第14話:特殊能力解禁!(その3)
翌日、俺は少女との約束を果たすため、学校が終わってから(といっても、屋上で寝ているだけだが)すぐに例の場所に向かうはずだった。だが、グラウンドから響いてくる運動部員たちの濁り一つないかけ声や声援の端っこに、濁りきった怒声が含まれていること感じ取った俺は、校門をくぐろうとしていた歩を止めて、その怒声のした場所へ足を向けた。
「ごるあ!」
その濁りきった怒声、もとい、新種の珍獣のような鳴き声と人気のない校舎裏を結びつければ、そこでなにが行われているのかは見るまでもないだろう。
俺は複数の怒鳴り声がする校舎裏にたどり着くと、校舎の陰に身を隠して怒鳴り声の元を覗き見た。
「ごるあ! てめえ、かかってこいよお!」
「だめだよ、ちー君。こいつにそんな根性ないって」
「はは。そうそう」
やはり、珍獣スキンヘッドとその連れ2人が、1人の男子生徒を囲んで楽しそうに暴行を加えていた。ちょうど、珍獣スキンヘッドたちの影になって男子生徒の顔は見えなかったが、おそらくその男子生徒は喧嘩などとは縁遠い、善良な生徒なのだろう。男子生徒はなす術もなく地面にうずくまって、体を丸めたまま不良3人に足蹴にされ続けていた。
「ごるあ! てめえ、昨日言っといた金はもってきてんだろうな!」
一通り男子生徒を痛めつけ終えると、珍獣スキンヘッドは男子生徒のズボンのポケットから財布をひったくって、中身を取り出した。
「うおお! 見ろよこれ! マジで10万入ってやんの!」
「うっそ! マジで!」
「一気に大金持ちですかー!」
……おいおい。10万はちょっとやりすぎだろ。とる方もとる方だが、持ってくる方もどうかしている。と思っていると、馬鹿面をして浮かれた珍獣スキンヘッドは、その面に見合った馬鹿な台詞を吐き出していた。
「おい、ごるあ! てめえ、次は100万持ってこいよお!」
「ちょっと、ちー君。そりゃいくらなんでも無理じゃない?」
「そうそう。99万にまけてやったら?」
「じゃ、1万まけてやっか? おい、よかったなあ? だはははは!」
珍獣スキンヘッドは、馬鹿笑いしながら男子生徒の頭を蹴ると
「おっし! じゃあ、ゲーセンでも行こうぜえ! こんだけありゃ一生遊べるぜえ!」
などと、アホなことを言いながら10万円の札束を自分のズボンのポケットに押し込んだ。男子生徒は四つん這いに身を起こすと、悔しそうに歯を食いしばって珍獣スキンヘッドたちの後ろ姿をにらんでいた。だが、珍獣スキンヘッドたちの姿が見えなくなると、男子生徒は力なく顔を伏せた。
「……」
珍獣スキンヘッドたちのはしゃぎ声が、だんだん遠ざかっていく。俺はその声が完全に途絶えてから、まだ四つん這いの格好のまま顔を伏せている男子生徒の前に立った。
「あ……き、金常時……君……」
男子生徒は顔だけ上げて俺を見ると、弱々しく俺の名前を呟いた。
「……大丈夫か」
「う、うん……」
俺はまだ四つん這いになったままでいる男子生徒に手を差し伸べてやった。男子生徒はきょとんとした顔で、差し出された手と俺の顔を交互に見てから、おどおどと俺の手を握った。
「あ、ありがと――」
男子生徒が礼を言いきる前に、俺は握られた手を荒々しく振り払った。男子生徒が、突然のことに大きくバランスを崩して、その場にしりもちをつく。
「――情けねえな、お前」
「え……」
「黙って耐えてりゃ、そのうち誰かが助けてくれるとでも思ってんのか」
「……」
「少なくとも、俺はお前みてえな情けねえ奴は助けねえ」
「き、金常時君には……分からないよ……」
「あ?」
「君みたいな強い人間には分からないんだよお! 僕みたいな弱い奴は、一生誰かにいびられて……こづかれて……そうやって……そうやって生きていくしかないんだよお!」
男子生徒の目からは、ポロポロと涙がこぼれ落ちていた。俺は、しばらく男子生徒を見下ろしてから、小さくため息をついた。
「……じゃあ、ついてこいよ」
「え……」
「お前にいいもん見せてやるよ」