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初話 プロローグ


俺が祖父さんからこの『竹ものさし』をもらったのは丁度10年前だった。




俺が小学校入学したてだったころ、小学校での算数の授業で竹ものさしがいるときがあって、ある日祖父さん家を訪ねたときに


「じいちゃんがいいの持ってるぞ~。」


って言ってその竹ものさしを渡されたのだ。青い染物の布でできた入れ物に入っていた傷だらけの竹ものさしは、あまりにも年季が入ったもので、当時ピカピカのランドセルとか真新しい教科書、ノート、筆箱とか、とにかく新しいものに囲まれていた俺にとっては正直とても残念なものだった。それでも、なかなかのお祖父ちゃん子だったので大好きなお祖父ちゃんからの譲り物として大切に使わせてもらった。まだ小さかったこともありそれを使うことに恥ずかしいという気持ちも無かったし、周りの友達も馬鹿にはしなかったから。

 

 でも問題はその後で、当時の俺のお気に入りとなっていたその傷だらけの竹ものさしを俺はその後も使い続けてしまったのだ。竹ものさしの授業なんてのはほんと一瞬で、そのあと周りがプラスチック製のものさしに移っていったのにもかかわらず俺は使い続けた。当然ながら俺は、からかわれた。

 

 まだ小学生だったから人気の無いところでリンチなんてことは無かったけれど、竹ものさしをどこかに隠されたり、投げられたり、もって逃げられたり、目の前で女子トイレに投げられたり…と、まあ子供なりに辛い日々を過ごした。


 たぶんその時からなんだろう。俺がその傷だらけの竹ものさしをコンプレックスに感じ始めたのは。いや、傷だらけの竹ものさし自体がコンプレックスというよりは、それのせいで周りのみんなの中で浮いていた時間、や、それに気がついていなかったその時の自分自身がコンプレックスなんだったんだろうと思う。今思えば、だけれど。


 そんなことはさっぱりだったその頃の俺は『竹ものさしのせいでこうなった』と思った。『竹ものさしが俺をこうした』、『竹ものさしが無ければこうならなかった』と思った。八つ当たり、という奴だ。


 そうして俺は竹ものさしをしまった。机の引き出しの奥に。


 今思えばなんだそんなことかと思われるけど、その時の僕は永遠に決別する思いで竹ものさしをしまったのだ。


 実際竹ものさしを放置してからというもの、からかわれることも無くなった。小さい子供というのはいろいろと切り替えが早いものだ。からかう対象が消えた途端、からかわれた期間が短かったこともあり、俺はからかいの対象から外れた。幸い、といえば幸いだ。それからは何事も無かったかのように周りの子達と仲良く過ごすことができた。その関係もあり、それからはもう竹ものさしのことなんて忘れてしまった。竹ものさしのコンプレックスも一緒に。長い間ずっと…。


 こうしてその竹ものさしは俺の不幸の象徴になった。

 


 

 それはその竹ものさしが『形見』になっても変わらなかった。


 俺が14の時、祖父さんが死んだ。


 事故、だったらしい。小さい街だったからか、町中の人々が参加するまあまあ大きな葬式だった。田舎なりの繋がりの強さ、という奴なんだろう。大好きだった祖父さんが死んだということで泣きはしなかったけれど、涙が出てもおかしくないくらいに悲しかった。それでも泣かなかったのは14だったこともあり存在していた、親や親戚との間にある心の壁というか距離のおかげ、という奴だったのだろうか。それとも反抗期なりのプライドのおかげ、なのだろうか。


 どちらにしても、泣きたくても泣けない、悲しくても素直に悲しめない葬式だった。


 そんな式の最中だった。親戚らしいおばあさんから


「おじいさんから預かってたものがあるからあなたに返すわね。」


と、数珠をもらった。普通の数珠ってのは球体のいろんな石が何十個かついているものなのだが、そのときもらった数珠は石が全部ダイヤの形をしていた。最初見たときはこれは数珠なのだろうかと疑ったけれど葬式という場ということもありとりあえず受け取った。


 それからその数珠は祖父さんの形見として所持し続けた。没収の危険がある中学を卒業するまでは誰にもばれないように学ランの胸ポケットに入れて過ごした。そういったものの制限が緩い高校からはミサンガみたいに手首につけて過ごした。角が多くて少しチクチクしたが慣れたらそこまで気にならなかったし、見た目がなかなかかっこよかったので途中からは形見としてよりは一種のアクセサリーとして身につけていた。それでも形見ではあるので無意識ではあるが部活の試合前であるとか高校の受験前であるとか、そういったときに必勝祈願のお守りになっていた。


 その数珠のおかげ、なのかは分からないけどそういった勝負ごとに対する運はよかった。無茶苦茶強運というわけではなかったけれど、部活の試合は対戦相手がよかったのでいいところまで進めたし、受験も見事第一希望に合格したし…と、まあそこそこ幸運だったのだ。


 そういう幸せがあるときは多くの場合その数珠があったので、俺にとってこの数珠はオールマイティーなラッキーアイテムになった。幸せなときにはいつでもその数珠があった。俺の幸せな記憶に寄り添うようにその数珠はあった。


 だからその数珠は俺の幸せの象徴になった。




 祖父さんが残した二つの形見。数珠と、竹ものさし。



 

 そうして今、俺は17歳。高2になったばかり。


 


 祖父さんの形見が、嵐を巻き起こす。



 



初心者ですので至らない点が多々ありますがよろしくお願いします。

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