父を殺しに行ったら、孤独に戦うことになった男の話
「もう研究をやめよう、父さん」
だが目の前の父は何も応えない。
一心不乱に目の前の生物の解剖をし続ける。
なにやらブツブツと独り言を言いながら、たまに奇声をあげながら。
苦労して潜入した闇の組織のアジト。
久しぶりの再会は悲しいモノというだけではなく、落胆させるものだった。
もうオレーーー息子の声さえ届かないのか?
変わってしまった父。
突然現れたオレに反応すらしない、狂ってしまった父。
この部屋ーーー研究室には所狭しとおかれる謎の機械、あらゆる生命体の生きているのかわからない体に一部等があった。
それらの中にはまっとうな組織には揃えることすらできないご禁制のものも多かった。
闇という存在に加担してしまった、行き過ぎてしまった…闇の組織の一員になってしまった父。
悲しかった。
以前は魔道具の研究者として名を馳せていた父が…今や狂乱の博士と呼ばれ表の世界から追い出され、世間を脅かす闇の組織の一員になってしまった。
研究成果を世間に批判され打ちのめされた父の姿をオレは覚えてる。
成果の凄さを歪められ苦しんだ父。
求めても届かない研究に足掻く姿。
思い出すのは父の辛い顔ばかりだ。
ふりきらなければ!
見過ごすことのできない存在として父を見るのは辛かった。
だが彼の成果が恐ろしい物を生み出し被害を生み出しているという事実。
そしてそれを排除せねばならないというオレの職務。
オレはこの国の騎士であり、特殊な任務を請け負う立場でもあった。
任務は父の暗殺…。
身内なのにこの任務をオレに与えてくれた団長には感謝している。
オレがケリをつける。
ナイフを取り出し、刃に風の魔法をかける。
これで父の首もアッサリとぶだろう。
せめて苦しまないでくれ父さん。
ゆっくりと父に近づく。
一心不乱でコチラのことなんて気にもしていない。
一歩づつ進むごとにオレは心の中で謝り、父への愛を語る。
どうしてこんなことになったんだろうな?
もう目を合わせることもない、もとい顔を見れない悲しさ辛さ。
ナイフを動かす手はいつもの通りに動く…途中まで。
涙が溢れる、体中に力が入る。
父さん!
子どもとしての気持ち、悪を憎む気持ち、お互いの立場ーーー色んな言葉が脳裏で渦巻いた。
そして最後の迷いが打ち消えようとしている時、急に父のかすれた声がした。
「もう少しなんだ…」
オレはビクリとした。
弱った気持ちに力が蘇る。
「何が?」
父は相変わらず一心不乱に手を動かす、後ろから首元にナイフを突きつけられながら。
反撃するような素振りは見えない。
だが策がある?油断を誘っているのか?
それとも…。
オレは父が息子にかけるであろう言葉を期待した、してしまった。
「奥を見なさい」
父から目を離さず奥を伺う。
奥?
そこにはベッドが見えた、誰かが寝ているようだ。
気配を感じないからてっきりただの死体だと思っていたが?
警戒心がおのずと強くなる。
「アレがなんだ?生きているのか?」
「気付かないのか?アレはおまえの妹だよ」
「まさか?そんな馬鹿な!」
確かに妹がいた。
死んだはずの妹が!
意識がそちらに集中し、父への警戒が外れる。
「久しぶりだろう?」
久しぶりに見る顔はかなりやつれ老けていた、だけど懐かしい父さんの笑みだった。
「なぜ?なんでだ?」
もう暗殺どころではなかった。
オレは父さんに詰め寄った。
父さんはフフフと笑い、身振り手振りを交えながら説明した。
「あの時、この子は死んでなどいなかった。ただ死にかけただけ」
「いや!そんな馬鹿な!あの事故で生きるなんて」
妹は不幸な人生ばかりだった。
生まれながらの重病でスグに倒れる程病弱だった。
それなのに暴走した馬車に跳ねられ死んだ。
かわいそうなやつだった。
長く生きられないと言われていたのに、学校の帰りに、まだ16歳だったのに早死にしてしまった。
思い出すと胸が痛む。
「そうでしょうねぇ、普通に考えれば死んでいました。」
何を言っているんだ?
ドヤ顔の父さん。
死という禁忌を意味不明な言葉で説明する姿に嫌悪感が湧き殺意を思い出させる。
「待ちなさい!妹も殺したいのですか?話は最後まで聞くものですよ」
振りかぶったナイフを、父の一喝ーーー気になる言葉にどうにか止める。
「どういうことか話してもらおうか」
「よく踏みとどまってくれました、ありがとう」
礼を言われ複雑な気分だ。
とりあえず父の話を聞くことにする。
ここですこし、この世界における魔力と精霊力の説明をさせて頂きます。
人々は体内の魔力を呪文という形で発動する。
これはこの世界の常識となっています。
では魔力は体外にはあるのか?というとこの世界ではないものとされています。
代わりに精霊力というものがあるんですが、現在の人間には行使する術はありません。
というわけで
魔力が人間を構成しているなら、精霊力が世界を構成しているという世界観になります。
そんな設定もありまして
父は元々身体の破損や障害への補助を目的とした魔道具の研究者だったんだけど。
体内だけの魔力を利用した魔道具に限界を感じたため、精霊力を利用できないかと傾倒していきました。
そしてその結果精霊力をこの世界で初めて人間の体内に取り組む技術を完成させてしまうんですが、様々な方面から禁断の技術だと糾弾されてしまったのでした。
「おまえも私の論文を読んだのなら理解していよう?精霊を身に宿す手段があるということを」
「ならば妹は精霊の力で蘇るということか?だがそれは禁忌だ」
確かに妹が生き返るのは嬉しいかもしれない、だがそれはこの世の理を壊す、人がしてはいけないことだ。
そんなことをさせてはならない!
騎士としての職務的にも倫理的にも許せない。
「まぁ待ちなさい。君は誤解しているようだがアノ時死んではいなかったのだよ」
「…本当か?」
「嘘ではありません、だからこそ私は研究に没頭した。なんの奇跡的が起きたのか!どうして奇跡が起こったのか?娘は冬眠状態のようになった。わからなかったが私は精霊に感謝した。娘に再び人としての生を与えるために全てを捧げました。」
そんな事情が…。
息子にすら教えなかった父の事情。
「なぜ話してくれなかったんだ?」
「言えるわけがないでしょう?死んだとされた人間が死に至らず、しかも見た目がもう何年も変わらない存在を目覚めさせるのだ。そんなこの世の理から外れたことにおまえを巻き込めるわけがない…私一人でいいんだ」
父さんは決してオレを見捨てたんじゃなかった。
独りで世間から外れてでも妹を蘇らせようとしたんだ。
嬉しかった。
だがその手段はよくはなかった。
父はもう闇から逃れられない。
そして迷う。
父の暗殺という任務をどうするのか?闇の組織を放おっては置けない現状に。
結果オレは国を裏切ることにした。
かといってこの闇の組織に寝返るつもりもない。
名前も家族も捨て動くことにした。
父さんの研究はもうすぐ完成する。
オレは妹が起きた時の準備をする。
贖うは父の所業、願うは妹の幸せ。
オレはオレだけの戦いをする。
こうして国からも闇の組織からも狙われる、孤立奮闘のファザコンシスコン戦士が誕生することになった。
ご覧頂きありがとうございました
実はこれも本編は妹が主人公。
火の精霊をその身に宿し、火の戦士に変身し闇の組織と戦います。
本編の前に練習。
現在幾つか考えた話の短編で文の練習してます。
といっても設定しか考えずで、中身は即興なのでツギハギな文章だなぁと復習中。
よろしければ今後もお願いします。