現世うつつせ
「ああ、あんたも『えらい昔』のことを覚えとるみたいやな」
「、、、」
「そんなもん、何の役にも立たんちゅうのに」
「、、、」
「まぁ、ええわ、あんたがええんやったら、ええ」
「、、、」
「ワシはあんまり好きやないんや、『えらい昔』のことを覚えとるんわ」
「、、、」
「なんでて、、、。どうせ今、会うとるもんは『えらい昔』にも会うとる人らや。それやったら知らん方がええこともある」
「、、、」
「あんたにか?。そりゃ、会うとるんやろな、あんたにも」
「、、、」
「知らん。あんたのことは何にも覚えてへん。そやかて、今、こうして話しとるちゅうことは、そういうことや」
「、、、」
「ほら、見てみいな『えらい昔』のことなんか覚えとるから、あんた悲しそうな顔しとる」
「、、、」
「そやから嫌いや、言うたんや」
「、、、」
「なんで、なんでて、あんたもわからん人やな」
「、、、」
「ホンマに強情な人や、、、」
「、、、」
「そないに悲しそうな顔しとるのに」
「、、、」
「ほんまに、強情いうか、奇特なお人や」
「、、、」
「まぁ、ええわ、どのみちワシらは選ばれへんのやからな」
「、、、」
「神さんが選びはることや」
「、、、」
「いいや、そんなことあらへん。神さんが選んではるんや」
「、、、」
「そしたらなんでワシはあの子に会われへんのや。あの子に会われへんのやったら、『えらい昔』のことを覚えとる意味なんかあらへん」
「、、、」
「こんな年寄りになってしもて、もう会うこともあらへんしな」
「、、、」
「そやから、これは神様が選びはったんや。会われへんのやったら覚えとうなかったわ。自分で選ぶわけあらへん」
「、、、」
「そやから、あんたも会われへんのかも知れんのやで、、、。いや、あんたやったら、、、」
「、、、」
「なんでやろな、よう覚えてもない人に、あの子の話するなんてな」
「、、、」
「確かにあんたはあの子によう似とる。その強情なとこなんかそっくりや。そやかて、あんたはあの子やない」
「、、、」
「あの子やったら、ワシが忘れるわけあれへん」
「、、、」
「あんたやったら、会えるかもな、、、」
「、、、」
「あんたは一体、誰に会いたいんや、誰を探しとるんや」
「、、、」
「そうか、、、。それでずっと探しとるんか、、、」
「、、、」
「会われへんのかも知れんぞ」
「、、、」
「そうか、あんたはそう言う思うたわ、ホンマに強情なお人や」
「、、、」
「ワシもな、一目でええんや、ほんの一目だけでも、あの子に会いたいんや。あの子の姿を今一度、見たいんや」
「、、、」
「ほんまやな、ワシもあの子に会いたい一心で今まできてしもた。あんたと一緒や。ワシも強情や」
「、、、」
「ワシか?。ワシはもうええ。極楽行ったら会えるやろ。あんたは会うたらええな」
「、、、」
「そやかて、神さんも非道い仕打ちをしはるわ。『えらい昔』を覚えさしといて、あの子に会わせへんやなんてな」
「、、、」
「ああ、せや。せやったな。神さんのせいやのうて、ワシが忘れとうないだけ、そうかもしれんな」
「、、、」
「ほんま、強情や。あんたと一緒、強情や」
「、、、」
「せやかてな、何や知らん、あんたには今度も会えそうな気がするわ」
「、、、」
「何でやろな、肝心のあの子には会えんいうのにな、、、」
「、、、」
「ほな、またどこぞで会おか。強情もん同士、今度もどっかで会うやろ。そん時は挨拶くらいしてや、、、」