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虹色の明日へ  作者: Yu-Zo-
22/23

第22話:ドキドキの放課後!(その3)

 昼休み。屋上にやってきた坂本と「せっかくだから、もう少し寝る」と言って、結局午前の授業をすべてサボり(人のことは言えないが)惰眠を貪った男子生徒とともに、俺はベンチに腰掛ながら昼食をとっていた。坂本からの情報で、この男子生徒の名前は渋味健一しぶみけんいち、俺たちのクラスメイト(まあ、本人も1−Bと言ってたが)と判明。そして、自己紹介ついでにそのまま、なあなあな感じで昼食を一緒にとることになったというわけだ。それにしても「死神」と恐れられている俺と、いじめられっ子の坂本という、関わり合いになりたくない人間ランキングというものがあるなら確実にナンバー1,2コンビ(なくてよかった)になるであろう面子を前にしても、のほほーんと「あ、じゃあ、俺も一緒に弁当食べていい?」と言ってくるとは、ある意味すごい奴だと思う。どうやら、本人はそういう世俗的なことに無関心、無頓着なだけで、つまるところ「何も考えてない」というだけのことなのだが、そういう「良さ」も世の中にはあると思う。俺や坂本のことを何も知りもしないで避けるような連中より、何も考えず俺たちと一緒に弁当を食べるこいつのほうが、よっぽど出来た人間だ。

「あ、ねえねえ、金閣寺」

 しかし、こいつのこのもの覚えの悪さはどうにかならないものだろうか。同世代のやつから親しげに呼び捨てで名前を呼ばれるのは嬉しいのだが、それも京都の寺呼ばわりされて嬉しさ半減だ。別にいちいち数えてたわけじゃないけど、これで10回はこいつ俺のこと金閣寺って呼んでやがる。

「金閣寺じゃねえ。金常時だ」

 そう言って、にらむ(目を向けただけ)と健一は別に大して気にした風でもなく「あ、ごめん」と言って再び俺の名前を呼んだ。

「で、金閣寺」

「お前、ごめんの意味分かってるか?」

 しかし、健一はやはり別に大して気にした風もなく「うん」とうなずいた。何か、こいつを見ていたら、名前がどうとかもう大したことないような気がしてきたので、もうスルーしておくことにした。でも、こいつ坂本のことは名前間違えて呼ばないんだよな。確かに、金常時ってのは珍しい苗字ではあるのだが。

「で、金閣寺さ。ちょっと質問があるんだけどいいかな」

「お、おお。何だよ」 

 同世代の人間から面と向かって質問なんてされるの初めてだな、と内心胸を躍らせながら声を出す俺。しかし、健一の質問はそんな俺の高揚感をあっさりとドブ川に突き落とすような代物だった。

「金閣寺って、犯罪歴があるってほんと?」

「えええええええ!」

 健一の言葉に固まる俺。そして、健一の横で驚きの声を上げる坂本。ちなみに、爆弾発言をかました本人は、悪びれもせず目を丸くしてやがる。

「えーと、確か強盗、殺人、強姦、放火の犯罪歴を持つ少年院上がりなんでしょ?」

「えええええええええええ!! き、ききき金常時君!?」

「……」

 ここまでやられると、もはや否定するのも億劫だ。そもそも、んなことやらかした人間を快く受け入れる高校って、どれだけ手放しな学校だよ。うちの生徒でウサ晴らしてくださいってか? しかし、面白おかしくそんな噂を流す連中は置いといて、問題はそんなことを平然と本人の前で口走る健一の奴だな。これが「そんな噂流れてるけど、んなことないよね」ならいいのだが、完璧、こいつ俺の答え待ちだし。そんで、健一と同じく俺の答えを息を呑んで待ってる坂本。お前、俺を見込んで弟子入りしてきたんだよな? ここは弟子のお前が(弟子と思ってないけど)笑い飛ばして「んなことあるわけない」っていうべきだろ。もし仮に師弟関係が築かれていたら、お前はこの時点で破門だ。

 しかし、いくら待ってみても、二人は何のフォローもせずただ俺の答えを待つ始末。もしここで「イエス」と答えたら、健一は普通に「ふーん、やっぱりそうなんだ」と納得し、その横で坂本は悲鳴を上げつつこの場から逃げ出すに違いない。よくよく考えれば、俺ってやつはとことん友達運というものがないらしい。

「……んなことあるわけねえだろ」

 沈黙を破って俺がそう答えると、健一は「え? そうなの?」と聞き返してきた。他意はないのだろうから「ああ」と言葉を返す俺。そして「そ、そうだよね、僕、金常時君のこと信じてるもの」と明らかに胸を撫で下ろしながら言ってのける坂本にも、悪気はないのだろうが、その白々しさがかなりムカつく。さすが、いじめられっ子だな。

 その後、ありもしない噂を否定し、昼食をとり終えたちょうどそのとき、坂本が何気なく「ねえ、金常時君」と俺に話しかけてきた。

「なんだ?」

「今朝さ、サナちゃんに会わなかった?」

「……!」

 ど、どうして坂本がそのことを! 俺はあんぐりと口をあけつつ、閉じない口を無理やり動かしながら何とか言葉を発した。

「ど、どどど、どして?」

「うん。今朝、サナちゃん僕に金常時君に謝りたいって言ってたから。一応、家の場所は教えてあげたんだけどちゃんと会えたか気になってさ」

 そういえば、こいつ彼女の兄貴(義理の)だったんだよな……。と思いつつ、俺は返事を返した。

「お、おう……。会った……」

「そっか。よかった。一応、金常時君はそんなこといつまでも根に持つような人じゃないって言ったんだけど、サナちゃん根が真面目だから」

「そ、そか……」

 妙に俺のことを知った風な口を聞く坂本だったが、彼女に好印象を与えているので別にいい。それより、問題は俺だよ俺! 今朝、彼女にあんな態度とった挙句、放課後、知らない女からの呼び出しにウキウキ胸を躍らせたりなんかして……! 浮かれすぎて忘れてたけど、俺にはれっきとした(?)想い人がいるというのに!

 し、しかし……呼び出されている以上、無視をするわけにも……いや、しかし……いや……だああ! 一体俺はどうすりゃいいんだよお!

 そうこうしているうちに予鈴が鳴り、坂本は教室に戻っていった。そして「どうせだから、もうちょっと寝る」ともう午後の授業に出る気のない健一が、惰眠をむさぼる横で、俺は一人頭を抱えた。

 放課後、体育館裏に行くべきか。それとも行かざるべきか。

 ああ……。俺の中の悪魔が俺の耳元で「いっちゃえよ」とささやいてくる。しかし、俺の中の天使(もちろん早苗)がそれを制止する……。

 だあああ! 一体俺はどうすりゃいいんだよおお!  

 タイムリミットまで、残り二時間。刻々と、選択のときは迫っていた。



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