先輩はラノベ主人公ですか!?
私と先輩の出会いは半年前、私は未曽有の大嵐の中にいました……ああ、ごめんなさい、嘘です。ちょっと盛りました。だってせっかくなんで劇的な出会いに演出したいじゃないですか!
こほん、それはともかく。実際にはごく普通に学内を歩いていたら勧誘されました。
部活の勧誘なんですが物凄く強引で、何故か5秒で入部させられた私は、1分後には屋上からバンジージャンプさせられることになってました。
訳がわからないですよね。私もわかりません。でも典型的な長い物に巻かれろタイプな私は、先輩の命令に逆らえないのです。
会話を並べるとこんな感じです。
「ねえ君!」
「はい?」
「君、高いところ苦手? ジェットコースターは好き?」
「え? えっと、別に苦手じゃないですし、ジェットコースターは好きですけど?」
「よかった! 私たちの部活、人数が足りないの。お願い! 入部して! 悪いようにはしないから」
「え、えーっと、体育会系ですか? 大会目指したりとか暑いのはちょっと」
「ないない! インドアだし、幽霊部員でもOKだしお願い!」
「はぁ、まぁ、部活入る予定ないんで、名前をかすくらいならいいですけど」
「よかった! じゃあさっそく、部員勧誘手伝って! 今日だけでいいから」
「勧誘くらいなら」
「うん! じゃあこっち来て!」
そしてこうして今私は、屋上のフェンスから突き出た板っきれの上に、足首にロープくくりつけた状態で立ってます。
風で揺れて落ちそうです。無理やり押されて一歩だけ屋上から出ただけですが、怖すぎて戻れません。
しかもフェンス越しに名前すら知らない先輩に見張られてます。
「ほらー、早く! 大丈夫! ちゃんと大丈夫なように作ってるから!」
「なら先輩が飛んでくださいよ!」
「私、高いところ苦手なの」
きゃは、と非常に可愛らしく先輩は頭を10度ほど右に傾けながら笑った。その可愛い顔を殴りつけたくなる。めっちゃ可愛い先輩だからついついいっかなと思った1分前の自分も殴りたい。
でも殴れない。ちょっとでも動いたら落ちてしまう恐怖に私の心臓どっきどきすぎて、落ちるより先に死にそうだ。
「何してんだ原村!」
「あら、亮司。うちの新入部員よ」
「新入部員殺す気か! おい! 手を伸ばせ! ゆっくりだ!」
勢いよくフェンスを飛び越え、片手でフェンスを掴んで精一杯私に手を伸ばす亮司先輩に、惚れた。
完全に吊り橋効果なのはわかってるけど、惚れちゃったものは仕方ないでしょう。
それから何やかんやありましたが、とりあえず入部しまして半年ほど。
と言っても部活人数は私をいれて4人の同好会扱いですが。お菓子研究部、略してカシケン。
私を勧誘したお菓子大好きな先輩はハーフで名前が長いので私が呼んでるあだ名だけ紹介しますとハム先輩です。名前とお菓子食べる姿がハムスターに似ているので。お菓子が大好きなお金持ちで、バンジージャンプの装置も本当に飛んでも問題ないようになってたそうです。
ハム先輩と亮司先輩の出会いは誘拐された時に助けてくれたそうです。それを知った私の時のコメントは下記です。
「先輩はラノベ主人公ですか?」
「いや、確かに非日常的ではあるけど」
「ラノベってなに? 亮司は私の主人公ではあるけど」
「はいはい、サンキューな」
そしてハム先輩の好意には気づいてないところがなおさらです。
そしてもう一人の部員は陸上と掛け持ちしてるので幽霊部員である、亮司先輩の幼なじみです。ハム先輩に合わせてあだ名で紹介するとロリ先輩です。もちろん見た目がロリだからですがなにか? 無理やりロドリゲス先輩とつけてからロリ先輩まで持って行った私の手腕を褒めてほしいです。
ロリ先輩と亮司先輩は幼い頃に結婚の約束をして親同士公認の許嫁だそうです。それを知った私のコメントです。
「先輩はラノベ主人公ですね?」
「いや、だから違うって」
「亮司は主人公というよりはモブキャラじゃない? 私がいないと何にもできないし」
「それはそれで酷いな」
「仕方ないから、一生面倒みてあげるよ」
「俺だってもう子供じゃねーから大丈夫だっつーの」
「……そういうことじゃない」
「え? なんか言った?」
「なんでもない」
難聴か! このラノベ主人公め! いちゃつくんじゃねーですよ! て言うかですよ? て言うかなんで私まだ亮司先輩のこと好きなんでしょ。
あれから半年間、散々2人と先輩の仲の良さもいちゃつきも見てきたんですけどねー。やっぱりあれですよね。リアルに命の危機に感じてましたし、吊り橋どころじゃないレベルでしたもんね。
とりあえず先輩はいまんとこ2人から好かれてることにも、2人から取り合いされてることにも気づいてないみたいなんで、私も頑張ってます。
まあ、2人みたいに体くっつけたりとか無理ゲーですけど。声かけたり、遊んだりとかはしてます。
おっと、そうこう言ってると先輩発見です。一人だしちょーどいい先輩です!
「先輩、今帰りですか?」
「おう。原村も今日は部活しないって言うしな」
「じゃー、一緒しましょ。ついでに寄り道とかー」
「寄り道とか、校則違反だぜ。悪いやつだなー」
「げへへへ、優等生の道から転落させてやるです」
「げへへへ、元々優等生じゃねーけどな」
「じゃあナカーマじゃないですか」
「おう、ナカーマ」
先輩が 仲間に なった。
てなわけで勇者な私はさくさく街に繰り出しますよー。遊び仲間ってかんじで割と気安い間柄にはなれたと思いますけど、全然色気のない感じです。
はー、これで私、ラノベヒロイン(先輩の女)になれますかねー。
○
「ねー、先輩」
「なんだ、後輩」
「割とガチな質問してもいいですか?」
「何だよ」
「先輩はラノベ主人公ですよね?」
「お前、それ好きだな」
「先輩が主人公すぎるんですよ」
「どういうこっちゃ」
どういうこっちゃも何もあるもんですか。むしろ先輩こそ何でラノベ読むくせにピンと来ないんですか。
「何ですか、義理の女子大生と義理の小学生がいるって」
「その表現はおかしい。義理の姉と妹な。親戚なんだけどちょっとな」
「あ、すみません。踏み込んだこと聞いちゃって」
「いや。いいさ」
あの2人にとって明るくない昔があったみたいだしツッコミを入れるつもりはない。ないんだけど、義理姉妹2人からあからさまに好かれてるのなんなんですか。
「まあ、気になるだろ。あの2人には聞くなよ。事故でちょっとな。2人とも暗かった時期もあるけど、色々話したりして、何とか笑顔を取り戻してくれて、今はちゃんと家族になれてる」
ラノベ主人公め。はー、全くやってられまへんわー。
「はいはい、先輩は優しいですね。でも人の過去をペラペラ話さない方がいいですよ。先輩の過去でもありますけど、あの2人からしたらいい気持ちじゃないですし」
ていうか私のこと視線で殺しそうな顔して立ち去って行きましたし。ヤンデレ義理姉妹とかハードル高いなー。境遇的に依存高いのは仕方ないとしても。
先輩のことは好きですが、死にたくないのであの2人に私のこと話すのはやめてくださいよマジで。
「私は聞かなかったことにしますから、あの2人にも言わないでくださいよ」
「…おう、お前、いいやつだよな。好きだぜ」
「お……おう、とーぜんですよ。私、ちょーいいやつです。なので鯛焼き奢ってください」
「へいへい、しゃーねーな。特別だぜ?」
「先輩の特別は週1であるんですね、わかります」
「こいつめ」
「ははは」
くっそー! 気軽に人の頭小突いてんじゃねーですよ! ときめくじゃないですか! てか軽く好きとか言うんじゃありません! 惚れてまうやろー! もう手遅れですけども!
「よーし、じゃあ鯛焼きな。いつもの店でいいよな?」
「はい。てか他に近所で鯛焼き売ってるとこないでしょう」
「お前が望むなら、どこまでも行ってやるぜ!」
「はいはーい、イケメン台詞ありがとうございまーす。とりあえず鯛焼き二倍でお願いします」
「何でだよ」
「先輩のイケメン台詞のせいで……う、動悸目眩息切れ喘息が。慰謝料を要求します」
「ひでぇ。どーせイケメンじゃねーよ、ブサメンがイケメンぶってすいませんでしたー」
いやリアルにドキドキしてるんですけどね。てか先輩はちょーイケメンじゃないですけど不細工じゃないですし、イケメンよりのフツメンです。
もちろん、私の乙女チックフィルターにより常にイケメンには見えてますけどね。
「まぁまぁ、私は先輩の顔好きですよ」
「ほんとか?」
「鯛焼き三匹で本当になります」
「太るぞ」
「あ、私のガラスハートがブレイクしました」
「はいはい、悪かった悪かった。んじゃ三匹な」
「やった。先輩愛してます」
「マジか。結婚しようぜ」
「お断りします」
「ひでぇ」
「プロポーズは夜景の見えるレストラン貸し切ってと決めてるんです」
「乙女か。お高いねー」
「お安くありませんのよ、おほほ」
「お前の中のお嬢様像古っ」
私が先輩の好感度をあげようとしていると、何と遠くから悲鳴が。路地裏からです。
「! お前はここで待ってろ!」
「ところがどっこい! 行きますけどね!」
まぁ、ぶっちゃけ割と何回もあることなので動じません。どうせまた女の子助けてフラグたてるんでしょう。
「ったく、女の子なんだから無理すんなよ!」
「先輩こそ! 怪我しないでくださいよ!」
先輩と出会ってから、この街でいかに日々何かしらか起こってることを実感します。フラグメーカーですねぇ。
まあ先輩のその面倒ごとに首を突っ込む優しいとこが、好きなんですけどね。
○
「ありがとうございました! このお礼は必ず!」
たった、フラグがたった!とかはいはい、解決解決と。てか何ですか。こんなとこに某国の要人の娘が来てて誘拐されかかってるんですか。
「いやぁ、助かったよ、ありがとう2人とも」
そしてまさか私に刑事の知り合いができるとはね。ほんの数ヶ月前までは想像しませんでしたよ。
「当然のことをしたまでです」
「イケメン台詞きたー! やっぱりラノベ主人公ですね」
「うっせぇ」
私もね、なんだかんだで慣れました。敵に気づかれずに隠れたり、先輩の動きを察して警察呼んだり物を投げたり、ひそかに逃げ道つくったりとかもう慣れました。
最近とかもう体鍛えるべきか悩んでますよ。ていうか先輩は何で無駄に喧嘩強いっていうか、拳銃すら避けるとか何者ですか。何者でもいいですけど。
警察への説明とかもろもろ終わって解放されました。何とかまだ日も沈んでないので、さっさと鯛焼き食べに行きましょう。
「ほい、鯛焼き」
「わーい、って何ですか五匹も」
「さっき手伝ってもらったしな」
気持ちは有り難いですが、さすがに本気で太りますし食べ切れません。一つ掴んで先輩に差し出します。
「手伝ったって何ですか。仕事じゃあるまいし。2人でやったことを、先輩だけお礼言うなんて変でしょう。ほら、食べてください」
「…サンキュ」
って何そのままかぶりついてんですか!?
「うん、うまいな」
「と、当然です。私みたいな美少女に手ずから食べさせてもらうなんて、先輩ったら果報者」
うわー、普通に恥ずかしい。ちょっと鯛焼き屋のおじさん、こっち見んなにやにやすんなです。
「そうだな。お前みたいな後輩がいて、俺は果報者だよ」
「三国一の、が抜けてますよ」
「おっとこりゃうっかり」
とにかく鯛焼き屋から離れましょう。さすがに数があるので立ち食いしきれません。私たちは近くの公園に向かいました。
「ほれ、お茶」
「くるしゅーないです」
ベンチに座って先輩が自主的にパシってくれたお茶を飲みながら鯛焼きを食べる。
甘い物を食べるときは甘くない飲み物が一番です。あまり苦くてもいけません。つまりお茶が一番です。日本人ですから。
「ほい、先輩。最後の一個どーぞです」
「ん? なんでだよ。お前が三個だろ」
「先輩、今日頑張って体動かしてましたし。格好良かったんであげます。プレゼントフォーユー」
「お、珍しいな」
「まあ、実際はお腹いっぱいなんですが」
「だろうな。まあ、ありがとな。いただきます」
元はと言えば自分で買ってるくせにお礼を言うなんて、馬鹿な先輩です。いや、ずるい先輩です。愛しく思ってきゅんきゅんしちゃうじゃないですか。
「なぁ、山田」
「ちょっと先輩、名字やめてくださいって何回言いましたか。りかちんと呼んでくださいってば」
「はずいんだよ。女子同士ならともかく、呼べるか」
今でこそ違う学校ですが私には双子の弟がいて、いつも下の名前で呼ばれてました。なので名字で呼ばれなれてません。
というのは建て前ですが、実際慣れないので先輩以外みんな名前です。早くデレてほしいです。
「仕方ないですねー、今回も保留にしてあげます。で、なんです?」
「おう……………………」
「なんですか、その妙な間は。間合い計ってるんですか?」
「そうそう、一挙手一投足で確実に攻撃できるように、って馬鹿。全く、お前ときたら、会話が楽しすぎるわ」
「お褒めにいただき恐悦至極」
「褒めてねー。話がすすまん。あのな、その、今度の土曜日ヒマか?」
「暇ですよ。遊びに行くんですね。どこに行きますー?」
「………一応言っとくけど」
「?」
「これ、デートだからな」
「は、い?」
そして土曜日、妙にぎくしゃくしつつも私と先輩はド定番な遊園地デートをして、観覧車の中でキスをしました。
「好きだ。恋人になってくれ。俺はラノベ主人公じゃないけど、お前だけの主人公にさせてほしい」
「…はいっ。私をヒロインにしてください!」
でへへ、いやー、さすが私ですね。私の美少女力で先輩ったら、もう、いやんばかん。
なんて浮かれましたけど、ほんとに先輩ったら、私のどこが気に入ったんでょうか?
言ったらあれですけど、私ってロリでもなければ大人っぽくもなく、貧乳でもなければ巨乳でもなく、ごくごく平均的女子なんですけど。
と言うことを観覧車を降りてから聞いてみますと先輩は顔を赤くしながら答えてくれました。
「お前は普通じゃねーよ」
ちょっと、何呆れ顔してるんですか。地の文が嘘になるじゃないですか。
「はいはい。つってもな、女の子ってみんな妙にくっついてくるけど、お前そういうのないし、むしろ恥じらってて女の子っぽいし……つか、俺についてきて巻き込まれても全然気にしないやつとか、そもそも俺を好きって言う女の子なんか、お前くらいしかいねーよ」
今度こそ先輩は赤くなったけど、私の方が馬鹿みたいに真っ赤になってると思います。
なんですか、私にベタぼれじゃないですか。ラノベ主人公かって突っ込みたいセリフありましたけど今回だけスルーします!
「……お前お前って、いい加減私のこと、名前で呼んでください。亮司先輩」
「お、おう……りか」
「はいっ」
あー、もう先輩好きっ!
って言おうとした瞬間、急に当たりがまぶしくなりました。何事!?
思わず腰を落として走り出せる準備をしながら片目を閉じる私に、亮司先輩が横から抱きついてきました。きゅん。
「りかっ、大丈夫か!?」
「はい、まあ」
光は一瞬で、すぐになくなりました。目をこすりながら体勢を戻すと、私たちの目の前にはコスプレした女の子がいました。
「勇者リョージ! あなたの力を、今一度貸してください!」
「げっ、リンダ!? 魔王やっつけて、平和になったんじゃないのか!?」
え、このお姫様ドレス着て大剣持ってる人知り合いですか? てゆーか、勇者とか魔王って。
「あ、りか。その、えっと……実は俺、中学ん時に、異世界に召還されたことがあって…」
「……一つだけ、いいですか?」
「はい……」
「先輩は、ラノベ主人公です!」
「……さすがに、否定できない」
ていうか今まで否定してたことにビックリですよ! あーもー!
「お姫様! 今何が起こってるんですか? 先輩は何をすればいいんですか?」
「え、手伝ってくれんのか?」
「仕方ないでしょう」
「りか!」
満面の笑顔になる先輩とは逆に、私の存在に訝しげな顔を隠さないお姫様は、戸惑いながら首を傾げている。
「…あの、あなたは?」
「私はあなたの言う勇者リョージのヒロインです。ちゃっちゃと世界救いますから、説明してください」
さっさと解決して、デートの続きをしますよ。