第4話:登校初日!(その1)
ついに、初登校の日がやってきた。俺は昨日から徹夜で作った自己紹介の挨拶文を書いた紙に目を通して、最後のおさらいをする。
「どうも初めまして。金常時隼人です。まだ、こっちに引っ越してきて間もなくていろいろ勝手が分からないんだけど、よろしくね。あ、僕のことは金ちゃんって呼んでください。前いた学校じゃ、みんなからそう呼ばれてたから(うそ)。でも、あらかじめ断っておくけど欽ちゃんの物まねはできないよ。ハハハ!」
ここでスマイルだ! と口の端を持ち上げたところで
「あんた、さっきからなにぶつぶつ言っててんのよ」
と春姉の声が背後から響いてきた。驚いて振り返ると、閉め忘れていたドアの前に、冷めた目をした春姉が立っていた。
「は、春姉……」
「なに、1人でぶつぶつ言ってんのよ、あんた」
「は、春姉には関係ないだろ」
「ま、そうね。せいぜい、ポカしないようにがんばんなさい。どうせ、無駄だろうけど」「……」
……お見通しってわけか。
「そんなことより、昨日頼んだこと忘れんじゃないわよ」
「……分かってるよ。用がないなら早く出てってくれよ」
「はいはい」
春姉はさっさと俺の部屋を出て、リビングへと入っていった。俺は、春姉の後ろ姿をほんの少しの間だけにらんでから、ドアを勢いよく閉めた。そんなことよりだあ? ふざけんじゃねえ! なにも知らねえくせに勝手なこと言ってんじゃねえ! この紙切れに書かれたことうまく言えるかどうかが、今後の俺の生き方を大きく左右するんだよ!
俺は、頭にきて外に決して声が漏れないように、それでいてストレスが解消できる程度に声を大きくして言ってやった。
「隼人。母さんがさっさと朝ご飯食べろって――」
「この二重人格女! お前の頼みなんて誰が聞いてやるかよ! バーカ!」
突然開かれたドア。そこかららのぞく春姉の顔。部屋の中に反響する俺の怒鳴り声。俺は唖然として、部屋に入ってくる春姉の可愛らしい笑顔を見守りつつ、後ずさった。
「……ねえ。二重人格女って……私のこと?」
「ち、ちが……」
後ろ手にドアを閉めて、春姉はゆっくり俺に迫ってきた。
バタン!
ドアの閉まるすさまじい音と一緒に、俺の悲惨な一日は幕を開けたのだった。