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プロローグ

「また、この季節が来たわね」

「……は?」

「……へ?」


春が来て、夏が来る。

夏が去ると、秋が来る。

秋が終われば、冬が来る。

そしてもう一度、春が来る。

そんなふうにして、季節は巡っている。


「また、この季節が来たわね」

「……病気か?」

カナは不審そうな顔をする。

「……どうしたの、ゆり?」

ひよりは首をかしげる。


「ふっ、行きましょうか」


それだけ言って、ゆりは暖かな陽光へと踏みだす。

迷わず、まっすぐ進む。

後ろ姿は端正で、思わず見とれてしまう。

長く、つややかな黒髪が、風にそよそよと揺れている。

脚は細く、雪のように白い。

人込みの中でも、彼女の歩みは、速くなることも遅くなることもなかった。

雑踏に紛れると、その姿は、まるで……。

まるで……。



「ひよりー! いつまで門の前に立ってるんだよー!」



カナの大声で、ひよりは我に返る。


「う、うん! 今行くー!」


ひよりは走り出す。

ゆりとカナのもとに。

制服の、青い新しいリボンが風になびく。



「ど、どうだった?」

「…残念だけど…」

ゆりが肩をすくめる。

「……そっか」

ひよりは苦笑いをする。

「まあ、そういう運命だったってことだ」

カナは神妙にうなずいている。


「………」


……アヤシイ。


「ちょっとごめん」

人を押しのけて、ひよりは掲示された紙の中から自分の名前を探す。

「……あった」

2年5組。

次に二人の名前を探す。

カナは?

ゆりは?


「いた!」



ひよりは振り向く。


「いない!」



あたりを見回す。


「ちょっと! どうして先に行くのよ!」

ひよりはクライアウトして、走り出す。


「おい、バレたぞ!」

「…カナがマジメなカオしたからよ」

「わたしがマジメな顔するのがそんなにおかしいか?」

「おかしいわ」

「……身もふたも無いな」


そこに、ひよりが追いつく。


「ちょっと! どうして先に行くのよ!」

「まあまあ、そんなに怒るなよ」

「…怒ると太るわよ?」

「どういう理屈よ!」

「まあ、落ち着けよ」

「あんたたちのせいでしょ! ちょっとくらい待ってよ」

「ちょっとは待ったわよ?」

「もうちょっとよ! どうせ行き先は同じでしょ」

「ああ、よかったよな」

「ほんと、『残念だけど…』って言われたときはびっくりしたわよ」

「あら、『残念だけど、今年も学校生活を静かには送れない』って意味よ?」

「ひよりがおしゃべりだからな」

「カナの方がおしゃべりでしょ」

「どっちもどっちよ」


そう言ったゆりのすまし顔が、ひよりには少しうれしそうにも見えた。

自分の感情を、彼女に投射しただけだろうか。

でも、今はそれでも、いいのかもしれない。



「おしゃべりさんたち、そっち側は1年生の下駄箱よ」

「うわ!」

「そうだった!」

「まだ1年生気分が抜けていないのね」

ゆりは、ため息をついた。




玄関に差し込む、うららかな春の日差しが、優しく三人を包み込んでいた。


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