ。
それは君と出逢って7年目のことでした。
私の住む町には、大きな大きな桜の木があります。
その桜の木は、雨の日も晴れの日もいつも変わらずそこにある。
「好きになっちゃった!!私…出逢っちゃったよー!」
なんて、勝手に報告に来たりしたこともあった。
桜の木は別に何も言ってはくれなかったけど、いつも私を受け止めてくれた…ような気がしてた。
君はある時こう言ったの。覚えてるかな。
「俺、髪長い子が好き〜」
そう聞いて、必死に髪の毛を伸ばした私を笑うかな。
思い返せばこの7年間は、本当にたくさんのことがあった。
君と出逢って私の人生は大きく変わった。
モノクロだった私の毎日がキラキラと輝き始めたんだ。
初めて君と喋ったのも、この桜の木の下でした。
君を好きになって2年目のこと。
「綺麗だね。ここ、もしかして川本さんのお気に入り?」
桜の花びらがふわふわ舞って、思わず見とれていた。
「俺もお気に入りになったかも。…じゃあこれからは、俺ら二人の秘密の場所ってことで♪」
それからは、気が付くと私はこの場所に足を運んでいた。
居るはずなんかないの、分かってるのに。
会えるわけないって、
知ってたはずなのにね。
それは君に恋して4年目の話。
大きな桜の木は、あの頃と何も変わらない。
変わらない。
君と私の距離だって、変わることはなかった。
いつものように、桜の木の下へ向かう私も、何にも変わってない。
相変わらず、君が好きで。
桜の木の下に君が立っていた。
夢かと思った。
だけど、夢は儚いもの。
「ごめんね、待った〜?」
見上げたら、桜の花は全部散っていた。
「桜も散っちゃったのか…」
失恋は、痛かった。
君と出逢って5年が過ぎた。
「髪長いよね〜あたしが知ってる限り長いよね?短くしないの?」
この髪は、君への想いがつまってる。
たくさんたくさんつまってるんだ。
そんなことで、君に想いが届くはずなんてないことくらい分かってる。
君と出逢ってキラキラ輝き始めた毎日が、今は辛くて悲しい。
君が好きだって、
君に会いたいって、
どんなに叫んでも届かない。
相変わらず桜の木の下に立ちすくむ私は、かわいそうだね。
弱い私がかわいそう。
かわいそうで、ムカつく。
もう、君に出逢ってから7度目の春。
桜は優しい。
また今年も咲いてくれた。
綺麗に鮮やかに…
私の住む町には大きな桜の木がある。
君に想いを伝えたのもこの桜の木の下でした。
大きくて、優しい桜の木の下で。
「好きです…!!」
桜の木は優しい。
「…ごめんだって。ごめんだって…振られちゃったよ、私。」
泣いて、泣いて、泣いた私を桜の木は優しく包んでくれた。
桜の木は強い。
雪が降ったって、
雨が冷たくたって、
春が来れば、花が咲くの。
君はもう居ない。
この春、私は一大決心をしたの。
「本当に切るの〜?すごい長いけど…後悔しない?」
「俺、髪長い子が好き〜」
「…いいんです。春なんで!!」
これが、私のけじめ。
「本当に切っちゃっていいの?」
これでいいの。
「…はい、お願いします!!」
美容室のドアを開くと街はパステル色に輝いていた。
重たかった長い髪の私は、もう居ない。
それは君と出逢って、君を好きになって7年目のこと。
「今年も綺麗に咲いてくれて、ありがとう♪」
春風に舞う桜の花びらが、
とっても綺麗で、
涙が少しだけこぼれた。